38歳のベテランでも一筋縄ではいかない難コース 勝負を分けた“難しいライン”【辻にぃ見聞前編】

38歳のベテランでも一筋縄ではいかない難コース 勝負を分けた“難しいライン”【辻にぃ見聞前編】

持ち球をドローからフェードに変更、本来の強さを取り戻した知姫(撮影:鈴木祥)

大会史上、初めてとなる岩手県で開催された「日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯」。メジャーらしい難コンディション。そして最終日は荒天による4時間の遅延。精神力が試された戦いは38歳のベテラン・李知姫(韓国)に軍配が上がった。そんなメジャー第2戦を上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏が掘り下げる。


■李知姫でも弱気になるセッティング 勝負を分けたのは14番の“難しいライン”
舞台となった安比高原ゴルフクラブを「コースを難しくする“4つの要素”が全て詰まっていた」という辻村氏。その4つの要素とは「フェアウェイの狭さ」「コースの長さ」「ラフの難易度」「グリーンの固さ」である。「4日間あの難しいコースでプレーしたら、どうしても思い切りが無くなりネガティブな気持ちが生まれます。そのあたりをどう自分と折り合いをつけるのか。メジャーらしい難しさがありました」

優勝した知姫にも弱気の虫が出てきていた。10番で1.5mを外すと12番のバーディパットをショート。一進一退の攻防が続く中で「明らかにパターを打ちきれなくなっていた(辻村氏)」。だが、14番で3mのカップ5つほどきれる難しいスライスラインを決めてバーディを奪取。ここに勝負の流れがあったという。

「難しいラインについたことが逆に良かったと言えるでしょう。あの状況では、入れて当たり前のようなラインで打ちきれなくて外れる、というケースがままある。それくらいプレッシャーのかかったサンデーバックナインでしっかりヒットしていくのは難しい。一方で難しいラインの場合、気楽とまではいきませんが“無”になって打てる。あの場面で知姫さんはラインに乗せる事だけに集中できていました」。グリーンスピードに加えて、カップ周りの小さなアンジュレーションにより、数多くの選手たちが1mのパットを外した今大会。あそこでバーディチャンスの距離の“難しいライン”についたことが、知姫にとっては幸運だった。

■本来のショットを取り戻すきっかけは持ち球変更 真骨頂である“精度の高いダウンスイング”が戻った!

その知姫は今シーズン序盤は大スランプだった。誰もが認めるショットメーカーのキレが無くなっていた。「5月上旬に行われたメジャー初戦のサロンパスで見たときにかなり状態が悪いなと思いました。あの知姫さんのショットの打点がズレていたんです。その時は今のフェードではなく、ドローを打っていましたが、トップの位置が昨年に比べて明らかに低くなっていました。元々知姫さんは高いハイドローを打つ選手でしたが、フラットなスイングとなっていました。球も“上にめくれる”ドローから沈み込むフックに。そのフックを避けようとして体が開き、クラブと体がバラバラになっていたんです。ヘッドも下から出るようになっていました。そこまで調子が悪いのかと思いましたよ(辻村氏)」

そうした状況は日に日に悪化し、ついに38歳のベテランは7月に大きな決断を下す。「持ち球であるドローのフックが強くなって、ランが出て飛び過ぎたりして同じ番手でも15ヤードくらい距離のばらつきが出てしまった(知姫)」と持ち球をドローからフェードに変更。それが奏功して本来のショットを取り戻し、今回の優勝へとつながった。この変更を辻村氏は「ドローからフックになったのをリセットするフェード」と表現する。

「知姫さんの真骨頂は精度の高いダウンスイングです。ヘッドが下から入ることだけは嫌がります。ですが、不調時はどうしてもヘッドが下がっていました。そこでフェードボールにすることで、クラブを一直線に振り下ろせるダウンスイングを取り戻しました。クラブが下から入っていては安定したフェードボールが打てません。だからフェーダーは否が応でもクラブを上から入れることとなる。その訓練を積んだことで本来のクラブを上から入れるスイングを取り戻しました。リズムの良さ、体重移動の上手さは折り紙付きですから、そこさえ間違えなければ、という感じ。しっかりとクラブが上から入ってくる知姫さんらしいスイングを取り戻し、ショットの調子は上を向きました」

「また、フェードにしたことで気持ちよく振れるようになったことも今大会に大いに奏功したと思います。プロゴルファーはグリーンをオーバーするような“飛び過ぎること”を恐れる。そこでグリーンでボールを止められて、縦の距離感が合いやすいフェードにしたことで自分のリズムで振れるようになり、タイミングも良い時に戻ってきた。難コンディションでも気持ちよく振れるから、ショットは曲がらないし、グリーンをキャッチできる。そしてフェードにしたことで、フェアウェイを外したときのラフからのショットでの精度が上がったことも勝因の1つです。どんなドローヒッターでも深いラフに入ったときは、フェードボールを打つときのように“上からカット目”にクラブをボールに入れますから、今大会の難しいラフにもしっかりと対応できていました。72ホール目のラフからのショットは完璧と言ってもいいくらいの内容でした」

■女子ゴルフの変化を感じたメジャー 「ボールを止められる技術」が必須に
そんな知姫に加えて2位のイ・ミニョン(韓国)、4位の比嘉真美子はフェードヒッター。また3位の東浩子、4位の川岸史果、そして連覇を狙った鈴木愛はドローとフェード(フェード系のストレート)を打ち分ける選手。トップ5に純粋なドローヒッターは4位の柏原明日架だけと言う結果に。辻村氏も「女子のゴルフが変わってきた」と話す。

「選手にパワーが付いたこと、そして道具の進化に伴い、コースセッティングにも変化が起きました。結果、ボールを止める技術が今まで以上に求められるようになってきています。ドローではボールコントロールが難しいセッティングも増えてきました。ドライバーは距離を出すためにランが出やすいドロー、2打目以降は止めるためにフェードと言った打ち分ける選手も以前よりも多くなってきたなぁと。今大会はそんな“女子ゴルフの変化”を感じたメジャーでもありました」


解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。コーチ転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子らを指導。上田の出場試合に帯同、様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

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