想定内のチップインで勝利したJ・スピースの強さと賢さ【舩越園子コラム】

想定内のチップインで勝利したJ・スピースの強さと賢さ【舩越園子コラム】

チップインバーディで勝負を決め、キャディと喜びを爆発させるスピース(撮影:GettyImages)

トラベラーズ選手権最終日の終盤、首位に並んだのはジョーダン・スピースとダニエル・バーガーの2人だった。スピースは初日から首位を守り続け、完全優勝に王手をかけていたが、3打差で最終ラウンドを迎えたバーガーが猛追し、最後にスピースを捉えた。


2人はジュニア時代から凌ぎを削ってきた同級生どうし。当時はバーガーのほうが将来を有望視されるエリートジュニアとして目立っていたが、米ツアーで勝利を挙げ、メジャーを制したタイミングと勝利数はスピースのほうが大幅リード。この最終日もリードしていたのはスピースで、バーガーは追いかける立場だった。

後半3バーディーでスピースを捉えたバーガーには、追う立場ならではの勢いがあった。追われる立場だったスピースは、後半3度も池に入りそうになりながらぎりぎりでボールが止まるラッキーに助けられ、72ホール目はフェアウエイからのウエッジショットが大幅にショートしてグリーン手前のバンカーへ。だが、スピースも見事にパーセーブ。

「あそこでバーを拾えたのはラッキーだった」

プレーオフ1ホール目の18番でもスピースのラッキーは続いた。バーガーのドライバーショットは左へ曲がり、ラフの中へ。スピースのドライバーショットはさらに左へ飛び出したが、木に当たってフェアウエイへ出る幸運に恵まれた。だが、第2打は、またしても距離が大きく狂い、72ホール目と同じバンカーへ。大観衆は「オー!」と落胆の声を上げたが、スピースの本当の強さと賢さが発揮されたのは、この場面だった。

「72ホール目にあのバンカーに入ったとき、“この場所は悪くない。グリーンを外すなら、ここだ”と思ったんだ」。

狙いはピンのすぐ下。だが、万が一、グリーンを捉え損なうとすれば、このバンカーこそが“不幸中の幸い”のような場所であることをスピースは72ホール目をプレーしながら見い出し、プレーオフを想定して、すでに攻略法を考えていた。

バーガーの第2打がグリーンのカラーに転がり出たのを見届けた直後。スピースはグリーン面が競り上がってほとんど見えないそのバンカーから見事にチップイン。キャディのマイケル・グレーラーと体と体をぶつけ合うチェスト・バンプで喜び合ったスピースは今季2勝目、通算10勝目を完全優勝で飾った。

23歳10か月29日で10勝目を挙げたのはタイガー・ウッズに次ぐ最年少から2番目の若さ。が、その記録より、ウッズが10勝目を飾ったときにスピースはまだ5歳だったという事実のほうが「へえー!」と驚かされた。

そして、もっと驚かされたのは、最終日のスピースにラッキーが続いたこと。池を3度も逃れ、プレーオフでは木に当たってフェアウエイというのは明らかにラッキー。72ホール目にグリーン手前のバンカーから見事にパーを拾ったことも、スピースに言わせれば「とてもラッキーだった」。勝つときは「運も必要」とは、こういうことを言うのだろう。

だが、勝利の決め手となったプレーオフ1ホール目の18番でのバンカーからのチップインバーディーは、ラッキーに見えて、スピースの想定内で、むしろ作戦勝ちだったという事実。これこそが、一番の驚きだった。

「悔しいけど、ジョーダンはジョーダンのゴルフをしていた」と、バーガーは潔く脱帽。やはり同い年で親友のジャスティン・トーマスは、スピースがプレーオフであのバンカーに入ったとき、「ジョーダンがあそこからチップインしても驚かないね」と即座にツイート。

旧知の仲の同級生プロたちは、スピースの強さと賢さを熟知し、勝利を絶賛。そして「次こそは自分!」と、さらなる闘志を燃やす。

そんな良き友、良きライバルたちの良き関係が垣間見られた最終日は、とても心地良いサンデーアフタヌーンだった。

文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

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