あの“ワンオン挑戦”の前…ティイングエリアでの二人のやり取りは? 渋野日向子、メジャー優勝の舞台裏を聞く【青木翔コーチ・インタビュー】

あの“ワンオン挑戦”の前…ティイングエリアでの二人のやり取りは? 渋野日向子、メジャー優勝の舞台裏を聞く【青木翔コーチ・インタビュー】

青木翔コーチが快挙達成の舞台裏を語る(撮影:村上航)

<北海道meijiカップ 事前情報◇8日◇札幌国際CC 島松コース(北海道)◇6,531ヤード・パー72>

「全英AIG女子オープン」では、普段コーチを務める教え子・渋野日向子をキャディとして支え、一緒に海外メジャータイトルをつかんだツアープロコーチの青木翔。国内での凱旋試合を前に、今の心境、メジャー制覇の舞台裏、さらに渋野日向子という選手についてたっぷりと語ってもらった。


■大偉業を達成して
―偉業を成し遂げ、大フィーバーが起きていますが率直な感想は?
「僕らの頭が追い付かないくらいです。42年ぶりの日本人によるメジャー制覇ですし、そこそこは騒がれるかなと思いましたが、予想以上の反響でした」

―海外メジャーを制したという実感はありますか?
「優勝が決まった時はうれしいけど、『勝っちゃった』くらいの気持ちでした。どれほどすごいことを成し遂げたのかは、羽田に着いた時や、記者会見を見て改めて感じました。あんなにたくさんのフラッシュを浴びたことはなかったので(笑)。落ち着くまで本人は大変だと思うけど、試合に集中できるような態勢は整えてあげたいですね」
―コーチから見て渋野選手の体調は?
「あまり寝ることもできていないし、正直疲れはあります。これまでも注目はしてもらっていましたが、海外メジャーを獲ったことで、ゴルフ業界以外からも注目度はあがっています。そのなかで本人もどうしたらいいか分からないだろうし、気が休まらないという部分はあると思います」

―注目度は高まる一方です
「コーチである僕もテレビ番組に出させてもらったり、ゴルフの枠を越えています。偉業を成し遂げたことで注目してもらえるのはありがたいですし、スポーツ選手としていいことだとは思います」

■激動の4日間について
―では全英の話を聞かせてください。まず初の海外試合で、渋野選手にはどのようなアドバイスを送りましたか?
「特に何もしませんでした。経験を積んで欲しいという気持ちもありましたが、ありのままのゴルフで大舞台にぶつかって欲しかった。グリーン周りについては、少し準備はしましたが、芝への対策も立てませんでした。とにかくありのまま“どストレート”に。よそ行きのゴルフにならなかったことも、よかったのかなと思っています」

―そのなか初日6アンダーの2位タイといい滑り出しでした
「正直、あんなにいい滑り出しになるとは思いませんでした。『えっ……6アンダー!?』みたいな感じで(笑)。ただ、コースに対して、やりやすさみたいなものは感じていました。アース・モンダミンカップや、北海道のコースのような印象を持っていました。考えたのは、“グリーン上の芝目に気をつければいいかな”くらいでした」

―渋野選手のゴルフがしっかりとハマったんですね
「逆にしっかりとマネジメントを考えてやると、傾斜もありましたし難しいコースだと思いました。どれだけシンプルに考えられるかということを念頭に置いて、状況に応じて、その場その場で判断していきました。戦略なども練りませんでした」

―その後も好成績が続き、チームの雰囲気などに変化はありましたか?
「何も変わらなかったです。いつも通り、楽しく。本当に、そのままという感じでしたね」

―優勝が近づくにつれ、ピリついたりしそうなものですが…
「ただ最終日は、僕はプレッシャーを感じていました。ゴルフ業界に長く身を置き、この優勝がどういうものかも分かっていました。でも、後半になって、そのプレッシャーは忘れていました。純粋にあの子と楽しんでいましたね」

―コースでは、どんな助言を送っていましたか
「風を読んで、それぞれが測った距離をすり合わせたら、『あのエッジを越えるには、これくらいのヤードが必要だよ』とだけ伝えて、あとはゴー!です(笑)」

■12番パー4でワンオン狙い…渋野がコーチに言った言葉は?
―3番で4パットのダブルボギーを叩いた時は、どのような心境でしたか?
「貯金もあったし、1打リードされただけだったので、『あ、やっちゃった!…まっ、いっか』という気持ちでした。ずっと追われる立場よりは、追う時間があってもいい。ずっとバックナインがよかったので、焦りはありませんでした。4日間で、本当に『やばい!』と思ったのは最終日の12番のティショットくらいでした」

―ワンオンを決めた12番(パー4)ですね。確かにあと1ヤード後ろなら池、という状況でした。あそこはもともとワンオン狙いだったのですか?
「朝の時点で、本人は『ティが前なら狙いたい』と言っていました。実際にティが前だったし、風も左からのフォローで、ティイイングエリアで『行きたい』と言ってきました。『ここでいかないと私は後悔する。たとえ池に入ってダボを打っても、打たなかったらもっと後悔する』と。それで、じゃー打て、と答えました」

