スコッティ・シェフラーの受賞シーンが物語る「光と陰」【舩越園子コラム】

スコッティ・シェフラーの受賞シーンが物語る「光と陰」【舩越園子コラム】

マスターズを制覇したシェフラーのそばでは、愛する妻が見守っていた (撮影:GettyImages)

PGAツアーの2022年プレーヤー・オブ・ザ・イヤーに選出されたのは、26歳の米国人、スコッティ・シェフラーだった。


事前に発表された受賞候補者には、シェフラー以外にローリー・マキロイ(北アイルランド)、キャメロン・スミス(オーストラリア)の名が挙げられ、LIVゴルフに移籍したスミスがノミネートされたことを批判する声も上がっていた。

しかし、プレーヤー・オブ・ザ・イヤーはPGAツアーの選手投票によって選ばれることを考えれば、スミスが選ばれる可能性は、そもそもゼロに近かった。

それでも彼をノミネートしたのは、PGAツアーのフラッグシップ大会であるザ・プレーヤーズ選手権とメジャー大会である全英オープンを含む年間3勝という実績そのものが、移籍云々とは無関係に「素晴らしい」ということを否定したくないPGAツアーのプライドだったのだろう。

プレーオフ・シリーズ最終戦のツアー選手権を制して年間3勝を挙げ、自身3度目の年間王者に輝いたマキロイをノミネートしたことも、PGAツアーの誇りの表れだった。

だが、マキロイ自身はイーストレイクで勝利を挙げた直後から「プレーヤー・オブ・ザ・イヤーにふさわしいのは僕ではなくスコッティだ」とシェフラーを高評価。そんなマキロイ同様、PGAツアーの選手たちの実に89%以上がシェフラーに票を投じた。

今年のWMフェニックス・オープンで初優勝を挙げると、次々に2勝目、3勝目を達成。マスターズを制覇してメジャー初優勝と通算4勝目を挙げたシェフラーの快進撃は目覚ましいものだった。

プレッシャーにさいなまれ、3日目の夜には食べたものを吐き、最終日の朝には愛妻の胸の中で子どものように泣いた彼が、いざオーガスタ・ナショナルGCでティオフしたら堂々の勝利を飾ったという人間味あふれる優勝秘話は、後世まで語り継がれることだろう。

シェフラーは2019年にコーンフェリー・ツアーのプレーヤー・オブ・ザ・イヤーを受賞。2020年にはPGAツアーのルーキー・オブ・ザ・イヤー、そして今回はプレーヤー・オブ・ザ・イヤーを受賞。史上初の3冠達成となった。

ちなみに、PGAツアーのルーキー・オブ・ザ・イヤーはアーノルド・パーマー・アワード、プレーヤー・オブ・ザ・イヤーはジャック・ニクラス・アワードと呼ばれているのだが、面白いなと感じさせられたのは、その栄えあるジャック・ニクラス・アワードを受賞した場所が、彼の母校テキサス大学が難敵アラバマ大学を迎えて激突するカレッジ・フットボールの会場だったことだ。

そこへ詰め寄せていた大勢のフットボール・ファンや母校の同窓生に囲まれながら、ニクラス像を受け取ったシェフラーは「今朝、受賞を聞いて、信じられない想いだった」と喜びを語った。

その姿は、ゴルフとフットボールではフィールドこそ異なるものの、カレッジ・アスリートやその予備軍となる子どもたちへの刺激となり、夢を与えたのではないだろうか。

大学ゴルフからコーンフェリー・ツアーへ、そしてPGAツアーへという道筋がしっかり整備されているからこそ、PGAツアーの選手層は厚くなり、シェフラーもその道を通ってビッグスターになった。

大学ゴルフとプロの世界をつなぐ緻密なシステムも、パーマー、ニクラスといったレジェンドの名を冠した栄誉も、PGAツアーが半世紀以上にわたって培ってきた努力の結晶であり、シェフラーの今年の活躍と功績は、そこから生まれた結実である。

いわばシェフラーはPGAツアーの歩みと実績を如実に物語る最高のアンバサダーだ。栄冠や名誉のみならず、1400万ドル超の賞金に各種ボーナスを加えた総額2479万ドル(約35億円)を手に入れ、名実ともに充実しきっている彼の雄姿に、大勢のカレッジ・アスリートたちの視線が釘付けになっていた。

LIVゴルフへ移籍した選手たちが、そうやってカレッジ・ゴルファーや下部ツアーの若者たちの輪の真ん中に立ち、彼らの理想像として羨望と賞賛の視線を向けられることは、少なくとも当面は、きっとないだろう。

そう考えると、ゴルフの歴史上、見られたかもしれない素敵なシーンの数々が、披露されることなく消滅してしまったように感じられ、そこに淋しさが漂う。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

<ゴルフ情報ALBA.Net>

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