後任を指名できるならジェラードに…クロップ監督が本音で語り尽くす【雑誌SKアーカイブ】

後任を指名できるならジェラードに…クロップ監督が本音で語り尽くす【雑誌SKアーカイブ】

リヴァプールを率いるクロップ。18−19シーズンにはチャンピオンズリーグ制覇へと導いた[写真]=ニューバランス

[サッカーキング No.009(2020年1月号)掲載]

マージーサイド出身のコメディアンであるジョン・ビショップは、あるクラブの練習場へ向かった。
迎えたのは“平凡な男”、ユルゲン・クロップだ。クロップは対談を通じて、様々な質問に答えた。
チームの再建やタッチライン上での振る舞い、そして誰もが気になる後任監督についても……。

構成=FourFourTwo
翻訳=田島 大
写真=ニューバランス、ゲッティ イメージズ

「ユルゲン・クロップについて知っている」と思っている人も、考えを改める必要がありそうだ。そう感じさせるほど、彼はメルウッドの練習場で様々な話題について気さくに話してくれた。

 マージーサイド出身のコメディアンにして元ノンリーグのフットボール選手であるジョン・ビショップとの対談は、10月に発売された書籍『A Game of Two Halves』の企画として行われた。この本は、ミュージシャンやジャーナリストといった著名なフットボールファンが、彼らのヒーローである選手や監督と対談するというものだ。収益はUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)に寄付され、難民の子供たちの認知度を上げる活動にあてられる。まずビショップは、その話題を切り出した。

ON RACISM 人種差別

ビショップ(以下B)──インタビューを引き受けてくれてありがとう。この本の目的は知ってる?

クロップ(以下K)──チャリティだよね? 「チャリティ」の文字と君の名前を見てすぐにOKを出したよ!

B──フットボールは世界で最も愛されているスポーツだから、難民の子供たちへの大きな助けになるはずだ。ある意味、フットボールはその国の情勢を反映する鏡だと思う。例えば、英国ではブレグジットが八方ふさがりになった頃、フットボールにおける人種差別の問題が再び顔を見せ始めた。

K──そのとおりだと思う。先日、フランス誌の記者からこんな話を聞いた。ジョージ・ウェアをはじめとする偉大な選手でも、バロンドールのような個人賞で正当に評価されなかったと感じているらしい。そこに人種差別があったと確信している、と。びっくりしたよ。私にはなかなか理解できなかった。世界の見方が違うと言うべきかもね。私からすると、チームや選手を選ぶ基準はフットボールの実力、それだけだ。肌の色、宗教、人種なんて関係ない。いいプレーをできるかどうか。重要なのはそこだけだ。チーム内では、それ以外のことを考える人なんていないはずだ。リヴァプールには、モハメド・サラーやサディオ・マネのために礼拝堂がある。試合の前に体を洗うウドゥ(小浄)を含めてイスラム教のすべての習慣を尊重していて、試合前のルーティーンの一部として時間を設けている。リヴァプールの関係者は、自分と違う人間がいることを理解している。そのなかで、全員がクラブのために同じ気持ちでベストを尽くすんだ。

B──英国のフットボール界にとっては比較的、新しい変化なのかもね。1987年にリヴァプールに入団したジョン・バーンズが非難を受けたのを覚えている。その10年前、ハワード・ゲイルがクラブ史上初の黒人選手になったときには、「リヴァプールは黒人とサインしない」と言う人もいた。それがクラブの理念だったわけじゃない。ただ、彼らは標的になりやすい選手だったんだ。“初めて”というのは何かと狙われやすい。今では、フットボールは国際的なスポーツの代表格だ。素晴らしいことだよ。少し前まで、イスラム教徒がプレミアリーグでプレーするなんて想像していなかった。それまでは完全に白人の労働階級のスポーツだったからね。

