たとえ「無名」でも、素敵なドラマ【舩越園子コラム】

たとえ「無名」でも、素敵なドラマ【舩越園子コラム】

最終日最終組で回り、敗れたパトリック・ロジャース(左)と勝ったアダム・スベンソンが健闘を称え合う(撮影:GettyImages)

米ジョージア州のシー・アイランドGCで開催された「ザ・RSMクラシック」は、PGAツアーの2022年を締め括る大会となったが、戦いの舞台に世界ランキング上位20位以内の選手は皆無だった。


選手の知名度や勝利数、そして世界ランキングから見れば、「淋しいフィールド」だったと言わざるを得ない。しかし、だからと言って、そこにドラマがなかったかと言えば、決してそうではなかった。

最終日を首位タイで迎えた30歳の米国人選手パトリック・ロジャースは、2011年にハイスクールを卒業した「クラス・オブ・2011」の1人で、ジョーダン・スピースやジャスティン・トーマスらとともにジュニア時代を過ごした同期生だ。

タイガー・ウッズの母校、スタンフォード大学のゴルフ部時代、カレッジゴルフでウッズに並ぶ通算11勝を挙げ、大きな注目を浴びながらプロの世界に飛び込んだ。

しかし、勝てそうで勝てないことの連続。ザ・RSMクラシックの18年大会でも優勝争いに絡んだが、惜しくもプレーオフで敗れた。

以後も諦めることなく戦い続け、そして今年のザ・RSMクラシックで、またしても勝利に迫った。「優勝のチャンスを作ること、得ること。そのために僕はゴルフをしている」。

だが、最終日にスコアを伸ばせなかったロジャースは、終わってみれば10位タイ。イーブンパーのゴルフでは、勝てないどころか、1位から10位へ転落してしまう。それがPGAツアーのフィールドなのだ。

たとえ世界ランキングがトップ20以内ではなくても、自分のゴルフを披露することができた選手たちは、驚くほどの猛チャージをかける。未勝利でも、まだ無名でも、それができる選手たちがひしめいており、その中で最高のプレーをした選手が勝利する。

そうやって初優勝を遂げたのが、カナダ出身の28歳、アダム・スベンソンだった。

米フロリダ州のバリー大学に留学していた時代、スベンソンはカレッジゴルフで通算9勝を挙げ、2015年に鳴り物入りでプロ転向。しかし、下積み生活は想像以上に長引き、PGAツアーに辿り着いたのは2019年からだった。彼もまた勝てそうで勝てないことの繰り返しになったが、ネバーギブアップの精神で食い下がってきた。

今週は初日に3オーバー「73」を喫し、108位と大きく出遅れた。それでも諦めず、2日目「64」、3日目「62」と追い上げ、首位に1打差の3位タイで迎えた最終日は「ひたすらノーボギーのラウンドを目指して戦った」。

「優勝」の二文字を意識しすぎて崩れた過去の苦い経験を生かし、この日は意識を「ノーボギー」に向けたことが功を奏した。

4番、8番でバーディを奪うと、後半は「信じられないほどボールがカップに吸い込まれた」。10、11、16、17番でもバーディパットを沈め、2位に2打差で迎えた18番をしっかりパーで収め、夢にまで見た初優勝をついに成し遂げた。

「とてもうれしい。これまでの人生は山あり谷ありの長い旅だったけど、PGAツアーで勝つことは大きな意味がある。入るとは思わなかったパットが何度もカップインしてくれた。きっとゴルフの神様が沈めてくれたのだと思う」

目と鼻を真っ赤に染めながら「ゴルフの神様」に感謝するスベンソンの姿は、PGAツアーを目指して必死に腕を磨いているジュニアやカレッジゴルファー、下積み中の選手たちに、勇気とやる気をもたらしたに違いない。

もちろん、眺めていたゴルフファンの心にも、きっと響くもの、届いたものがあったのではないかと私は思う。

今年はLIVゴルフが創設され、スター選手たちが次々にPGAツアーから去っていったこともあり、「そのせいでPGAツアーの大会の顔ぶれが淋しくなった」と感じられるかもしれない。

だが、この時期に開催されるPGAツアーの大会は、例年、ビッグネームの大半が束の間のオフを取り、ランキング的には下位の選手たちの姿が目立つ。

だが、その中から誰が初優勝を掴み取るかという展開の背後には、往々にして、涙のストーリーが隠されている。

そういうストーリーこそが、PGAツアーの重みと深みの証である。そして、必死に生き、必死に戦うプロゴルファーの人生の物語は、いつだって素敵なドラマだ。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

<ゴルフ情報ALBA.Net>

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