“ブッフォンの恩師”が鳴らす警鐘…それでもGK大国イタリアの未来が明るい理由

“ブッフォンの恩師”が鳴らす警鐘…それでもGK大国イタリアの未来が明るい理由

(左上から時計回りに)フルゴーニGKコーチ、ドンナルンマ、ゴッリーニ、プリッツァーリ [写真]=Getty Images

 新星の生まれた瞬間だった。12月1日に開催されたセリエA第14節、サッスオーロvsユヴェントス。2−2のドローで幕を閉じた試合後、選手やスタッフから“もみくちゃ”にされていたあどけない顔の青年がいた。18歳のステファノ・トゥラーティだ。

 レオナルド・ボヌッチにミドルシュートを許し、クリスティアーノ・ロナウドにPKを叩き込まれはしたものの、随所でスーパーセーブを披露。ユーヴェから勝ち点1を奪う立役者となった。C・ロナウドのFKを絶妙な反応でストップしたのは圧巻だったし、ゴンサロ・イグアインやパウロ・ディバラのシュートもセーブして見せた。90分間、常に重心を低く保ち、ボールの位置に応じてポジショニングを微調整しながら集中を切らさず、サッスオーロの守り神と化した。

 ゲームが終わると、同じピッチの上で戦った23歳年上のユヴェントスGKジャンルイジ・ブッフォンからも祝福を受けたことを明かした。「『とても素晴らしかった』と言ってくれたよ。近くにいるだけで興奮したのに。もう、雲の上を歩いているような感覚だ。何が起こったのか理解できないよ」

 正GKアンドレア・コンシッリ、第2GKのジャンルカ・ペーゴロの負傷により、急遽巡ってきた出場機会だった。U−17イタリア代表で6試合に出場した実績があるとはいえ、イタリア全土では全く無名のGKの出現に、改めてGK大国イタリアの層の厚さを感じさせられた。

 遡ること今から約5年。筆者はFC東京でイタリア人GKコーチの通訳を務める幸運に恵まれた。そのGKコーチは、エルメス・フルゴーニ。パルマのユース時代に指導を受けたブッフォンが「今の自分があるのはこの恩師のおかげだ」と仰ぐほどの存在だ。

 ある日、トレーニングにFC東京のユースから4人の高校生GKがきたときのことは強く印象に残っている。練習が始まるとすぐに4人のGKを次々と背中合わせにし、両手を上に挙げて腕のリーチを比べた。「背が高く腕のリーチが短いGKよりも、背が低くリーチが長いGKの方がいい」という持論には目から鱗が落ちたようだった。トレーニング方法も、私が知っている、それまで日本で一般的に行われたものと異なり、ユースから教えを請いにきた高校生選手たちも少し戸惑っていたほどだった。そして、最も強く言っていたのは、「足の開き」。何度指導しても、シュートに対して構える選手たちの股下の開きが狭まらないと、ペナルティエリアの外からライナーで股下を射抜いてしまうその技術には、ただただ呆然とするしかなかった。高校生たちも思わず「す、すげえ……」と、自然と口が動いた。

「GKは股間を通されてシュートを決められたら、もう終わりだ。だから絶対に股間を通されてはならないんだ」。フルゴーニはそのとき、なんと66歳。還暦を超え、古希に迫る初老のGKコーチのそのシュートの凄さに、イタリア・サッカーの真髄を見た。イタリアに数多くの才能あるGKが存在する背景には、フルゴーニのような名伯楽がいるからだと、このとき悟った。

■ブッフォンの恩師は警鐘を鳴らす

 FC東京で通訳を行なっていた2014年2月1日のことだ。ウディネーゼで17歳のGKがデビューした。シモーネ・スクフェット。ちょうど、FC東京の高校生GKたちと同じ年頃であったから、スクフェットのデビューにはとても驚かされた。“ブッフォン2世”と期待され、デビューシーズンも13試合に出場したが、抜擢したフランチェスコ・グイドリンが去り、アンドレア・ストラマッチョーニが監督を務めた2014−15シーズンは出番を失い、15−16シーズンはセリエBのコモ、2019年1月にはトルコのカスムパシャにレンタル移籍。今シーズンはセリエBのスペーツィアに貸し出されて正GKとしてプレーしている。一線級の舞台から遠のいてしまった印象はあるが、まだ23歳と若く、トップリーグに戻れる可能性は十分にある。

 スクフェットの出現から1年半後、さらに度肝を抜かれた若者が現れた。ミランのジャンルイジ・ドンナルンマだ。2015年10月25日のサッスオーロ戦で、元スペイン代表のディエゴ・ロペス、元イタリア代表のクリスティアン・アッビアーティを追い抜き、シニシャ・ミハイロヴィッチ監督によって大抜擢される。すでに190センチを大きく超えたフィジカルに16歳と8カ月の年齢を疑うほどだった。

 ドンナルンマの存在は、その前のシーズンから「もの凄いGKがいる」と話題になっていた。前監督のフィリッポ・インザーギも前シーズンにすでにベンチ入りさせ、15−16シーズン開幕前の夏のトレーニングキャンプにも同行していたからだ。フィジカルや身体能力の凄さ以上に目を見張ったのは、その強心臓。最後方からつなぎのパスでミスをしても、萎縮せずに再び同じようなパスを平然と出す。肝が座っていた。ブッフォンと同じ名を持ち、まさに後継者にふさわしい存在で、弱冠20歳ですでにイタリア代表でも守護神として君臨。これから10年、15年に渡ってアッズーリを背負って立つことが期待できる。

