【#おうちWEEK特別インタビュー】中村憲剛の葛藤と逡巡。試行錯誤の末にたどり着いた「僕たちにできること」

【#おうちWEEK特別インタビュー】中村憲剛の葛藤と逡巡。試行錯誤の末にたどり着いた「僕たちにできること」

[写真提供]=中村憲剛

この期間、プロサッカー選手として何ができるのか。そして何をするべきなのか――。

試合後のミックスゾーンでも、個別のインタビューでも、必ずと言っていいほど的確に持論を展開してくれる中村憲剛。だが、今回はなかなか答えを見つけることができないという。話をしていても内容が何度も巡ってしまう。

葛藤と逡巡。そして試行錯誤。

彼はこれまでグラウンド上にとどまらず、オフ・ザ・ピッチでもファンを楽しませ、社会貢献を考えた言動を続けてきた。川崎フロンターレの掲げる地域密着、ファンへの向き合いを大切にし続け、率先して旗を振り、クラブカラーに昇華させてきた。自身のブログやSNSでの発言には、周囲に力を与え、しっかりと思いを載せつつ、絶対に誰かを傷つけない表現であることにこだわっているように思う。

復帰に向けてリハビリに汗を流していた司令塔は、この新型コロナウイルス危機に際して何を考えているのだろうか。その胸中に迫った。

取材・構成=青山知雄
写真提供=中村憲剛

――今年2月、日本にも新型コロナウイルスの影響が広がり始めました。当時のことを覚えていますか?

中村憲剛(以下、中村) 僕は早い段階で「これはまずいんじゃないか」と捉えた人間だったと思います。今も同じですが、自分が感染するかもしれない恐怖と、知らず知らずのうちに自分から誰かに感染させてしまう恐怖が当時からありました。ましてや自分はリハビリをしている立場だったので、もし感染してしまったら、しっかりトレーニングをしているみんなに多大な迷惑を掛けてしまう。リハビリ中の選手が感染してチームを止めてしまうことは決してあってはならないと思っていたので、「絶対に感染できない」と強く思っていました。なので当時は今以上にピリピリしていたし、そういう点で過去に経験したことのないストレスはかかっていたと思います。

――大ケガをした当時、「これにも何か意味があるはず」という話をしていました。大きく状況は変わってしまいましたが、改めて今回のコロナ禍は、中村憲剛という選手にとって何か意味があると捉えることができているのでしょうか。

中村 リハビリをしていたところに新型コロナウイルスの感染が広がってしまい、ケガの意味合いは大きく変わってしまったように思います。今まで当たり前のように過ごしていた日常が一変し、すべてがリセットされて、この非日常のような生活を日常として生きていかなければいけない状況になってしまった。それを頭の中で整理することがとても難しかったです。日々流れてくる日本を含め世界各国の映像やニュースを見たら、これはもう自分のケガとかリハビリどころじゃないなって。そしてまずは家族を守らなければいけないと思いました。また、そのタイミングで高校サッカー部の大先輩でもある志村けんさんが亡くなったことは本当にショックでしたし、同時期にJリーグの選手や関係者に発症者が立て続けに出てきました。目に見えなくて、どう対処していいか分からない未知のウイルスに対して、気をつけていても感染してしまう可能性があるという不安からメンタル面で前向きにはなれず、実際にトレーニングをできない日も何日かありました。でも、日が経つにつれて新型コロナウイルスの情報を少しずつ勉強・整理し、家にいること、自分が感染せず、周りの人にも広めないための対処法も含めて、自分の中で新型コロナに対しての距離感をつかめてきました。そこからようやく少しずつリハビリをする余裕ができていった感じです。サッカー選手として「自分のやるべきことは変わらない」と思い直したんです。

――さすがの中村憲剛も一度止まってしまったことがあった。

中村 さすがに止まりましたね。でも、今の状況を言い訳にして前に進まないのか、それでもコツコツやり続けるのか。そういう意味では、より自分を試されている感じがしています。いつ、どんな形でJリーグが再開できるか分からないですし、言葉にするのは難しいですけど、この期間がどんな意味を持つのかは、後になって答えが出るのではないかと思っています。

