見ごたえあった最終組の戦い 緊迫の優勝争いで見えたそれぞれの“想い”【辻にぃ見聞】

見ごたえあった最終組の戦い 緊迫の優勝争いで見えたそれぞれの“想い”【辻にぃ見聞】

プレッシャーのかかる緊迫の優勝争いを制した鈴木愛(撮影:鈴木祥)

鈴木愛の今季5勝目で幕を閉じた、先週の「樋口久子 三菱電機レディス」。鈴木をはじめ、申ジエ(韓国)、小祝さくらと最終日最終組に入った3人が、そのままトップ3入りする激しい優勝争いが繰り広げられた。その激闘に、上田桃子、小祝のコーチを務める辻村明志氏もうなった。


■緊迫の優勝争い…終盤のせめぎ合いを賞賛
「見ごたえがある優勝争いでしたが、『ひさびさに最終組から優勝者が出るな』、という感覚がありました」。辻村氏は、ハイレベルな優勝争いを続けた3人を、まずは賞賛。そして、鈴木の最終盤のプレーの印象について話した。

前半を終え後続に3打差をつけていた鈴木だったが、10番に入りジエが怒涛の巻き返しを見せた。鈴木がバックナイン直後から伸ばしあぐねたのに対し、ジエは10番〜13番で3バーディ。さらに15番でボギーを喫した鈴木に対し、ここでもバーディを奪ったジエは1打差まで迫った。そして、そこからはコース内に緊張感が張りつめる、攻防戦が続いた。

16番では、ジエがピン70cmにつけるスーパーショットでバーディチャンスにつけるプレッシャーを受けながら、鈴木も2mのバーディパットを沈めて何度もガッツポーズ。17番でも1.5mと、これまた外してもおかしくはないパットを沈めてナイスパーセーブとした。そして最終18番。最後は、外すとプレーオフという1mのパーパットをねじ込んで優勝したが、鈴木自身が「ここが一番しびれました」と振り返るほど、スリリングなクライマックスだった。

このシーンについて辻村氏は、「あの場面で緩まずに打てるのはすごい」と感嘆の声をあげる。このパーパットは、3mほどのバーディチャンスを外し、「ジャストタッチだと思ったら1mもオーバーして『うわ〜、最悪』って思いました」(鈴木)という状況で回ってきたもの。そのプレッシャーは計り知れない。

「あの緊迫した場面でコントロールしないといけないのは“心”です。もうストロークの振り幅とかそういうことではない。ジャストタッチで1mオーバーするのは、そこまでの興奮やアドレナリンが充満しているから。これがない選手は勝てないけど、最後はコントロールすることも必要になります」(辻村氏)。それだけに、緩まずに放ったパットは印象に残るものとなった。

■ケガの功名 スイングがシンプルになった
さらに鈴木は、「今週はアイアンショットがよかった。狙い通り、いいラインにつける場面が多かったですし、ショットで獲ったバーディもかなりありました」と話したが、「試合を休んでいたことで、スイングがシンプルになりましたね」という変化を辻村氏も感じ取っていた。

先週の「NOBUTA GROUP マスターズGCレディース」で復帰するまで、左手親指痛で4週間ツアーを欠場していた鈴木。その間には、ゴルフから離れた生活も送ったが、これがいい方向に働いたと辻村氏は見ている。

「休んだことで、スイングに“欲がなくなった”ように見えました。つまり、『あれをしよう、これをしよう』という考えがなく、最終的な理想でもある“今できるスイング”に徹していたように感じた。どうしても試合が続くと、自分から打ちにいくという動作が出てしまう。本来は試合に出るなかで修正していく部分ですが、鈴木選手は休んだことで、そこをフラットにできたのかもしれませんね」

54ホールで46を記録したパーオン数などの数字だけでは測れない部分。そんなスイング時の“ゆとり”が、今季5勝目に鈴木を近づけた。

■賞金女王への執念を感じさせる申ジエ
また1打差の2位で大会を終えたジエからは、「賞金女王への執念が感じられる」と辻村氏は話す。それは最終18番パー5でもひしひしと感じることができた。

フェアウェイからのセカンドショットでは、「ピンに近い方がいいと思いました。勝負の時には挑戦しないといけないので」と3番ウッドを握り、“刻む”という選択肢を捨てたジエ。このショットは右に外れバンカーのアゴ付近に落ちたが、貪欲に勝利に向かう気持ちを象徴する場面となった。

「特に今は『少しでも多く稼いで2位との差を広げたい』、という強い信念を感じます。当然優勝が一番だけど、勝てなくても自分の状態のなかでベストの順位であがるという、執念はすごいですね」(辻村氏)

前半は勝負所のパターがわずかに外れ、鈴木にドンドン差を広げられた。しかし、ジエは「9番のボギーは痛かったですけど、そのおかげで、今の自分のパットのレベルが分かったので、その後参考にしていきました」とそこから猛追。あの終盤の熱戦を生んだ。

先週のマスターズGCレディスで、小祝のキャディを務めた辻村氏は、最終日にジエと同組で回った。「その時、パットが一筋外れる場面をけっこう見てきた。そしたら今週すぐにパターを替えてきましたね。1つ決めて、イメージがハマってくると、グリーンの読みも良くなるのでしょうか。そこから立て続けに入れてくるのは、ほんとうにすごい」。ジエの底なしともいえる実力に、辻村氏も驚きの声だ。

■“心・技・体”のバランス整った小祝…チャンスはまた来る
そして2打差の3位に終わった、“愛弟子”小祝には「あの戦いを肌で感じることができたのは、いい経験になる。この経験が次の技術を生みますからね」と激励の言葉をおくった。

小祝自身は、「50〜100ヤードの精度と、しびれるパーパットをしっかりと決めるところ」に2人との差を感じたとラウンド後話した。そして惜敗ながら、「5打くらい差をつけられた気分です」と本音をもらした。

「戦う相手との差を感じるのは、なかなかできないこと。しかも最終日最終組のプレッシャーのなかで感じることは、もはや理屈では言えないもの。経験するしかないですから」。この優勝争いが、今後の成長の糧になると辻村氏も信じている。

小祝は大会中、ショットの際に「コーチに言われて、今は“ピンに氣を通すこと”を意識しています」という表現をしていた。これについてさらに聞かれると「言葉にするのは難しい」と前置きしながらも、アバウトにではなく、ピンを差すために集中していくイメージを説明していた。

今季初優勝をおさめたが、その後、「CAT Ladies」での予選落ちなど2カ月ほど「ショットが散っていた時期もありました」(辻村)と苦しい時間も過ごした。だが「そこで修正できた部分もあるし、練習内容を明確にできたから、決して無駄な時間ではなかった」と、今“コーチ”は振り返る。そして、2勝目への「最後の1ピース」が、小祝も話した“ピンへの集中力”だと辻村氏も口にする。

「体のコンディションもいいし、技術もあがっている。そして、ピンを差す精神もついてきたから、心・技・体のバランスはすごくいいと思います。残り試合でチャンスがまた回ってくると思います」。そう言って、再び優勝争いへの挑戦権を得ることに、自信をみせた。

解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、永井花奈、小祝さくらなどを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。著書には『ゴルフ トッププロが信頼する! カリスマコーチが教える本当に強くなる基本』(河出書房新社)がある。

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