優勝争いでも屈託のない笑顔 『楽しむ』ことは強さなのか【記者の目】

優勝争いでも屈託のない笑顔 『楽しむ』ことは強さなのか【記者の目】

楽しく回るのが古江彩佳の強み(撮影:上山敬太)

数年前まではほとんどいなかったタイプの選手がまた勝った。トーナメントは真剣勝負の場。一つ勝てば人生が変わる舞台。上田桃子の言葉を借りれば「試合は戦い」。そんな優勝争いのなかで、いいショットをしても笑顔、ミスをしても笑顔。時には体をくねらせる。そう、史上3番目の若さで2週連続優勝、そしてツアー通算4勝目を挙げた古江彩佳だ。


古江には、優勝争いに挑む前日に目標を聞かれると必ず言う言葉がある。「あしたも楽しんでやりたい」。優勝したい、10アンダーで回りたい、相手に負けないようにしたい…。そういったことよりも『楽しむ』ことを優先する。

古江を筆頭に今の若い選手たちは、この『楽しむ』ということをよく口にする。だが、ある年齢以上の選手にはなかなか当てはまらない。34歳の上田が「私は楽しむということはなかなかしっくりきません。年齢的な違いもあるのかな。楽しめるのはいいことだと思いますが、私が楽しいのは趣味。ゴルフの試合は戦い」と言えば、32歳の菊地絵理香も「楽しむというのはなかなか難しいですね」と同意する。

そもそも『楽しむ』とは何なのか。この言葉にはたくさんの意味がある。広辞苑に「満足で愉快な気分である。快い」、もしくは「豊かである。富んでいる」と出てくるように、多種多様な使われ方をしている。では、古江はどんな意味で考えているのか。今季初勝利を挙げた「デサントレディース東海クラシック」の優勝会見で、どうやったら『楽しいラウンドだったと言えるのか』を聞かれたときにこう答えた。

「一日を終えてというよりかは、1打1打ミスしても、いいショットを打っても楽しく、前向きに考えられることが楽しくできることかなと思っています」

これを聞いて、すごく能動的だと感じた。優勝できて「楽しい」ではない。いいショットができて「楽しい」でもない。何が起きても、自分で「楽しむ」。悪いことがあっても、その状況を常に前向きに考えるということだ。そう捉えるとしっくりくる。この違いはとても大きい。

実は、上田はこれに似たようなことを前週の「伊藤園レディス」でキャディを務めた辻村明志コーチから言われていた。「ゴルフは悪くないけど雰囲気が悪い。1つのミスからガクンとなっているから、自分に期待が大きすぎるんじゃないか」。そこで今大会では、楽しむ、まではいかないが、一喜一憂せず「いい雰囲気」で戦うことを心掛けた。不運なことがあっても気持ちを切らさずにやった結果、国内ツアーでは今季の最上位となる3位タイに次ぐ6位タイに入った。もちろん、それ以外の要因もあるだろうが、調子がようやく結果へとつながった。

一方の菊地は、優勝争いで前向きになることができなかった。「最初にチャンスで外して、『こういうところだよな『って自分で思ってしまって…。その後すぐにボギーがきた。そこが大きかった。厳しかったです。その後は気持ちが下がらないようにするので精一杯でした」。1つの悪い状況を引きずり、逃げる古江を追いかけるメンタルを作れなかった。「今日のラウンドはスキばっかりでした」と反省を口にした。そして、こう続けた。

「古江さんしかり、笹生優花さんにしても楽しんでやっていました。私にはなかなかできない。本当に勉強になりました。正解はないですが、そういうのを取り入れてやれば私ももっとできるのかなと思います」

菊地がいうように、絶対こうあるべきというものではない。タイガー・ウッズ(米国)のようにひとまず10秒だけ怒る、というやりかたもあるだろうし、渋野日向子のようにボギーの怒りを力に変えてバウンスバックを決める選手もいる。スコアを出すためのメンタルコントロールの方法は人それぞれだ。

だが、悪いことが起きても前向きに考えることで、状況が好転するケースは少なくない。ミスしても切り替える。それが古江のボギーの少なさ、スキのなさにつながっている。菊地もラウンド中に笑顔を見せるということではなく、気持ちの切り替えや前向きな姿勢を取り入れたいということだろう。

古江がプレー中に見せる屈託のないゴルフを楽しむような姿に『真剣勝負の場なのに…』と思ってしまう人もいるかもしれないが、彼女の『楽しむ』がツアー屈指の安定感へとつながっている。そして『楽しむ』ことは一見、簡単そうに思えるが、なかなか難しいことでもあることを付け加えておく。(文・秋田義和)

<ゴルフ情報ALBA.Net>

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