――オン・ザ・ピッチの話と並行して、プロサッカー選手として考えたことを聞かせてください。思慮深い憲剛さんだからこそ、サッカー選手の存在意義について考えを巡らせたのではないかと思います。

中村 以前から「サッカー選手にはボールを蹴ること以外にもできることがある」と考えるタイプでしたけど、まさに今はその本領が試されているんじゃないかと思っています。サッカー選手がサッカーをできない状況にあって、それ以外で何をどうやって発信していくか。ただ、この状況になってすぐの時は、SNSで発信をしても仕方がないんじゃないかと思ってしまう自分がいたのも事実です。でも、その一方で発信した時は皆さんから多くのリアクションもいただいていて……。そこは毎日葛藤しています。

――この期間、家族と一緒にピコ太郎さんの『#PPAP2020challenge』の手洗い動画に取り組んだり、フロンターレ折り紙でおうち時間を推奨したり、医療従事者の方々にメッセージを出したり、神奈川県のスポーツチームで連動したメッセージ動画に出演したりしていますよね。

中村 『PPAP』の動画を出したときにも思っていたんですけど、これを見て「親子で手を洗ってます!」とか「子どもが楽しそうに手を洗うようになりました!」っていうコメントが来て、とてもうれしかったんです。各家庭、親子で楽しみながら、みんなで感染予防できればいいなと。それが結果として感染予防の啓蒙活動につながりますし。そういう意味では、プロサッカー選手としてどう社会に発信していくべきかは、サッカーができていたときよりも考えるようになっています。よりプロサッカー選手としての価値が試されていると感じますし、ここはクラブスタッフとも話をしながら進めています。

――最近はいろいろな選手がインスタライブをしてファンとコミュニケーションを取ったり、YouTubeチャンネルを開設したりしています。

中村 みんないろいろやっていますよね。やってるからどうとかやってないからどうとかではなくて、できる人、やりたい人がやればいいと思うし、強要するものでもないと思います。大事なことは受け取る側に何を残すかだと思うし、それが例えば熱いトークでも、懐かしい思い出話でも、面白い対談動画でもツイートでも写真1枚でも何でもいいと思うんです。とにかく見ている人に家にいる時間を楽しんでもらったり、少しでも笑顔や元気を取り戻してもらえるだけで、その投稿に価値はあると思いますから。

――4月22日のブログに「自分にできることが何なのかを、より考えるようになった」と書いていました。実際、自分にできることの結論には達したんですか?

中村 結論ですか? そうですね……さっきも話したように、まずは皆さんに可能な範囲で家にいてもらうことを考えて、家で過ごす時間を少しでも有意義にしてもらうことを優先しました。同じ状況下にいる自分が、家族と何をして過ごしているか。ワンシーンかもしれませんが、皆さんと共有するためにその様子をSNSにアップして、「今は家にいることが何よりも大事」と伝えることだと思っています。今、医療従事者の皆さんを始め、自分たちの生活を回してくれている方たちは、感染のリスクを抱えながら働いてくれています。自分たちはそういう方たちの負担になってはいけないですし、自分が感染しない、人にも感染させないためにも家にいて、家でできることを提案するようにしました。

――いろいろ考えた結果、自分にできることは家にいること、そして少しでも事態を収束させるための取り組みを啓蒙することであると。

中村 とにかくウイルスを広げないことが一番大事だと思います。フロンターレ選手会からのメッセージをクラブのYouTubeチャンネルで出しましたけど、自分たちのできる範囲で医療従事者の皆さんの支えや励みになることをしていきたいと思っています。とにかく根幹の部分……このウイルスを広げないようにすること、病院に負担をかけないことが重要なので。あとはSNSやこういった取材を通じて、読んでもらった読者の方々にこの思いを共感してもらって、広がったらありがたいです。

――選手会として出した医療従事者の皆さんへのメッセージ、本当に欲しいのはエールや拍手じゃないのでは……という議論があった上で、具体的支援を視野に入れながら、「まずは言葉で伝えよう」という思いで実施に至ったと聞きました。