K──そうだね。マインツでの現役時代、旧ユーゴスラヴィアが崩壊してバルカン半島は紛争の連続だった。当時のマインツにはクロアチア人もセルビア人もいた。そのほかの旧ユーゴの選手もね。だが、彼らは問題なくつき合っていたよ。ただし、紛争の話にだけは触れなかった。そもそも、彼らは紛争が理由でマインツにやってきたんだ。彼らも自宅では母国の報道を見ていたはずだ。クロアチア人とセルビア人がお互いをどう思っていたかは分からないが、チーム内では一度も問題が起きなかった。もちろん、世の中に問題がないと言っているわけじゃない。我々は人間だし、長所も短所もあるからね。でも、お互いの弱みを指摘して「だからお前は違うんだ」と非難したりはしない。

B──今年上旬、イングランド代表のカラム・ハドソン・オドイやダニー・ローズが、モンテネグロで差別的なチャントを受けた。

K──正直、人種差別行為はフットボール界から消えたと思っていた。だから、そのニュースを聞いてショックを受けた。普段、私はテレビの音を消してフットボールを見るようにしている。解説者の意見には興味がないんだ。だからラヒーム・スターリングがイングランドの5点目を決めたあと、モンテネグロのファンに向かって耳に手を当てたときは理解できなかった。何があったのか知ったのはそのあとだ。私には同じような経験がないから、彼らが味わうつらさを完璧に想像することはできない。でも、再び人種差別の問題が起こるのは馬鹿げている。なんの罪もない人が非難されるなんてね。ブレグジットがいい例だ。なぜブレグジットが必要だと思う? 国境を作るためだ。では、なぜ国境が必要だと思う? 特定の人たちを入国させないためだ。「条件に合わないから入国できません」と追い払うんだ。だからこそ、フットボール界の人種差別が理解できない。フットボールは世界中の人々を一つにするスポーツのはずだ。言語が違ってもうまくいくじゃないか。もちろん、その国の言語は学ぶ必要があるけどね。例えば、ナビ・ケイタを使い続けないのは、彼が我々の会話を30パーセントほどしか理解できないからだ。彼はみんなに愛されているが、語学力が十分なレベルに達していない。

ON GERMANY AND HISTORY ドイツと歴史

B──あなたはドイツの近代史の過ちを直に経験することなく育った最初の世代だよね。

K──ああ。「Vergangenheitsbewaltigung」というドイツ語があって、直訳する言葉はないが、「過去を克服した」という意味に近い。

B──ということは、人を区別して除外するより、一つにまとまるほうが有益だという教育を受けたの?

K──よく聞いてくれ。私は祖国を愛している。でも、ほかの国よりも好きかと言うと、別にそういうわけじゃない。それが本音だ。でも知り合いが一番多くいるのはドイツだし、そもそも私はドイツ人だ。だから祖国に不満があるという話ではない。ドイツという素晴らしい国が、歴史上で大きな過ちを犯したのは知っている。愚か者に従って間違った方向に進んでしまった。彼一人の問題じゃない。周りは彼に従った。私より上の世代は「実際に何が起きているか分からなかった」と言い訳をして、責任から逃れようとする。差別問題がどれも同じだとは言わないし、比較対象にしてもいけない。だが、歴史は変わらない。私たちは世の中のことに対して、知らないふりをしてはいけないんだ。

ON TAKING THE LIVERPOOL JOB リヴァプールという選択

B──リヴァプールという街は、カッコいい言い方をすれば「社会主義の街」だ。あなたはリヴァプールの市民と特別な関係性を築けていると思う。でも、最初にリヴァプールからオファーをもらったときはどんな気分だった? なぜ引き受けたの?

