親が子に見る夢は子の夢にあらず!メッシになれなかった子供達から学ぶべきこと

親が子に見る夢は子の夢にあらず!メッシになれなかった子供達から学ぶべきこと

『カンプノウの灯火 メッシになれなかった少年たち』(豊福 晋/洋泉社)

 フットサルで小学生の男子2人と知り合った。彼らはサッカー部に所属し、練習がない日は公園でボールを蹴るほどサッカーが好きだという。なのに、彼らの親は「中学では他の部活に入ったほうがいい」と勧めている。「進学先のサッカー部のレベルは高く、レギュラーは無理そうだから」だそうだ。他のチームメイトたちの親も同じ考えで、2人以外は中学では他の部活に入るらしい。サッカー部からの転出先は「卓球部」が人気とか。唖然とした。

 誰だってレギュラーになって試合に出たい。だが、補欠でも部活に参加したり 、好きなスポーツを続けることは無意味なのだろうか? スポーツの秋に、スポーツをする意味を考えてみたい。課題図書は『カンプノウの灯火 メッシになれなかった少年たち』(豊福 晋/洋泉社)だ。

 カンプノウとは、スペイン・カタルーニャ州にあるサッカー専用スタジアムの愛称で、FCバルセロナ(バルサ)の本拠地である。リオネル・メッシはバルサの10番を受け継ぐ世界ナンバー1のフットボーラーだ。名古屋グランパスの7番・田口泰士を知らなくても、メッシがバロンドールを4回受賞したことを知っている日本人は多いだろう。

 だが、本書の主役はメッシでも田口でもない。バルサのカンテラ(下部組織)で、メッシと共にボールを蹴っていた同世代の少年たちだ。

 はじまりは2000年に撮影された1枚の写真。入団間もない13歳のメッシと共に30人以上の少年たちが並んでいる。著者の豊福晋氏はふと思った。「メッシは大成功を収め、世界の頂点にいる。それ以外の少年たちはどうなったか?」と。豊福氏は当時のチームメイトたちの名簿=「カンテラ・リスト」を片手に旅を始める。

 バルサのカンテラの選手がトップリーグのプロになれる確率は約10%。20人のうち2人程度しかプロになれない現実は、取材でも裏付けられていく。

 ボクシングジムのトレーナー、精肉屋、電気工、スポーツ店店員、給食世話係、公務員、ジムインストラクター、動物保育士――20代後半となった“少年たち”の多くは、サッカーではない仕事を持っていた。

 早熟でフィジカルに恵まれたディランは1シーズンで40得点以上を記録した神童だったが、周囲が成長するにつれ自分が通用しなくなるという現実を突きつけられた。気が弱かったフェランはピッチに上がるたびにプレッシャーから嘔吐を繰り返すようになって「うつ病」を発症、わずか1年で退団した。試合前になると頭痛に襲われるラモンは、退団後に治ったという。その傍らには、才能を認められ年代別カテゴリを飛び級で越えるメッシがいた。皆が「メッシは特別だった」と口をそろえるが、他にも優れた才能を持った少年はいた。彼らとメッシの差は「才能」だけなのだろうか?

 当時の監督だったチャビ・ジョレンス曰く、バルサで成功するための3つの要素は「幸運」「ケガの少なさ」「監督との相性」。その上で大切なのが家族……「父親」だ。

 選手ではなく、父親同士がケンカすることは日常茶飯事。試合中には観客席から自分の子にもよその子にも厳しい声を浴びせる。元カンテラのアルベルトは言う。

「親ってのは――自分の息子を介して、自分自身が夢を見ている。最悪なのは、試合中に抗議したり、暴言を吐いたりする親だ」

 子供のサッカーの試合で「走れ」「パス出せ」などと監督まがいの命令を浴びせる親が、世界中のピッチ脇にいる。日本のそこかしこにも。

「誰よりも子供の成長を願う親が、むしろその邪魔をしているんだ。皮肉なことにね」

 息子が成功して高い年俸をつかむことを、本人以上に夢見ている親が。その一方で、メッシの父親は息子が何ゴールしようが浮かれず、余計なことは言わず、サポートに徹していたという。それが若い子がサッカーに集中する環境には欠かせないことなのだと、気づく親は少ない。

 だからこそ、バルサに関わる“大人たち”は子供たちに教える。

「サッカー選手ではない、普通の職業でいくら稼げるのか、労働時間はかく支えた。「人にはいろんな生き方がある。メッシのように成功できなくても、人生は続く」と。

 果たして、本書に登場する“少年たち”は、それぞれの人生をそれぞれの価値観で歩んでいる。頻繁に会うことはないが、互いを認め合う「仲間」としてつながっている。プロになれなかったことを卑下することもない。メッシにはなれなかったが、決して「悲しい失敗例」などではないのだ。

 最後に、下部でプレーしながら、少年たちの指導もしている“肉屋のフェラン”の言葉を紹介したい。

「バルサでの経験を糧に、肝に銘じていることがあるんです。それは、失敗しても絶対に怒らず、とにかく楽しくプレーさせてあげるということです。そして、彼らに伝えたいのは、サッカーがすべてじゃないということ。(中略)夢を見るのはいいことですが、人はどこかで現実と向き合わなければならない。大事なのは、そのときに現実を受け入れられる人間になっていることです」

 グラウンドやコートの脇で怒鳴っているあなたも、子供の挫折を回避させようとしているあなたも、本書を読んで、あらためて子供がスポーツをする意味を考えてほしい。

 成功以外に得られるものが、スポーツにはあふれている。

文=水陶マコト

関連記事(外部サイト)