世界中が驚いた渋野日向子のスマイル 全英勝利後は思わぬ事態に戸惑いがあふれた【プレーバック・渋野日向子2019 8月編】

世界中が驚いた渋野日向子のスマイル 全英勝利後は思わぬ事態に戸惑いがあふれた【プレーバック・渋野日向子2019 8月編】

全英優勝直後の会見で笑顔を見せる渋野日向子(撮影:村上航)

はじめての海外試合に挑む渋野日向子にはプレッシャーなど一切なかった。「予選通過できればいい、という感じです」と話していた通り、まずは「学ぶ」姿勢で乗り込むはずだった。


初の海外女子メジャー「全英AIG女子オープン」。のちに、「人生が変わった1週間」と表現した大会は、そんな気持ちで乗り込んだ場だった。結果を求めるよりも、世界との差を知る機会と捉えていた。

楽な気持ちで乗り込んだはずだったが、思ったよりも海外の生活が渋野にとってはストレスになり、「早く日本に帰りたい」という気持ちが募っていく。そんななかでも、コースにいるときの渋野は明るかった。調子も悪くなく、いつしか目標は翌年の出場権を得られる15位以内へと変わり、いつもと変わらぬ調整を重ねた。

大会初日。早いスタートとなった渋野は、快調にスコアを伸ばし、上がってみれば「66」の6アンダー。ホールアウト時点でトップに立ち、全選手のプレーを終え首位と1打差の2位タイと、最高のスタートを切った。

「自分でもびっくり。なんでこんなにバーディが獲れているのかと、気持ち悪かった(笑)」と、7バーディ・1ボギー。後半は3連続に加え上がり2連続バーディという内容だった。「傾斜を使って攻めようとか考えたけどダメだったので、後半はぜんぶピンを狙いました」と、持ち前の前向きなゴルフでバーディを量産。日本のルーキーに一気に期待が集まり、海外メディアも渋野を気にし始めた。

ビッグスコアの次の日にはスコアを崩すことが多いと話していた渋野。2日目は4バーディ・1ボギーで、きわどいパーパットも決めながらの「69」。トータル9アンダーは首位と3打差ながら、堂々の単独2位で決勝ラウンド進出を決めた。「緊張していた」と明かし、「いまの順位にいたら優勝は必然的に意識します」ともらした渋野。日本人42年ぶりの海外女子メジャー制覇に大きく前進したが、それでもまだ、あんな結末が待っていようとは誰も思っていなかった。

日本から来たツアールーキーの快進撃は現地でも大きく報道された。特にそのプレーの速さと小気味良いプレースタイル、そしてなんといってもあのスマイルが、イギリスのファン、そして世界中のファンを魅了した。2日目のあと、そんな渋野が現地メディアから質問を受けた際、通訳を務めた者が発した「スマイリング・シンデレラ」という言葉が現地で大きく取り上げられ、その後、渋野の笑顔がコースでも大きな話題となった。

単独2位から決勝ラウンドをスタート。最終組のスタートは午後2時50分だ。「こんな時間からスタートするのは初めて。1日の半分が終わってしまっているのに(笑)」とスタートした渋野は、なんとこの日「67」をマークした。初海外、初メジャーのプレッシャーを感じさせない、伸び伸びとしたプレーで、リーダーボードの最上位に浮上した。

「きょうが日曜であれ?と思っていたんですけど、日曜日じゃなかった(笑)。あしたも絶対緊張すると思うけど、最後まで攻めて、頑張れば優勝できるかもしれない。この位置なら優勝を狙わないわけにはいかないので…」

複雑な気持ちを抱いていたのは渋野自身だった。まさか3日目を終えて単独首位に立つと誰が予想しただろうか。ギャラリーの声援一つ一つに応えながら、プレーに入ると引き締まった表情に戻り、ピンを攻める。ホール間では小さい子に自ら近づきファンサービス。日本から来たシンデレラゴルファーの快挙は間近だった。現地でも、もはや渋野以外の話題を見つけるのが大変なほど、人気は急上昇していた。

運命の最終日も最終組。昼にコース入りした渋野は、思いのほかリラックスムードに包まれていた。スタート前のルーティンをこなし、1番ティに立ったときも晴れやかな笑顔。第一打をフェアウェイど真ん中に置くと、今後も語り継がれる、18ホールが始まった。

