帝王ニクラスも気遣った「波乱」と「動揺」、勝者と敗者【舩越園子コラム】

帝王ニクラスも気遣った「波乱」と「動揺」、勝者と敗者【舩越園子コラム】

ニクラスがキャントレーを祝福(撮影:GettyImages)

帝王ジャック・ニクラスが大会ホストを務める米ツアーのザ・メモアリルトーナメントは波乱続きだった。


最大の波乱は、2位に6打差の単独首位で3日目を終えたジョン・ラームが新型コロナウイルス感染症と告げられ、棄権を余儀なくされたこと。

ラームは悪天候で不規則進行になった第2ラウンドの16番でホールインワンを達成。その勢いのまま、第3ラウンドを64で回り、米メディアは「2位に6打差のビッグな“ソーシャル・ディスタンス”を取って首位を走るラーム」という見出しまで用意していた。
しかし、ラームが54ホール目を終えるときには、すでに彼が第2ラウンドと第3ラウンドの間で受けたPCR検査の結果が「陽性」を示していた。

前週、濃厚接触者となったラームは、米ツアーが定める経過観察下に置かれた状態で今大会に臨み、毎日のPCR検査が義務づけられていた。陽性と判定されても彼は無症状だったが、陽性である以上は即座の棄権と隔離が求められる。辛い「宣告」を受けたラームは、規則に従って大会を棄権し、ミュアフィールド・ビレッジから去っていった。

最終日。ニクラスはそんなラームを気遣い、「優勝トロフィーの4分の3を送ってあげたい気分だ」と言った。さらにニクラスは「ラームがこんなことになって、彼から6打差を付けられていたのに、突然、優勝を競い合うことになった彼らの胸の中も揺れているはずだ」と優勝争いをしていた選手たちを気遣った。「彼ら」とは、コリン・モリカワとパトリック・キャントレーを指していた。

24歳のモリカワは2019年に米ツアーデビューし、このミュアフィールド・ビレッジで開かれた2020年ワークデー・チャリティ・オープンでは強豪ジャスティン・トーマスを見事に下した。さらには全米プロを制してメジャーチャンプとなり、米ツアー通算4勝の実力者となった。

29歳のキャントレーはこれまでに通算3勝を挙げており、そのうちの1勝は2019年のメモリアルトーナメントだった。

つまり、モリカワもキャントレーもミュアフィールド・ビレッジで勝利した経験があり、モリカワの4勝のうち3勝はニクラス設計のコースで挙げたもの。どちらもコースとの相性は抜群だ。

しかし、今年のミュアフィールド・ビレッジは大改造されており、ニクラスいわく、「難しくするつもりはなかったが、いいコースにしようとしたら難しくなってしまった」。

モリカワもキャントレーも最終日の序盤は出入りの激しいゴルフになった。ニクラスが指摘したように、少なからず動揺はあったのだろう。だが、2人とも淡々と戦い続け、ともにトータル13アンダーでサドンデス・プレーオフへ突入した。

1ホール目の18番。フェアウエイからの第2打をグリーン左に外したモリカワは、3打目で寄せた後、1.5メートルのパーパットを沈めることができなかった。

一方、キャントレーはティショットを大きく右に曲げてラフにつかまり、第2打はグリーン左のバンカーにつかまった。しかし、3打目をピン2メートルへ付け、しっかり沈めて勝利。ピンチをチャンスへ変え、通算4勝目を手に入れた。

「ラームの一件は信じられない出来事だったけど、僕は僕で動揺をリセットし、集中し直そうと努めた。なんとか心を沈めてプレーできたことが勝利につながったのだと思う」

勝者キャントレーを笑顔で讃えたニクラスは、その直後、惜敗したモリカワを「コリン!コリン!」と呼び寄せ、彼の肩や腕を何度も優しくポンポンと叩きながら讃えた場面がとても印象的だった。

「私は優勝した回数より2位になった回数のほうが、はるかに多い」

そんなニクラスの口癖のようなフレーズは、モリカワの悔しさを癒す手助けになったのではないだろうか。

「悔しいけど、パトリックのプレーは見事だった。僕は僕で自分のプレーを誇りに思う。僕もグッドショットを打てていた。でも今日は、終始、ちょっとだけ計算が狂っていたから勝てなかった。ゴルフは、そういうクレージーなゲームなんだ」

いいショット、いいパットが打てなくても、それでも勝てることはある。だが、いいショット、いいパットが打てていても、それでも勝てないこともある。いろんなことが起こるゴルフは、モリカワが言った通り、「クレージー」なゲームだ。その中で、どこまで我慢できるか、どこまで頑張れるか。

やっぱりゴルフは、最後は我慢比べだ。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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