涙が女を強くする!? 31歳の“壁”に阻まれた20歳の初優勝【現場記者の“こぼれ話”】

涙が女を強くする!? 31歳の“壁”に阻まれた20歳の初優勝【現場記者の“こぼれ話”】

涙に暮れた1年前の吉本ひかる この悔しさが糧となる(撮影:佐々木啓)

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、国内だけでなく世界各国で中止が余儀なくされているゴルフトーナメント。なかなか試合の臨場感を伝えることができない状況が続いています。そんな状況ではありますが、少しでもツアーへの思いを馳せてもらおうと、ツアー取材担当記者が見た選手の意外な素顔や強さの秘訣、思い出の取材などを紹介。今回は、1年前に見たハタチの涙の物語です。


昨年の「フジサンケイレディス」大会終了後の表彰式。ここに、2日目までの最高成績者として参加していた当時20歳の吉本ひかるプロは、両手で顔を覆い、人目もはばからず悔し涙を流しました。2日目終了時点で2位に2打差の単独トップに立ちながら、最後は7打差をひっくり返した申ジエプロの前に屈したのがその理由です。

この時、吉本プロは、まさに絶好調でした。大会前の5試合中4試合でトップ10入りを果たし、さらに前週の「KKT杯バンテリンレディス」も2位。そんななか迎えたのが、この静岡での大会だったのです。また、「フジサンケイレディス」といえば、ツアー初優勝者を多く輩出しており、現在の川奈ホテルGCに会場が移った2005年以降だけを見ても、8人もの選手がここで初の歓喜を味わっています。“調子”と“ジンクス”。これがうまく重なりあっていることを感じつつ、戦況を見守っていたことを覚えています。

しかし結果は、先に述べた通り。「ショットをグリーンになかなか乗せることができず、苦しかったです。緊張はしてないつもりでしたけど…今振り返ると、あったのかもしれません」。吉本プロは、1つスコアを落とし2位タイに終わったラウンドをこう振り返りました。ただそれ以上に、この日の申プロのプレーは、鬼気迫るもの。圧巻のラウンドで元世界ランク1位の“威厳”を見せつけました。

優勝会見の席で、その日31歳の誕生日を迎えた申プロに、私はこんな質問をしました。『若手選手の壁になりたいという気持ちは、ありますか?』。その前年に行われた「ゴルフ5レディス」で、プレーオフの末、申プロに初優勝を阻まれた小祝さくらプロのことも頭に浮かべながらの言葉でした。すると、申プロは口元に少し笑みをたたえながら、迷いもなく「その気持ちは強いです」と答えたのです。そして、柔和な表情を保ちながらこう続けました。

「後輩たちに多様な技術を見せることも、私の役目だと思っています。こういった戦いは必ず吉本選手のためになるし、彼女にとって“薬”になるはずです。私も優勝より2位、3位の方が多い。その経験があるから、強くなりたいと思い続けることができました」

“悔しさを糧に”とは、よく見聞きする表現です。小祝プロには、そのゴルフ5レディス翌週の「日本女子プロゴルフ選手権大会コニカミノルタ杯」会場で、プレーオフについて話を聞いていました。そのやりとりのなかには、「次の会場に移動する車のなかで泣きました」という言葉も。当然のことかもしれませんが、「あまり感情を出さないようプレーしている」という小祝プロだけに、その時は少し意外に感じたことも今思い出します。そしてこの経験を経て、翌年の「サマンサタバサレディース」で見事ツアー初優勝をつかみました。

「私、泣き虫なんです」。最後、そう茶化すように話した吉本プロ。あの涙の現場に立ち会った者の一人として、これを“糧”に、今年はうれし涙を流す21歳の姿が見られることに期待したいと思います。

ちなみに、この翌週、吉本プロは全国放送で号泣シーンが流されたことについて「めっちゃ嫌でした、あれ(笑)」と話しました。それを1年後に蒸し返したのが、この原稿というわけです。次に会場で見かけた時には、一度謝らないとな、そう思っています。そして、その日が一日も早く訪れるよう、再びスポーツ界に灯がともることを今は願います。(文・間宮輝憲)

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