香川、本田、岡崎のいないピッチが物語るハリルJ世代交代の鐘

香川、本田、岡崎のいないピッチが物語るハリルJ世代交代の鐘

所属するミランで出場が減っている本田(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 ピッチの上には香川真司(ボルシア・ドルトムント)も、岡崎慎司(レスター・シティ)も、そして本田圭佑(ACミラン)もいなかった。

 イラク代表を埼玉スタジアムに迎えた6日のワールドカップ・アジア最終予選第3戦。1‐1のまま突入した6分間の後半アディショナルタイムが終わりに近づき、引き分けの気配が漂ってきた直後に奇跡は起こった。

 狂喜乱舞するスタンド。ベンチ前へ疾走していく殊勲のヒーロー、MF山口蛍(セレッソ大阪)の周りに幾重もの歓喜の輪ができあがる。タッチラインを超えて飛び出してきた選手たちの中に、すでに交代で退いていた本田と岡崎、そして先発から外れた香川が含まれていた。

 日本代表の歴代得点ランキングには、3位に岡崎が49ゴール、5位に本田が36ゴール、6位に香川が27ゴールでそれぞれ名前を連ねている。2010年9月に発足したザックジャパンで、いわゆる“ビッグ3”はレギュラーとしてそろい踏み。以来、ハイペースでゴールを積み重ねてきた。

 そして、いま現在に至るまでに戦ってきたワールドカップ予選やアジアカップ、コンフェデレーションズカップといった公式戦で、3人のうち誰か一人を欠いた陣容でゴールを奪い、白星をあげた試合はない。山口の国際Aマッチ2得点目に導かれた劇的な勝利は、日本代表に何をもたらすのか。

 8月下旬に幕を開けているヨーロッパの新シーズンで、日本代表の攻撃陣をけん引してきた3人は軒並み出場時間を激減させている。特に深刻なのは本田で、7節を終えたセリエAでともに途中出場で2試合、合計でわずか19分間しかピッチに立っていない。

 ベンチを温める存在となった理由を、本田自身は今シーズン限りで切れるミランとの契約に関連づけて、こう推測したことがある。

「いままでよりも何が状況的に変わったかというと、契約が満了に向かっている選手という扱いになってきている気がする」

 来シーズン以降も必要とされる選手ならば契約延長の動きがあるが、その気配はない。本田自身がミランでのプレーにこだわったため、今夏にいくつか届いたオファーも正式交渉には進展しなかった。となると、残された道は実質的な“飼い殺し”しかない。

 本田自身をして「序列が低いので、簡単には試合に出られない気がする」と言わしめる厳しい状況で、懸念されるのは試合勘の衰えとなる。イラク代表戦でも時間の経過とともにパフォーマンスが低下。日本サッカー協会の西野朗技術委員長は、本田の状態についてこう言及している。

「コンディションが悪いというよりは、試合勘でしょうね。個人的にはフィジカルコンディションを上げているようだけど、空中戦でのタイミングや全体的なバランスがまだまだという感じがした」

 代表において絶対的な存在感を放ってきた本田だが、永遠に指定席が用意されているわけではない。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は後半36分、最後の3枚目の交代カードとしてFW小林悠(川崎フロンターレ)を投入。代わりに本田をベンチへ下げた。

 この瞬間から、ピッチには“ビッグ3”が不在となった。

プレミアリーグ王者レスターで新加入のイスラム・スリマニにポジションを奪われている岡崎は、シュートを1本も打てないまま同30分にFW浅野拓磨(シュツットガルト)と交代。香川は通算3度目のアジア最終予選で、故障以外では初めて先発メンバーから姿を消した。

代わりに清武をトップ下で起用した意図を、ハリルホジッチ監督はこう説明する。

「シンジ(香川)よりも1日半早く帰国していたので、そこのアドバンテージがあった」

 要は時差ぼけや長距離移動による疲労を回復させる時間が清武にはあったわけだが、香川自身も9月以降はドルトムントで2試合、合計46分間しかプレーしていない。ともにドイツ代表に名前を連ねるマリオ・ゲッツェ、アンドレ・シュールレの加入により、完全に押し出されてしまった形だ。

 日本代表における3人の合計得点は実に「112」を数える。チームを引っ張ってきた軌跡は誰もが認めるが、一方で本田は自身の現状についてこうも語っている。

「試合勘でいろいろ言われているところは、当然ないわけがない」

 代表チームは身心ともに万全のコンディションを整えた選手が、プレーする権利を得られる舞台。実績や肩書が優先されるようなことがあれば、チーム全体の士気にも決して好ましくない影響を及ぼす。

 かつて岡田ジャパンの大黒柱だった中村俊輔に真正面から挑戦状を叩きつけ、ワールドカップ・南アフリカ大会を迎えて主役の座を奪ったのが本田だった。挑む側も挑まれる側もベストのプレーを演じ合う先に切磋琢磨する状況が生まれ、必然的にチーム力が上向いていく。

 実際、1学年上の香川の背中を追い続けてきた清武は、“ビッグ3”が不在の中で生まれた山口の劇的ゴールに大きな付加価値を見いだしている。

「常に3人が引っ張ってきたチームの中で、誰もいなくなったなかで取れた1点というのは、チームを底上げする意味でもすごく大事な1点だったと思う」

 清武はワールドカップ・ブラジル大会代表に選出されながら出場機会ゼロに終わり、コロンビア代表に屈してグループリーグ敗退が決まった翌日に酒井宏樹、酒井高徳の両DF、FW齋藤学ら同じく出番なしに終わったチームメイトたちと現地で練習。ロシア大会での捲土重来を誓った。

 イラク戦で先制点をあげ、切れ味鋭いドリブルで何度も左サイドから仕掛けたFW原口元気(ヘルタ・ベルリン)はブラジル大会代表そのものから漏れ、日本中がワールドカップ一色に染まった2014年6月に、成長を誓って浦和レッズからドイツへ飛び立った。

 清武は26歳、原口は25歳とともに中堅にさしかかっているが、それでも主力の大半が固定され、競争原理が働かなかった日本代表の中で、ようやく挑戦者の資格を得たと言っていい。もちろん、挑まれる側も黙っていない。試合後の取材エリアで香川が静かな口調で言った。

「自分には自分のよさがあるし、キヨ(清武)にはキヨのよさがある。それは監督が判断することだし、いまは結果を残した者が残っていけばいい。自分が必要になったときに、しっかりとピッチで表現できるように準備していきたい」

 後に振り返ったとき、2016年10月6日のイラク代表から奪った劇的な勝利とともに、世代交代のゴングが鳴らされたアニバーサリーとして刻まれるかもしれない。

(文責・藤江直人/スポーツライター)