―かなりの覚悟が必要だったのでは?
「優勝するか、しないかではなくて、自分のゴルフを貫くという意思があったので、それで狙えと言いました。結果、池に入ってとしても、優勝はできなかったかもしれないけど、崩れてはいないと思います。それくらいの強い意志を感じました。おそらく、普通は止めると思う。ただ彼女の性格を知っているし、これを止めたら、ミスをすると思いました」

―あの日はリゼット・サラス選手、コ・ジンヨン選手もすごい勢いで追ってきました
「もちろん気づいていました。でもそれについての会話は『2打差だね』、『ですね』だけです。本人もスイッチが入っていましたし、ここからもバーディを獲るだろうな、と思っていました」

■あのクライマックスシーンの舞台裏
―そして最後、あのウィニングパットのシーンを迎えます。あの時はどのようなやり取りがあったんですか?
「6〜7メートルの下りのスライスで、けっこう曲がる位置についていました。打つ前に『(狙いは)この向きで合っていますか?』って聞かれたんです。最初、座りながらボールをセットしていたから、見えなくて、適当に『うん』って答えました。その適当に気づいたのか、『本当ですか!?』ってつっこまれてしまって。それで立ってもらって、確認したら大丈夫だった。あの時、笑っていたと思うんですけど、これで笑っていたんです」

―最後の最後まで笑いながらのプレーだったんですね
「あの土壇場で、今考えると何してるんだ!ですけど(笑)。でも、読みは一致していたので大丈夫という自信はありました。打った瞬間、『あ、入ったかも』と思いました」

―そして実際に入った後は、どんなことを考えていましたか?
「頭は真っ白でした。“勝った”ということは分かりましたが、“何に勝ったのか”が分からなくなりました。“メジャーに勝った!”というよりは、“この試合に勝った!”という気持ちだけでした」

■日本の育成システムが生んだメジャー女王に誇り
―渋野選手への指導で意識していることはありますか?
「基本的に攻めたいという選手なので、あまりそれに対してノーは言わない。ただ、ここは絶対ダメという時は、“やんわり”と止めます。『頼むから左に打って〜』みたいに柔らかい口調で(笑)」

―選手によって指導法を使い分けるなどはありますか?
「僕はきっちりするのが苦手なんです。ゴルフって細かくやろうと思えば、どこまででも細かく突き詰められるスポーツ。だから、どれだけシンプルに、簡単に考えてもらえるか、というのは意識している部分です。なるべく選手には簡単に考えてもらえるよう、話し方とかも一応気をつけています。僕自身が難しく言うのが嫌いなので、簡単に伝えるだけ」

―以前、指導を始めた頃(1年半前)の渋野選手の印象を聞いた時に「へたくそ」と言っていましたが
「最初は、へたくそでしたね。やることはやっているので結果が出てもおかしくはないとは思ってましたが、ただ想像は超えてますね。本当に今年はシードを獲れればよかったし、実際に開幕時はそれくらいの技量でした」

―今の技量は、その時からレベルアップしていますか?
「まったく違いますね。ショットの精度。再現性の高さ。リズムの取り方。だんだんとプレースタイルが洗練されていってる。自分がいいと思うゴルフと、自分に合うゴルフが合致しているという印象です」

―プロテストからまだ1年しか経過していませんが、すごい飛躍ですね
「全英の週にプロテストから丸1年を迎えました。結果が出て、勢い乗って、そのサイクルのなか彼女の能力は飛躍的に伸びました。すごいの一言です。重点的に取り組んできたのは、パッティングとショートゲームでした」

―青木コーチから見る渋野日向子という選手の強みはどこですか?
「思い切りの良さですね。決断して打つまでのテンポ、プレーの速さ。技術という部分を全部飛び越えて、あれが彼女の武器ですね」

―本当に日本ゴルフ界にとって大きな優勝でしたね
「僕が言うのもおこがましいですが、この優勝がゴルフ界にいい影響を与えてくれたらうれしいですね。彼女は、プロテストに合格し、ステップ・アップ・ツアーを戦い、今季のレギュラーツアー前半戦の出場資格を得た選手。日本ゴルフの育成システムが輩出したメジャーチャンピオンです。確かに海外にはたくさん強い選手もいるし、足りない部分もあるのかもしれないけど、日本のレベルが低いということは全く思いません。まぐれかもしれないけど、勝ったのは事実。日本ツアーのすばらしさは僕は感じています」

―これからの渋野選手に期待することは、どういうところですか?
「まずは今まで通り、日本ツアーで目の前の試合の1つ1つをしっかりと戦って、まずはしっかりと予選通過をして、状況を見て決勝ラウンドを戦っていって欲しい。こういう状況(メジャー優勝)になりましたが、自分を見失わず、渋野日向子らしく戦ってもらいたいですね」

<ゴルフ情報ALBA.Net>

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