日本一をつかんだ「奄美のチェフ」 アンプティサッカー、鹿実出身の隻腕GK

日本一をつかんだ「奄美のチェフ」 アンプティサッカー、鹿実出身の隻腕GK

[写真]ジャンプしてハイボールを処理する東

 片脚や片腕を切断、もしくは先天的に失った人たちがつえを使って戦う「アンプティサッカー」で、デビュー以来8試合無敗、失点わずか1の守護神がいる。東幸弘(34)=鹿児島県奄美市。常にヘッドギア着用、利き足が左、1982年生まれなどの共通点から、アンプティサッカー界では「奄美のチェフ」と連想されることも。左肘の先からがないなどのハンディキャップを負いながら、高校時代は日本代表やJリーガーを輩出する名門、鹿児島実業サッカー部に籍を置いた。東はなぜ、「切断者」を意味するアンプティ(amptee)にのめりこんだのか。10月1、2日の第6回日本アンプティサッカー選手権大会を前に、彼の戦いを振り返った。

GK経験なし、初出場大会でMVP

 アンプティは片脚の6人がつえを使ってフィールドプレーヤーを、片腕の1人がGKを務める7人制。東が競技を知ったのは昨夏。「お父さんみたいな、腕や脚がない人がサッカーやっているよ」。テレビでプレーを見た、小学生の娘からの一言だった。

 九州在住・出身者でつくるアンプティサッカークラブ「FC九州バイラオール」の存在を知り、昨年9月にクラブに加入。直後の初陣、第5回日本アンプティサッカー選手権での活躍は鮮烈だった。小学校3年から30歳すぎまでサッカーを続けていたが、GKの経験はなし。ぶっつけ本番にもかかわらず、予選から4試合で1度もゴールを割ることを許さず、チームに2年ぶりの優勝をもたらし、大会史上初めてGKとしてのMVPを獲得した。

 光ったのは足元。フィールドプレーヤーとして「下半身や足からボールに反応してしまうんです」。ペナルティエリアに侵入した相手プレーヤーに足から飛び込んでクリア。決勝では相手エースが抜け出した窮地の1対1の場面を足でセーブして、1−0勝利の立役者となった。

 守備以上に貢献度が大きかったのは攻撃面だ。11人制の3分の2ほどの広さを、たった6人の片脚のフィールドプレーヤーでカバーする過酷な競技(注:両脚のあるGKは、ペナルティエリア内でしかプレーできない)。速いグラウンダーを一気に前線に通し、相手を脅かした。浮かせたピンポイントのロングボールも使い分け、バリエーションも加えた。

セルジオ越後氏も認めた働き

 昨年の日本選手権に続き、今年5月の国内大会「第3回レオピン杯」も制した。決勝で初失点を喫したものの、4試合でわずか1失点だった。延長PK戦にもつれ込んだ決勝では、キッカーのコースを事前に読んでストップもあった。

 “種明かし”をすると、所属するFC九州はフィールドに4人の日本代表選手を抱え、圧倒的なボール支配率を誇る国内屈指の強豪。被シュート数も最少クラスだ。ただ、東の加入前、九州は2大会続けて決勝で敗れていただけに、ビッグセーブやロングキックに加え、DFからのバックパスを危なげなく処理するなど、やはり新守護神の力は大きかった。「勝負を分けたのは九州のGK」。東のデビュー大会を見たセルジオ越後氏(日本アンプティサッカー協会最高顧問)の一言が全てを表している。

 2014年のアンプティサッカーW杯で日本代表の正GKを務めた梅原健太郎(44)=TSA FC=に、彼のプレーについて聞いたことがある。梅原は左腕を切断する前、清水商業のFWとして名波浩や大岩剛らと全国制覇も経験したプレーヤーだった。「東くんは足元の精度がある。特に浮かせるボールはふわっと柔らかく、ペタッと落とすのは武器。残っているのが右腕で、キックは左足。体が開いて、真っすぐなボールを蹴られるのも大きい(注:梅原は右腕が残り、キックも右足)。手からセーブできるようになるのは難しいけど、胸トラップを使うとか、体で止めるように割り切ってもいいんじゃないかな」

 東本人も、まずはGKに慣れる点を課題に挙げる。「飛ぶ練習もしているけど、足が先に出る。止められればいい、という考えもあるけど、高いボールへの反応は必要。初失点は(選手が)ブラインドで見えなかったけど、横っ飛びしていたら止められた。手から反応できたら、まだうまくなれる」