中村 実はチームメイトのご家族に看護師をされている方がいて、その病院が新型コロナの対応ですごく大変だと聞いたので、その選手を通じて「くれぐれも体調に気をつけてください」って伝言をお願いしたんです。もちろん軽々しく言えることじゃないのは分かっていましたけど、それでも本当に心配だったので一言だけでも伝えてもらいたくて。そうしたらそれをすごく喜んでくれて、そのメッセージを他の看護師さんたちに見せてもいいかと聞かれたんです。

――表に出ないメッセージとリアクションがあって、憲剛さんのメッセージが現場で奮闘する看護師さんたちに伝わっていた。

中村 この件で自分の存在価値や意義を見つめ直せた気がしました。そしてほぼ同じタイミングで選手会の方でもいつもお世話になっている川崎市の病院に何かできることがあるのではないかという話が出てきて、まずは感謝と激励の動画を送ろうよと。これまではサポートしてもらっている側でしたけど、逆に支えることができるのではないかって。今、医療従事者の皆さんは本当に大変だと思います。感染のリスクと戦いながら、最前線で奮闘してくれている。とにかくこのウイルスにおける病院の負担を減らすことが大事なので、そのために何ができるか。命に関わる別の病気を患っている方はたくさんいるし、診てもらいたいけど診てもらえない方が増えないように周りへの思いやりと、自分の行動による影響への想像力を日々持って生活してもらえたらと思いますし、それを少しでも広めてもらえたらありがたいです。

――憲剛さん自身も病院で診察やリハビリができない状況です。いろいろな思いと行動がつながっていたということですね。

中村 当初は励ましの言葉よりも物資やお金のほうがいいんじゃないか、メッセージなんて自己満足なんじゃないかって、正直思う部分がありました。もしかしたら「選手の声なんていらない」って言われるかもしれないって。なので、SNSを通じて応援のメッセージを上げることも半信半疑でした。でも、実際に自分たちの声が力になることがあると再認識できた。メッセージを見てくれた方の力に少しでもなれたのならうれしいし、少しでも前向きになれたり、辛いことをその動画を見てる間だけでも忘れてもらえたら、それだけで意味があるのではないかと。東日本大震災のときも発生直後はあまりにもショックすぎて、サッカー選手として被災地の方たちに何をしたらいいか正直分かりませんでした。それでも被災地に行き、顔を合わせ、ボールを蹴ることで子供たちが喜んでくれて、自分たちの存在意義を感じることができました。今回は顔を合わせられないし、同じ場所で直接的に何かをできない状況ですが、皆さんのために自分たちにもやれることはあるのではないかと思っています。メッセージ以外のサポートをしていく部分では、まずその第一歩として、医療用防護服の代替品として使えるクラブグッズのポンチョを、フロンターレ選手会から川崎市内の医療機関に送る予定にしています。

――本当にできることを一つずつですね。その一方、政府の緊急事態宣言が期間延長され、Jリーグの再開にはもう少し時間がかかりそうです。

中村 正直、サッカーがないことで日常からこんなに彩りがなくなってしまうとは思っていませんでした。サッカー以外も含めて、エンターテインメントが僕らの日常生活を彩っていたんだとすごく感じています。みんなが再開を待ち望んでいると思うので、中断期間が明けたときに「やっぱりサッカーって素晴らしいな。最高だな」と思ってもらえるように準備しなければいけない。それが選手としての務めだと思います。

――改めてファンの皆さんにメッセージをお願いします。

中村 誰も経験したことのない状況ですし、綺麗ごとで済む話ではないとも思っています。正直、何を話せばいいか……何を話しても難しい部分はあります。ただ、その中で可能な限り、自分たちがやるべきことを精査して、情報も整理して、このウイルスに正しい距離感で臨まなければなりません。一人ひとりが感染しない、させないという意識を強く持って、事態収束に進んでいくことも求められています。もちろん経済を止めないようにする手段も必要になってくると思います。自分たちが望む未来を手にするためには、自分たちひとりひとりの行動がとても大事であるということ。みんなで社会と医療を支えて、あるべき未来、そしてサッカーのある日常を僕たちの手に引き寄せましょう。

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