【記者の目】前代未聞、ミケルソンの行為の「その後」が注目されるべき

【記者の目】前代未聞、ミケルソンの行為の「その後」が注目されるべき

全米オープンでのミケルソンのプレーは、世界のゴルフ界に衝撃を与えた(撮影:岩本芳弘)

フィル・ミケルソン(米国)というゴルフ界を代表する英雄がしてしまった行為は、許されることではない。今でもそう思う。難しい状況を回避し、安易にペナルティを受けてその場を片付ける。若いゴルファーの手本になれとはいわないが、間違いなくゴルフの大原則を汚す行為だった。


グリーン上で自ら放ったパットがカップの横をすり抜け、下り傾斜を落ちそうになったのを見て、小走りにボールに近づいて動いているボールをカップに打ち返す。「今のなし!」といいながら、プライベートラウンドで起こるなら分かるが、プロの試合、ましてや「全米オープン」という世界最高峰の大会では決してやってはならないことだった。

ゴルフを始めて26年目。始めたころは、とにかくルールやマナー、エチケットを守れと厳しく指導された。最新のルールブックをキャディバッグにしのばせ、不明瞭な措置などはその場で調べた。審判がいないスポーツだけに、どれだけ形だけのルールであろうが、それを守るのが当たり前と思っていた。今回のミケルソンはルール上ペナルティを受けるだけにとどまったが、果たしてマナーという点ではどうだったのか。

そんな思いもあって、ミケルソンのシーンを見たときは目を疑った。今までこんなことをしたゴルファーを見たことがなかったからだ。「ルールを有効に使って戦略的にプレーする」とホールアウト後に明かしたミケルソン。これまでも同様の行為を試したいと思っていて、「ようやく今日、それができた」と故意を認めた。こんなことがあっていいのかと、プロゴルファーでも「残念」という選手がいるのも事実だ。

そもそもゴルフの大原則とは何か。「あるがままの状態で打つ」という一文がある。その通りだと思う。芝、風、雨など、あらゆる自然現象を受け入れてプレーするため、どうしても運不運が出るのがゴルフだ。それを我慢して、受け入れながらプレーするのがゴルフだと思っていた。今回のミケルソンのプレーはそんな解釈を根底から覆した。「コースが風の影響もあって難しくなりすぎていて、ついカッとなってしまってやってしまった」といってくれたならまだ分かる。それが、「自らの意志で判断したこと」といわれてしまうと、何もいい返す言葉が出ない。

大会3日目に前代未聞の行為を見たときから、このプレーのことが頭から離れない。大問題となったこのプレーに対しては、その後も余波が続いている。SNSでは擁護派、批判派に分かれ、議論がやまない。

■擁護派
「フィルも人間だから間違いは起こす」
「プレーファストが重要な課題となっているので、むしろこれからはやるんじゃない」
「ルールにのっとってペナルティを受けているからいいじゃないか」

■批判派
「ゴルフの基本に反する」
「世界の一流選手がやることではない」
「アンプレヤブルにすべきで、動いている球を打つのはあり得ない」

などなど。

ミケルソンのとった行為に対して、ルールブック上では2罰打が適当なのだろう。ただし、そもそもミケルソンのペナルティは、「動いている球を打ってしまったもの」に対して科される。問題はここに「故意」かどうかが明言されていないということ。動いているボールを故意に打つ者などいないのが前提につくられたルールだからだ。ということは、このルールの解釈の見直しも必要になってくる。

ルールを逆手にとってプレーしようと思えばいくらでも悪用することができる。それをいちいち明記していては、ルールがより複雑化してしまう。2019年1月1日からはルール改正が行われるが、今回の改正の骨子は「ルールを分かりやすくする」。ルール改正の項目にミケルソンの行為に対して触れることなどもちろんない。それは、そもそも想定外だからだ。

「道義的な問題からフィルを失格にすることもできたのではないか」と記者から質問が飛んだUSGA(全米ゴルフ協会)は、「2罰打を科すのが妥当」と一貫してその姿勢を崩さなかった。今回、人気選手の前代未聞の行為でゴルフルールに大きな注目が集まったのは間違いない。前述のルールの見直しも検討されるだろう。ゴルフが紳士のスポーツかどうかは分からないが、楽しくフェアにプレーするのは、どんなスポーツでも同じだと思う。

今回の「全米オープン」終了後、会場から100マイルほどの場所に本部を構えるUSGAを訪ねてみた。ニュージャージー州の中心。周囲には何もない、田舎町だ。そんな中にぽつんと本部が置かれている。世界のゴルフルールを統括するのがR&AとUSGA。そのUSGAのルール部門のコメントをもらおうと思ったが、担当者が全米オープンから戻っていなかった。

USGAの本部は分かりやすくいえば東京ドーム1コぶん以上の敷地はあるだろう。本部ビルとともに隣接するのはボビー・ジョーンズ、ベン・ホーガン、アーノルド・パーマー、ジャック・ニクラスら、米国の英雄をたたえる特別展示室が用意されたUSGAミュージアムが建つ。ゴルフ界の名士たちは今回の件についてどんな意見を持ったのだろう。そんなことを考えながら展示コーナーを見ていたら、外に大きなグリーンがあることを知った。

1930年代のパターとボールを借りてそこでボールを転がしてみたが、スピードこそないものの、傾斜の強いグリーンでボールの曲がりが半端ではない。傾斜を上り切らずに戻ってきたボールを打ち返してみた。「動いているボールを打ってしまったよ」とミュージアムの担当者に話すと、「2ペナルティだね」と笑顔で返ってきた。ルール上ペナルティで終わったミケルソン問題だが、やはりゴルフは止まっているボールを打つスポーツだ。改めてそう思いながら、米国を後にした。(文・高桑均)

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