サッカーの原点はドリブル

 向上心の源泉はどこにあるのか。東は小3のころ、地元・鹿児島市の西陵スポーツ少年団でサッカーを始めた。生まれつき左肘の先の部分がなく、手や足の指が短い障害があった。「幼稚園ぐらいの時から意識していました。みんなと一緒のことが出来ない。生活面というより、メンタル面への影響が大きかったですね」。スローインや、手を使うような競り合いの局面での不利。当初はサッカーでも引け目があったという。

 少年を練習にかき立てたのは、ドリブルの魅力だった。「チームの練習が終わってから、公園でジグザグドリブルの練習をしていた。チームは強かったけど、自分が1番練習していたと思う」。中学では、部活の監督に見せられたボカ・ジュニアーズ時代のマラドーナの映像に夢中になった。自身の主戦場は左サイド。 「抜いたり、えぐったりするプレーにはまりました」。

 中学ではレギュラーとして、県大会ベスト4を経験。県のトレセンにも選ばれた。「中学の先輩が進んでいたので」と名門・鹿児島実業の門をたたく。「1学年だけで70人ぐらい部員がいました」。入学前の3月、2日間のセレクションに臨んだが、1軍でプレーするという自信や希望は、分厚い壁にへし折られた。1学年上には元日本代表のMF松井大輔、DF那須大亮が、同学年には元JリーガーのFW田原豊がいた。「周りにうまいやつがいっぱいいました」。

 1軍には届かなかったが、プレーへの情熱は尽きず、2年生で鹿実サッカー部のフットサルチームに転向。主に攻撃的ポジションで、県内の大学や社会人らと戦った。宮崎の専門学校に進学後は、自校のサッカー同好会だけでは飽きたらず、近くの大学サッカー部にも参加した。奄美市で就職後も社会人クラブに所属、30歳を過ぎてもプレーを続けていた。

つえ使ってのシュート、速さに驚き

 「サッカー一筋」の東にとって、アンプティはどんな競技なのか。「映像を見て、かっこいいと思ったんですよね。このチームに入ってみたいって。観戦しても、プレーしても面白いんですけど、実際にやってみて印象が変わりました。(つえを使っての)シュートが、普通の人と変わらない速さなんですよ。テクニックも衝撃でした。サッカーとは違うけど、サッカーの進化版のような。どちらかというと、フットサルに近いですね。ゲームの組み立て方、守り方。1対1、個人勝負になる場面が多いです」

 サッカーとのギャップも感じている。「キックをグラウンダー中心で蹴っていたら、『ロングボールはできるだけ高く蹴ってほしい』と言われたんです。何で?って聞いたら『片脚で落下地点に入るので、余裕が欲しい』と。自分の考えとの差を、助言をもらって修正しています」

 浮き球を要求したチームメートの星川誠(26)。彼も九州の名門・東海大五高校サッカー部に所属、右脚に義足を付けてプレーした経験の持ち主だ。“サッカー馬鹿”に東はどう写るのか。「相手の足の向きでシュートコースを読んだり、パスコースを読んだり。外から中に入れられたら危険な場面を判断したり。『読み』で止めてますよね。ボールへの反応もいい。サッカーをずっとやっていただけのことはあります。経験値もあるし、キックの精度、落ち着きはさすがです。あとは夜中に電話をかけてきて、『あの場面、守備の枚数は2枚か、3枚か』とか聞いてくる。『ちゃんと練習に来い』とかも言うし、熱いんですよね(笑)」

正直「ドリブルしたい」

 アンプティの練習と平行して、社会人サッカーでのプレーも続ける東。ルール上、ペナルティエリア内に縛られるGKだとストレスがたまるのでは、とぶつけてみた。「ドリブルしたい。正直ありますよ。でも、GKも面白いっす。自分が入れられなければ負けない。自分が勝負を分ける、プレッシャーをかけられますし。日本代表に入る目標もありますし。アンプティのGKは攻撃面での貢献も大きいです。自分にしかできない良さ、持っているものを生かしたい」

 10月1、2日に富士通スタジアム川崎(川崎市)で開かれる第6回日本選手権に、初めて前回王者として臨む。「前回の日本選手権や大阪の大会では、準決勝も決勝も接戦だった。もっとチームとして差をつけて優勝したい。絶対的王者になりたい」。自分への重圧をかけるかのように、他クラブを上から見下ろした。挑発的に写るほどの勝利への欲求。プレーから目が離せない。