<城が語る>劇的勝利を生み出したハリル采配の妙

<城が語る>劇的勝利を生み出したハリル采配の妙

ハリルホジッチ監督の選手起用が奏功した試合だった(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

ドラマチックな勝利だった。6分間という“長い”アディショナルタイムにも助けられたが、こういう勝ち方をすると間違いなく、チームに一体感が生まれ、勢いに変わる。選手やスタッフは苦しかっただろうが、通常の勝利に比べて倍以上の勢いと効果をもたらす。引き分けに終わっていると、いろんな意味で崖っぷちに追い込まれていただろうが、山口のバースデーゴールがすべてを救った意味の大きい勝利だった。

 山口はボールを浮かさないことを意識していた。思い切り足を振り切るのでなく、膝下だけを使い、ミートすることだけに集中した素晴らしいダイレクトボレー。おそらくディフェンスの空いた空間を針に糸を通すように狙ったものではなかっただろうが、あの高さにボールを通すことの重要性を冷静に判断したと思う。少しでも、力んでいれば、ボールはゴールの上を通過していたのかもしれない。

 日本が試合の主導権を握った理由は、スタメンに抜擢された清武、柏木、原口の3人が機能したことにある。ボランチの柏木が、積極的に中盤に顔をだして攻撃に絡み、縦パスを軸に、効果的なパスを供給した。イラクのディフェンスラインが高かったため、柏木は速さを意識して前へとボールをつないだ。守備も含めてハードワークをした。そして香川に代わってトップ下に入った清武が素晴らしい存在感を示した。

 キープ力があり、自在のパスワークで、裏にもボールを出せるが、なんといっても彼の持ち味は、そのトラップ技術を含めたボールのコントロール力と、ドリブルでの仕掛けだ。常にボールを相手にとられない位置に置きながらドリブルを生かすことができる。

 前半35分の先制ゴールも、原口が奪ったボールを、まず清武が縦へのドリブルで、マークをふりきって運び、生み出したもの。そして本田を追い越す長い距離を走った。そこからの正確で速いクロスに原口が対応したわけだが、前がかりのチームが多い傾向にある、リーガでプレーしてきている清武が、その攻撃性を日本代表に持ち込んだように見えた。これまでは、どちらかというと“控えめ”に映っていた清武が、コメントを聞いてもわかるが、自信に満ちあふれて、明らかな変貌を遂げている。

 ドリブルが得意で荒々しいガムシャラさ、前進力に新鮮味のあった原口は、その一方でプレーにムラがあったが、落ち着いた安定感を見せ始めた。この日は、美しいヒールで先制ゴールを決めたが、彼の左サイドからの崩しが効果的でもあった。

 同点にされてから、疲労が見えてきた柏木、所属チームで試合出場時間が少ないため、試合勘の鈍っている岡崎、本田に代えて、山口、浅野、小林を投入したハリルホジッチ監督の采配も的中した。過去の実績よりも、現在の所属クラブでの調子とコンディションを重視して見極めたハリルホジッチ監督の判断は間違いではなかった。

 欲を言えば、岡崎、本田の交代カードは、もう少し早くても良かったと思う。それほど所属クラブでの出番をなくしている岡崎、本田の2人は、調子、コンディションを落としていた。今後、日本代表で彼らが存在感を取り戻すには所属クラブで試合出場機会を増やすしかないだろう。現状、それが難しいのならば積極的に移籍も模索した方がいいと思う。

 だが劇的な勝利の裏で問題点も露呈した。

 後半15分の失点は、日本がずっと課題にしてきたセットプレーから許した。酒井高徳が、空中戦での競り合いで負けてマークを外した。防げた失点だ。彼も海外でプレーしているからわかっているだろうが、まともな競り合いでは、海外の選手の高さやパワーには勝てない。その前の段階で体をぶつけておくなり、1対1の勝負には工夫が必要。今後、こういう個対個の部分での弱さが命取りになりかねない。

 サイド攻撃も物足りなかった。酒井高徳のクロスには精度も足りない。イラクは、リオ五輪組が8人もいて平均年齢が23歳台と若いチームだけにボールウォッチャーになりがちな習性があったから、もっとサイドを崩してクロスにいいボールを入れていると、得点機会も増しただろう。

 さて日本代表は5日後の11日に敵地でグループリーグBの暫定首位となっているオーストラリアと対戦する。岡崎、本田のコンディションは、見極める必要はあるが、入りはイラク戦と同じスタメンでいいと思う。 
 オーストラリアは、全盛期に比べると世代交代がうまくできていないため、若干、力は落ちている。競り合いに強くパワーサッカーで押し込んでくるスタイルが脅威であることには変わりはないが、イラク戦で作ったチームのムードと勢いを、そのままオーストラリアに持ち込んで、勝ち点「1」ではなく「3」を狙って欲しい。

  (文責・城彰二/元日本代表FW)