 そしてドンナルンマの出現から1年。セリエBの舞台ではあるが、アレックス・メレトが脚光を浴びる。セリエBに昇格したばかりのSPALへのレンタルであったが、各年代のイタリア代表を経験し、所属元のウディネーゼではコッパ・イタリアにも出場していた。19歳のメレトは、16−17シーズンの開幕戦からレギュラーとして起用されると、49年ぶりとなるセリエA昇格に貢献。セリエAでも正GKとしてピッチに立った。余談だが、メレトは、ウディネの出身で、スクフェットも同郷だ。1982年ワールドカップ・スペイン大会の優勝メンバー、レジェンドのディノ・ゾフもイタリア北東部フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州の生まれ。そして、ブッフォンも生まれこそトスカーナ州のカッラーラであるが、父方のルーツはフリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州にある。この地方から数多くの非凡なGKが輩出されているのは興味深いものだ。

 これだけの人材が揃うイタリアだが、前出のフルゴーニGKコーチは警鐘を鳴らす。今年6月に5年ぶりに再会したときにこう述べていた。「イタリアのGKは危機にある。セリエAの外国人GKの数を見ればわかるだろう。それは今、優秀なイタリア人コーチが少ないからだ」

 一見してGKに関しては人材が豊富と思われるが、ミステル(イタリア語で監督やコーチの敬称)の苦言は、的を得たものだとすぐにわかった。ユヴェントス(ボイチェフ・シュチェスニー)、インテル(サミール・ハンダノヴィッチ)、ローマ(パウ・ロペス)、ラツィオ(トーマス・ストラコシャ)、ボローニャ(ウカシュ・スコルプスキ)、ウディネーゼ(ファン・ムッソ)、SPAL(エトリト・ベリシャ)、フィオレンティーナ(ベルトウォミェイ・ドラゴウスキー)、ジェノア(ヨヌツ・ラドゥ)、ブレシア(ジェシー・ヨロネン)、レッチェ(ガブリエウ)と、実に半数以上のチームが外国人を正GKに置いている。イタリア人GKにとって厳しい状況にあるという懸念はもっともなものだ。

■期待の“国産”GKたち

 それでも、クラブ史上初のチャンピオンズリーグ・ベスト16に駒を進めたアタランタには、ピエルルイジ・ゴッリーニがいる。SPALの下部組織出身で、マンチェスター・UのU−18にも所属。アタランタに入団する前には、アストン・ヴィラでプレーするなど異色のキャリアを歩んできた。ドンナルンマやメレトと比べて体格で劣るが、それを補えるだけの反射神経を持つ。11月のユーロ予選、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ戦では代表デビューを実現させている。ロベルト・マンチーニ監督はGKの選考にますます頭を悩ますことになりそうだ。

 また、トリノにはサルヴァトーレ・シリグがいる。32歳とベテランの域に達しているが、安定感はイタリア人GK の中でナンバーワンと言えるだろう。パリ・サンジェルマン時代の2013年から2年連続でリーグ・アン最優秀GK賞を獲得した実績は単なる飾りではなく、そのプレーから伺えるもの。若手GKと比べて足元の技術が若干劣るのは否めないが、守備力に関しては申し分ない。カリアリのアレッシオ・クラーニョも非常に評価が高いGKだ。今夏はローマへの移籍が噂されたものの残留。現在は右肩の負傷で離脱を強いられているが、年明けには復帰できる見込みとなっている。184センチとそれほど高さはないが、PKでは素晴らしい読みを発揮する。

 今年5月に行われたU−20ワールドカップで正GKとして存在感を示したアレッサンドロ・プリッツァーリも忘れてはならないGKだ。2年前のU−20W杯でもウルグアイとの3位決定戦に出場し、PK戦で2本をストップ。イタリア代表にとって大会最高となる3位入りの立役者となった。ミランの守護神ドンナルンマに移籍の噂が出たのも、この将来を嘱望される19歳のGKがいたからということもある。今シーズンはリヴォルノにレンタルし、当初は出場機会を得られなかったが、11月30日のクレモネーゼ戦からは4試合連続で先発している。

 U−20W杯ではプリッツァーリの後塵を拝したマルコ・カルネセッキは日本戦とエクアドルとの3位決定戦の2試合の出場に終わったが、一つ上のカテゴリーとなったU−21ではプリッツァーリからレギュラーの座を奪取。トラーパニでも不動のGKの座を確立している。彼らの強烈なライバル関係は、互いを大きく成長させることだろう。

 フィリッポ・インザーギが指揮を執り、セリエBで独走態勢に入ったベネヴェントはロレンツォ・モンティポーがゴール前に立ちはだかる。17試合を終えて8失点は圧巻の数字だ。U−21で出場経験のある23歳の名は来シーズンのセリエAでも話題となるだろう。クラブ史上初のセリエB挑戦ながら、17試合を終えて2位と大健闘中のポルデノーネでもイタリア人GKがレギュラーを担う。22歳のミケーレ・デ・グレゴーリオは、今夏にインテルからレンタル移籍してきた“傭兵”GKだ。そしてアレッサンドロ・ネスタが指揮するフロジノーネでは、インテル下部組織出身でイタリア代表経験があるフランチェスコ・バルディが正GKとしてリーグ2位の15失点に貢献。昇格プレーオフ出場圏内の3位につけており、来シーズンのセリエB復帰に大きな可能性を残している。

 セリエAではフィールドプレーヤー同様にGKも外国人の数が多くを占めるが、下部リーグに目を向ければ前途有為なイタリア人GKが育ちつつある。マンチーニ監督が指揮するイタリア代表のように、磨けば光る原石は決して少なくない。そうなれば、今は悲観的なフルゴーニGKコーチの見解も近い将来に変わってくるのではないか。GK大国イタリアは、まだまだ他国がうらやむような状況にあるはずだ。

文=佐藤徳和/Norikazu Sato

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