勝者の涙の背後にあった悔しさ、努力、社会への貢献【舩越園子コラム】

勝者の涙の背後にあった悔しさ、努力、社会への貢献【舩越園子コラム】

ケビン・ナの優勝が歓迎された裏には様々なドラマが…(撮影:GettyImages)

ラスベガスで開催された「シュライナーズ・ホスピタル・フォー・チルドレン・オープン」は、2011年大会覇者のケビン・ナが、17年大会覇者のパトリック・キャントレーとのプレーオフを2ホール目で制し、米ツアー通算4勝目を挙げた。


ナに対する人々の声援が一際大きかったのは、この地を「ホーム(故郷)」と呼ぶナが、日頃から地元社会に献身的に尽くしてきたからだろう。ラスベガスに本拠を置く小児病院が冠スポンサーを務める今大会で米ツアー初優勝を挙げたナは、傷病と向き合う子供たちを率先して励ましてきた。

今年も練習グリーン際で車椅子に座る少年と語り合うナの姿があった。骨形成不全症という難病と闘っている17歳のアレックくんが、スポーツ・リポーターになることを目指していると知ったナは、アレックくんに夢を体感してもらおうと工夫を凝らしていた。

「アレック、キミにプレゼントを持ってきたよ。これは、僕の特徴的な動きである”ザ・ウォーク・イット・イン”をデザインしたTシャツなんだ」

パットを打った途端にカップ方向へ歩み出し、カップインとほぼ同時ぐらいのタイミングですぐさまボールを拾い上げる近年のナのユニークな動きは、いつぞやタイガー・ウッズも苦笑しながらマネしていたほど選手やファンに知れ渡っている。

ナは、“ザ・ウォーク・イット・イン”と名付けたその動作をアレックくんに動画で見せた後、目の前でも実際に披露。そうやって選手の動きを観察し、リポートする体験をアレックくんに味わってもらっていた。

アレックくんが「2011年チャンピオン、ケビン・ナに聞いてみます。この地、この大会に対する想いを話してください」とリポーター調で問いかけると、ナは真剣な表情、真剣な口調で「僕はこのラスベガスが大好きです」と答えていた。

アレックくんはリポーターとして選手にインタビューする緊張感や臨場感を感じ、頑張ろうという想いを強めたのではないだろうか。「夢を叶えてほしい。きっと叶うよ」と力強く励ましながらアレックくんに右手を差し出したナの姿が、とても素敵だった。

17歳と言えば、ナが高校卒業を待たずにプロ転向した年齢だ。しかし、それから10年も彼は勝利を挙げられず、苦しいツアー生活を送り続けた。スロープレーヤーのレッテルを貼られたり、奇妙なワッグルを野次られたり批判されたり、辛い出来事が次々に起こった。だが、奇妙なワッグルの悪癖を、猛練習によって、わずか1週間で解消し、プレーペースを必死に速める努力を続け、そうやって彼は前進を続けてきた。

14年の「メモリアル・トーナメント」で松山英樹とのプレーオフに敗れた直後、悔しさを押し殺しながら日本メディアの私に「おめでとう」と声をかけてきたナの姿は、今でも鮮明に思い出される。

「これまで僕はプレーオフで3度負けた。今回、プレーオフで初めて勝った」

感極まり、言葉を詰まらせたナ。溢れ出した涙の背後には、長い間、かみ締め、抱え込んでいた悔しさや情けなさがあったのだろう。今大会では、今年のマスターズから使い始めたパターがさえ渡り、3日目には「61」の快スコアをマークした。

「キャディとの読みが合致した。ラック(幸運)も少しあった」

最終日は2位に2打差の単独首位でスタートしたが、10番でトリプルボギー、16番で池につかまり、2位へ後退。だが諦めず、淡々とプレーしていたら、プレーオフに突入し、最後はカントレーが3パットのボギーを喫し、パーを拾ったナが勝利した。

そのガッツポーズを眺めながら、アレックくんは、きっと大きな声でリポートの練習をしていたことだろう。

「ケビン・ナ、ウイニングパットを沈めました! 今大会2勝目、通算4勝目。プレーオフで敗北続きだったナが、ついにプレーオフを制して勝利しました!」

文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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