【辻にぃ見聞】アン・ソンジュの“勝負強さ”の源は練習法にあり

【辻にぃ見聞】アン・ソンジュの“勝負強さ”の源は練習法にあり

優勝したアン(左)とローアマの畑岡(撮影:小路友博)

 国内女子ツアー「スタンレーレディス」は賞金ランクトップを走るイ・ボミ(韓国)とのプレーオフを制し、アン・ソンジュ(韓国)が3度目の大会制覇を達成。アンの強さと、勝負の“深層”を上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏が語った。


■ アンの勝負強さの源となっているパットの基礎練習

 「正直、アン選手が勝つとは思っていませんでした。9月の日本女子プロ選手権で上田と練習ラウンドを一緒にしたのですが、その時はこれまでないぐらい絶不調だったんです。彼女はドローヒッターなのですが、ボールがつかまりすぎて左にいきすぎたり、逆につかまらずに大きくすっぽぬけてしまう場面をよく見ました」

 わずか1ヶ月前はそのような状況。アンは今季、首の怪我に悩まされ、2ヶ月前からは左手首も痛め、今週はストレス性の湿疹でプロアマの日に表彰式に出ずに病院へ。注射を打ち、塗り薬をつけながらのプレーだったという。

 そんな満身創痍といったアンの今回の勝因は勝負どころの18番で正規とプレーオフ2度のバーディを奪ったことだが、そのほかにも注目すべき点があった。

「17番も約1.5メートルのいやらしいラインのパーパットでした。その後の18番は2メートル、プレーオフでは1.5メートル。3回も重要なパッティングを確実に沈めているんです。勝負強い人というのは10〜15メートルを入れるよりも、プレッシャーのかかる中で1、2、3メートルをしっかり決めてくる人なんですよ。“ゴルフのスコアの60%はピンから125ヤード以内に打たれたものである”というサム・スニードの名言にもあるように短い距離ほど大事なんです。彼女、今週はショットがあまりよくありませんでしたが、アプローチはピカイチでした。粘りのプレーで勝負をもぎ取った感じですよね」。

 短い距離を確実に決めきるのが“勝負強さ”。そしてアンにはパッティングでは何年も続けている練習があるという。

「彼女は何年も前からグリーン上に練習用のマットを持ち込んで練習しています。ボールを置く位置、目線、アライメントをいつも同じにするためです。ストロークにこだわる人は多いですが、アン選手の場合はボール位置にこだわって練習しています。ボールの位置が1センチ変われば、パターのフェースの開き具合も変わる。プレッシャーがかかる場面ほど、この基礎的な練習が効力を発揮してくれるのです。一流のプロは1つ、必ず自分のポイントを持っているものです。パッティングに関してはアン選手の場合はそれがボール位置なのでしょうね」。

■ 女子プロNo.1の分厚いインパクトは“ターフの長さをイメージする練習”から作られる

 ここぞ、という時のパッティングを入れる力。もちろんアンの心の強さもあるが、日々の地道な努力こそがその源になるのだ。またショットに関してもアンは非凡なものがあるという。

「通常の選手では肩が90度ぐらい入るのですが、彼女の場合は120度は入っているでしょう。そして、ショットの際の重心はかなり深く、地面の中にあるのではないかと思うぐらい。この下半身の安定感の、捩れを生む柔軟性が彼女の武器です。よくベタ足が素晴らしいといわれますが、彼女は右足がめくれないだけでなく、左足もまったく浮かないのです。女子プロNo.1の分厚いインパクトはこのスイングから生み出されるのです。イ・チヒ選手も素晴らしいインパクトですが、厚さはアン選手のほうがありますね。彼女は練習の際、ボールの10〜15センチ先にティを刺しています。ターフをとる長さをしっかりイメージして練習しているのです」

 ボールではなく、その先のティを打ち抜くことを意識した練習法。それがアンの分厚いインパクトを作り出している。その他にも、この高低差のある東名カントリーに強いのにも理由があるという。

「通常、選手は打ち上げの練習場を嫌がるんです。それは目線が上にあがると、体が開きクラブが下から入りやすくなり、スイングのバランスが悪くなるから。安定したスイングを作りにくいんです。だから、打ち上げが続くこのコースも、やりにくいと感じる人も多いはずです。高低差のあるところでは、目線をなるべく平行に保つことがとても大事。アン選手はそれがとても上手い。重心が低いスイングで目線を平行に打つ。高低差にも惑わされにくいんです」。

 3回もこのトーナメントを制したのは、勝負強さの他にもこの高低差のあるコースに上手く対処した結果なのだ。

 この大会には、日本女子オープンを制した畑岡奈紗も出場。大きな注目を集めた。優勝こそ逃したが、4位に入り優勝争いにも絡んできた。

「やはり今週も上に来たのはすごいですね。自分はもう一丁やるんじゃないかと思っていました。今回、改めて見ましたが、バンカーショットの“音”がいいんですよ。バンカーから打つには、砂の硬さやスピンのかけかたも考えないといけない。その上でいいボールポジションと体重半分、クラブを入れる角度もよくないといい音は出ません。フェアウェイからでも平坦な場所ってほとんど無いんですよ。バンカーでいい立ち方ができれば、どんな傾斜地でも対応できるはずです。もう立派なショットメーカーと言えますね。アメリカでは芝などの対応力も問われると思いますが、ボクは面白いと思います。やってくれそうな気がします」

 多くの選手を見つづけてきた辻村氏も、やはり畑岡の実力とポテンシャルの高さは特別なものがあると感じたようだ。


解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。コーチ転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、濱美咲らを指導。今季は上田の出場全試合に帯同し、様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

<ゴルフ情報ALBA.Net>

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