初Vの比嘉一貴もお世話になった ツアー公認ベテラントレーナーの存在を知っていますか?【記者の目】

初Vの比嘉一貴もお世話になった ツアー公認ベテラントレーナーの存在を知っていますか?【記者の目】

比嘉一貴の初優勝の裏にトレーナーの力あり(撮影:佐々木啓)

「RIZAP KBCオーガスタ」でツアー初優勝を飾った比嘉一貴。前半の36ホールを終えた際、とても通算15アンダーで単独首位にいるとは思えない弱気なコメントを吐露していた。「ショットが右にも左にも大きく曲がるのに、原因が分かりません。いつ崩れてもおかしくない状態です」と悲壮な表情を見せた。ところが、3日目を終えたときには、その不安はすっかり消え去っていた。聞けば、トレーナーからのアドバイスで不調の原因が分かり、そこを修正した結果、ショットが曲がらなくなったというのだ。


ある意味、そのアドバイスがなければ、優勝スコアの大会新記録を更新するどころか、悲願だったツアー初優勝を達成できなかったかもしれない。もちろん、ゴルフはショットだけがすべてではないし、アドバイスを聞いてスイングを立て直した比嘉の対応力もすごいと思う。ただ、あれほどまでに表情の違いを見せられると、そのトレーナーに対して興味が湧いてくる。

比嘉がいうトレーナーとは、男子ツアーのオフィシャルアスレチックトレーナーを務める成瀬克弘氏だ。1992年から男子ツアーで初のフィットネスカーを導入した“イギア”のスタッフで、以来、男子ツアーの主管が日本ゴルフツアー機構に変わっても、フィットネスカーの運営・継続を維持してきた。2002年からは新たに株式会社プレジャーを立ち上げ、その代表取締役を務めているが、ツアーの現場で選手のケアを行うのは今年で28年目を迎え、これまで数多くの選手を見てきたという。

「通常は出場選手の34〜35パーセントくらいの人数がケアにきます。多いときで50パーセントぐらいですね。スタート前とラウンド後に選手がくるので、サスペンデッドになると、翌朝に残りを消化するため、朝の4時からケアを始めたりもします。スタッフが3人しかいないので、そこから夜の7時半ぐらいまでほぼ休むことなく稼働しています」

昼食の時間も10分ほどしかなく、コンビニで買ったおにぎりをほおばってケアに戻ることも少なくない。ツアーでケアを始めた当時は、まだパーシモンやメタルヘッドが主流の時代で、選手は下半身を大きく使ってスイングしていた。そのため、腰を痛める選手が多かったが、最近はクラブの進化からか、腕に張りを訴える選手が増えているという。

成瀬氏の話で驚いたのは、選手の体をケアするだけで、今どのようなスイングをしているのか分かってしまうことだ。動作解析に通じているからだが、たとえば、なぜそこに痛みを感じるのかを選手に説明し、こういう動きをしているからで、その動きを修正すると痛みは消えるといった話を理路整然と行う。比嘉にしても、ショットが好調だったときと体の張りが異なるため、実際にスイングを見なくても、スタンス幅を広くしていることに気がつき、そこからボールの位置が左にあること、ダウンスイングの切り返しで間が無くなっていることが分かった。比嘉はスタンスを狭めただけで、他の部分が自動的に修正できたのだ。

成瀬氏がいうように、選手が自分の動きを理解できれば、ケガを未然に防ぐ確率は一気に上がる。基本的に、調子がいいときは、悪い動きをしていないのでケガをしにくい。逆にいうと、いい動きをしていないからケガをするのだ。なぜいい動きができないのかといえば、そこにいろんな要素が加わるという。

たとえば、アゲンストの強い日にプレーしたとする。パンチショット気味にボールを打つことで本来の自分が持つタイミングに誤差が生じる。本来なら、インパクト重視のスイングになっていたわけだから、素振りをいつもより多く行うことでスイングのタイミングを取り戻せていたはずだ。ところが、そのことに気づかずに調子が悪いのはスイングのせいだとああでもない、こうでもないと試行錯誤するうちに、悪い動きになってしまうのだ。

「選手が自分のことを知っていれば、調子を落としても、ああ、ここがこうなっていたからだなと、自分自身で調整できるようになり、それがケガの予防にもなるわけです。そういう選手が一人でも多く増えてくれるとうれしいですね」

と成瀬氏。時間があるときは必ず練習場に足を運び、選手がどのように体を動かしているのかをチェックする。自分の体やスイングのことを的確に把握してくれるわけだから、比嘉に限らず、成瀬氏に対する選手からの信頼は相当厚い。けっしてスポットライトを浴びることはないが、選手がベストパフォーマンスを発揮するためにも、絶対に欠かせない存在であることは間違いない。(文・山西英希)

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