“2日天下”に終わった欧州スーパーリーグ構想の深層<下>

欧州スーパーリーグ構想が『2日天下』に終わった原因を分析 歴史的な背景の違いか

記事まとめ

  • 欧州スーパーリーグ構想が『2日天下』に終わった原因を記者が分析している
  • スペインやイタリアのオーナーは「クラブは自分の所有物」という認識があるという
  • 一方、イングランドのオーナーはファンあってのクラブという認識があるらしい

“2日天下”に終わった欧州スーパーリーグ構想の深層<下>

“2日天下”に終わった欧州スーパーリーグ構想の深層<下>

イタリア政界でもトップの座に昇り詰めたベルルスコーニ(C)ロイター

【六川亨のフットボール縦横無尽】

 サッカー月刊誌「カルチョ2002」の編集長に就いた2001年、スペインに渡った。当地のサッカー週刊誌「ドンバロン」と提携してラ・リーガに特化した専門誌を創刊しようというプランがあった。

 しかし、結論から言うと提携話は断られた。1975年創刊のドンバロンは、オーナーにとって「ビジネスではなくて趣味でやっている」というのが、その理由だった。

 彼はディナーを終えると我々を近くにある大きなバル(居酒屋)に案内した。営業はすでに終了しているようだったが、テーブルは片隅に集められ、20人近い男女が思い思いの楽器を持って待っていた。そしてスペインの民族音楽でもてなしてくれた。

「ドンバロン」のオーナーがこう言った。

「自分は若い頃、サッカーのプロ選手かミュージシャンになりたかった。しかし、両方ともその夢は叶わなかった。今(バルセロナに本拠を構える)エスパニョールのオーナーと楽団のオーナーを兼務しているのは、自分が果たせなかった夢を支援したいからだ。だからドンバロンの提携も断った」とのことだった。

 楽団はもちろんプロで、世界各国を回って演奏しているという。この日はたまたま練習日だったので、オーナーが招待してくれて我々は貴重な体験ができたのだった。

 エスパニョールは2016年に中国の玩具メーカーが買収したが、2020/2021年シーズンは最下位に終わり、2部に降格してしまった。「ドンバロン」も2011年、経済危機と主任編集者のスキャンダルで廃刊になっている。

 こうした歴史的な背景を鑑みるに、スペイン・リーグのオーナーというのは、パトロン気質が多分にあるような気がする。「クラブは自分の所有物」という感覚だ。

■イングランドとスペインの歴史的な背景の違い

 同じことは、ルネッサンス発祥の地イタリアにも当てはまる。

 ユベントスはアンドレア・アニエリ会長を始めとするアニエリ・ファミリーの持ち物であり、ACミランはメディア王と呼ばれ、元首相でもあるシルビオ・ベルルスコーニ現名誉会長の私物という印象が強い。

 ちなみにアニエリ・ファミリーはトリノに本社を置く巨大産業を経営しており、自動車のフィアットを筆頭に鉄道、船舶、航空機などの製造を手掛けている。自動車はアルファロメオ、ランチア、アバルト、マセラッティなども傘下に収めている。

 古くは元フランス代表のミシェル・プラティニを始め、ビッグネームを引き入れて現在はポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウドがプレーしている。すべては「フィアット社で働くトリノ市民に夢を与えるため」と昔からいわれてきた。

 ベルルスコーニは、実業家として功成り名を遂げただけでなく、政界に進出してイタリア首相を4度に渡って務めた。

 1990年のイタリアW杯を取材した際にミラノで知り合い、その後はサッカーダイジェストにイタリアの記事の執筆をお願いしたU記者によれば「パルマなど新興チーム(当時)にとって、セリエAのオーナー会議に出ること自体がステイタスです。ドン・アニエリやベルルスコーニと同じテーブルに着く。それだけで夢見心地になってしまう」とセリエAのオーナーは、特別な存在であることを教えてくれた。

 こうした観点から今回の欧州スーパーリーグ(ESL)の一連の動きを見ると、イングランドは歴史的に多くのクラブのユナイテッド(連合)として誕生し、あくまでファン(会員)あってのクラブという認識がベースにあり、スペインとイタリアはパトロン(オーナー制)なので、ESLへの不平・不満、批判に対するリアクションに差が出たのではないだろうか。

 このことは、どちらが良いとか、悪いとか、ということではなく、やはり歴史的な背景の違いとしか言いようがない。

 それにしても! 「プロのサッカー選手かミュージシャンになりたかった」という「ドンバロン」のオーナーの気持ちも痛いほど分る。男の子だったら、誰もが憧れる職業だからである。

 そして、夢が叶わないとなったら、パトロンとして金銭的ことも含めて全力で支援する。

 そんなオーナーがJリーグにも誕生するのだろうか? 個人的には、そんなに先のことではないような気がしてならない。=この項おわり

(六川亨/サッカージャーナリスト)

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