重心位置とセルフコントロール 山下美夢有がシーズンを通してブレない理由【辻にぃ見聞】

重心位置とセルフコントロール 山下美夢有がシーズンを通してブレない理由【辻にぃ見聞】

大躍進の山下美夢有 快進撃の理由をあらためて分析(撮影:佐々木啓)

今季優勝者、メルセデス・ランキング上位者のみが出場することのできるエリートフィールドの最終戦「JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」は、“2022年女王”の山下美夢有が、その肩書通りの強さを発揮して優勝を飾った。史上初、イ・ボミ超えといった数々のツアー記録も樹立。その強さの理由を、上田桃子、松森彩夏、吉田優利らのコーチを務める辻村明志氏が語る。

■本来の姿、…ではないコンディション

舞台となった宮崎カントリークラブは、ツアー全体を通しても3試合しかないコーライグリーン。さらにはティフトン芝のラフに、海からの風、11月末ということによる気温などの難しさがあるが、「全部が真逆だった」と振り返る。

「寒くて、グリーンが硬くて速くて、風が強くて、という難しさがあまりなかったです。グリーンは“冬”のコーライではなく“夏”のコーライのように感じました。上りの逆目となれば7フィートくらいの感覚。暖かい冬の戦いでした」

ラフは「短かった」ことにより、入れても例年より比較的打ちやすい。さらに、グリーンはコンパクションが高かったものの、グリーンが重かったためダイレクトに狙いやすかった。「いつもよりパーオン率が高いと思う」と話すように、昨年のパーオン率は『60.4514%』だったが、今年は『66.5972%』と6ポイントアップしている。さらには半袖半ハーフパンツでプレーしている選手も少なくないという11月末とは思えないほどの気候。「本来のリコーの感じではなかった」と宮崎カントリークラブに新たな違った印象を抱いた。

■シーズンを通してブレないスイング

平均ストローク60台(69.9714)をマークして申ジエ(韓国)以来、ツアー2人目、日本勢では初となる記録を達成した山下。メルセデス・ランキングでは2位に1000pt以上の差をつける圧倒的強さで、年間獲得賞金額も2億3502万967円で2015年のイ・ボミ(韓国)を超えるツアー史上最高額を叩き出した。この記録はシーズンを通して常に上位争いができたことによるもの。強さを維持しつづけられたことについて、辻村氏は「“底辺”のブレ幅が少なかった」と説明する。

「いいときはもちろんツアートップレベルで高いですが、底辺(悪いとき)のブレ幅がなかったです。多くの選手は調子が悪くなると意識が上半身のコントロールにいきがちですが、ゴルフは相撲と同じように足が基本で手は最後。パタパタとしたフットワークから始動する山下さんは、下半身のバランスがよく、重心が伸びあがることがない。重心が上下にブレないので、常に軸が安定しています」

ミスの幅を小さくすることで、安定したスイングを展開する山下。今季11回、最終日最終組でいえば2度同組でプレーし優勝争いを演じた上田は『あの子本当に曲がらない』とショットの安定感に目を見張っているという。それを生み出しているのは、山下が父・勝臣さんとともに作り出したスイングにプラスして、山下自身の「セルフコントロール」によるものでもあると付け加える。

「自分で自分をよく理解している選手のひとりです。スポーツは心技体が重要ですが、ゴルフは“脳”技体ともいえます。コーチであるお父さんと会えないときでも、セルフコントロールは一年間、自分でもできていたと思います」

データ重視の山下は、ツアー初優勝を遂げる前に“先行投資”で弾道測定器を購入。クラブの動きや入り方に加え、ボールの打ち出しや弾道のデータを分析し、それを自分自身の“脳”で理解して修正できる「頭の良さ」があると話す。ブレないスイングを確立させた山下は、今季フェアウェイキープ率は77.1825%で5位(昨年9位)、パーオン率は75.1543%で1位(昨年18位)。そしてボールストライキング(ショット総合力)で1位に輝き、ツアーNo.1のショットメーカーとなった。

■試行錯誤のパッティングにも成長

昨季と比べてスタッツも大幅に上昇しているが、特にジャンプアップが大きいのは平均パット数。パーオンホールは1.8226で34位、1ラウンドあたりは29.7209で32位だったが、それぞれ1.7613(4位)、29.3148(19位)という成長をみせている。

フェアウェイをキープして、グリーンに乗せることができたら、最後に必要な技術はパッティング。その点についても「音がよくなった」と辻村氏は良さを語る。「パターを変えたりなどの試行錯誤はあったと思いますが、音がよくなりました。タッチ感もよくなって、ヒット感も強くなった。『しっかり打ち抜いてカップを超えてボールが止まる』という理想的なコロがりになっていますね」

いつもより重さを感じた今回のグリーンでは、しっかり打ち切ることもポイントのひとつ。そこで若干の「パンチがはいった」ような芝目に負けない強いコロがりをみせる山下のパッティング力は、記録Vを成し遂げるには欠かせない最後のピースだった。

解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、松森彩夏、吉田優利などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

<ゴルフ情報ALBA.Net>

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