序盤は静かな展開が続き、迎えた3番では強気のパットがオーバー。返しも入らず、さらにその次も外しなんと4パットのダブルボギーを喫した。2打差の2位で前半を終了。3日間通じて、前半ではスコアが伸び悩み、後半に爆発するというのが渋野スタイルだった。この日も「ここで切り替えられた」と、10番で6メートルのバーディパットをねじ込み、流れを変えてみせた。

11番のパー5でバーディを取り損ねた渋野は、12番の短いパー4で勝負に出た。グリーン手前から右に池が流れるなかで、ティショットでドライバーを抜き1オンに挑戦。「ここで打たなかったら後悔すると思った」という一打は、池をかろうじて越え、10メートルにつく。これを2パットで収めバーディとすると、その後もバーディラッシュ。17番を終えて、首位に並び最終ホールに突入した。

18番のティショットでもドライバーを振り抜きフェアウェイのど真ん中をヒット。その2打目地点では、キャディを務めたコーチの青木翔氏と冗談をいいあい、最高の笑顔を見せた。「ワンタッチでした(笑)」と少しダフってのショットは、ピン手前6メートルに着弾。そして、あのあまりにも有名な壁ドンバーディパットを沈めて、優勝を決めた。

日本国内でもシンデレラストーリーの途中だった。「私でよかったのでしょうか」とツアー初優勝をメジャーでかなえた直後に語っていたが、今度は海外メジャーを制覇。笑顔のまま、最高のストーリーを締めくくった渋野は世界的なシンデレラとなった。

日本人のメジャー制覇にこれほどまでに国民が沸くのかというほど、大シブコフィーバーが日本列島を襲った。渋野の帰国を待つ羽田空港には大勢のファンが詰めかけ、「見たことある景色でした。芸能人になったみたいでした(笑)」と、自分が成し遂げた快挙がどれほどのインパクトを与えたかを実感。「全英には学びに行ったのですが、何か学んだかな(笑)」と思い出せないほど、夢のような1週間を振り返った。

帰国直後、国民的ヒロインとなっていた渋野に注がれる視線は、想像をはるかに超えた。連日、テレビで取り上げられ、次戦の会場「北海道meijiカップ」でも、厳戒体制がとられた。どこに行ってもハリウッドスターかジャニーズを追いかけるかのような状態には戸惑いを感じた。なんとか帰国初戦は3日間を完走。体調を崩しながらも、それまでに浴びたことのないスポットライトを浴び続けた、

そして迎えた帰国2戦目の「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」。心が洗われる観光名所に行ってみると、「10分でバレました」。コンビニへの買い物もできる状態になく、ストレスがたまっていく。そんな中でも、ゴルフに対する姿勢はもちろん変わらず。大会史上最高のギャラリー数が詰めかけた本戦には、再びシンデレラのゴルフが戻っていた。

初日を「67」にまとめ7位タイでスタートすると、2日目も「68」とスコアを伸ばし、2位タイ。最終日は最終組からのスタートとなった。会場周辺には渋野見たさのギャラリーがあふれ、会場内は騒然とした。渋野のスタートが近づくと、コース内を駆け回るギャラリーが大声援を送り続け、それに応えるように渋野も前半からスコアを伸ばしていく。

後半に入るとギャラリーの数は膨れ上がっていく。渋野のプレーもボルテージが上がったようにバーディを取り続け、17番を終えた時点で首位。全英と同じ状況で、入れれば優勝、2パットでプレーオフというグリーン上の勝負で、まさかの3パット。1打差でプレーオフ進出を逃し、涙を流した。

翌週は空き週として、向かったのは月末の北海道「ニトリレディス」。ここでは歯の痛みを発症し、病院に駆け込んだが、後にこれは副鼻腔炎と診断され、その後も体調不良に悩まされた。ニトリはなんとか乗り切り、そんな中でも5位に入ると、あの歴史的な大逆転勝利を挙げた9月へと突入する。

【8月の成績】
■※全英AIG女子オープン
優勝
■北海道meijiカップ
13位タイ
■NEC軽井沢72ゴルフトーナメント
3位タイ
■ニトリレディス
5位
(※は海外メジャー大会)

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