K──この街のことは少しだけ知っていた。就任の数年前に仕事で訪れたことがあって、アルバート・ドック(埠頭)も見たし、街の再開発についても教えてもらったよ。でも知識はそれくらいだった。フットボールファンとして言うと、クラブが4、5年ほど苦しんでいるのは知っていた。優勝しかけた13−14シーズンを除いてね。当然、リヴァプールの輝かしい歴史や国内外での実績は知っていた。簡単に言えば、私はその栄光の日々をクラブに取り戻したかった。再び花を咲かせるのに少し手入れが必要な庭に見えたんだ。当時のチームはリヴァプール史上最高というわけではなかったが、大半の選手は優秀だった。うまく説明できないが、「これだ」と思った。誘いがあれば、絶対に挑戦したかった。あとはタイミングの問題で、マインツとドルトムントで指揮を執ったあと、私は休暇を取ろうと思っていた。結局、4カ月で休暇を切り上げることになってしまったね。

ON THE ENGLISH LANGUAGE 語学

B──あなたの最初の記者会見を覚えている。何より印象的だったのは英語力だ。

K──イングランドの人はいいよ。ほかの言語を話す必要がないんだから! 私も母国語が英語だったら外国語を覚えようなんて思わなかっただろうね。ドイツの学校では第一外国語として英語の授業があるけど、私は本当に英語が苦手だった。私には30歳と33歳の息子がいる。息子たちは英語圏に住んでいないけど、流暢な英語を話せるよ。おそらく英語の音楽をたくさん聞いているおかげだと思う。私の英語力は、意見を伝えるうえでは問題ないが、それでもまだ少し拙い。会話することが好きだから語学には興味がある。だからイングランドに来る前から『talkSPORT』(英国で放送されているラジオ番組)を聞いていたんだ。信じられないほど馬鹿げた話をするけど、フットボールで使われる英語を学べたし、スコットランドやアイルランドといった地域の方言にも触れられた。リヴァプールに来てからも、練習場への行き帰りの30分間はそのラジオを聞きながら、語学力とボキャブラリーを鍛えた。

ON LEADERSHIP リーダーシップ

B──「手入れが必要な庭」だと言ったよね。それから4年が経って、チームの状況はかなり改善された。それはあなたというリーダーがいたからだけど、周りの人の支えも大きかったんじゃない?

K──私が思う一流のリーダーとは、“強者”をそばに置く自信がある者だ。力のないリーダーにはそれができない。何をするにも、自分よりも優秀な人材とは一緒に働けないんだ。私はすぐに他人を認めることができる。マインツで監督業を始めたときは、すべてを自分でやらなければいけなかった。スカウト部も分析官も、練習を手伝ってくれる人もいなかった。だからこそ、リヴァプールで働くすべてのスタッフに感謝しているし、リスペクトしている。うちのスタッフは、それぞれの分野で間違いなく私より優秀なんだ。

B──あなたがリヴァプールへ来た当初からともに働いてきたペップ・ラインダースも、昨年の夏、アシスタントとしてオランダから戻ってきたね。

K──私は最高の人材と働きたい。栄養管理を任せている女性スタッフのモナ・ネメルはバイエルンから連れてきたし、フィジオもドイツから連れてきた。イングランドのフィジオはマッサージ師よりも医師に近くて、私にはちょっと理解できなかったんだ。練習場の雰囲気作りも大事にしている。選手とスタッフ全員をテネリフェ旅行に連れていったこともある。もちろん、彼らの家族も呼んでね。私はそうやってチームを築いていった。クラブ内にいい雰囲気を生み出しているし、結束力を強めることにもつながっている。スタッフは裏方と言われることがあるが、全員で一つのチームだと思う。うちのクラブで働くすべての人は、大切な存在だと自覚しているはずだ。君も、さっきあそこのレストランでランチしたときに感じただろう? ここのスタッフはみんな親切だって。

ON CHRISTIANITY キリスト教

B──信仰心は、選手にとって自信を生み出す源になっていると思う?

K──そういうふうに考えたことはないけど、キリスト教は私にとって重要だ。職場を少しでもいい環境にするための努力につながるという意味でね。人は誰だって自己中心的だが、度がすぎてはいけない。やりたいことばかりをするのではなく、多くの場合はやるべきことをやるんだ。難しいことではない。私は神父じゃないし、教えや生き方を説く立場ではないけど、キリスト教は素晴らしいと純粋に思う。以前、記者会見で「我々は神様に見られている」と話したことがあるけど、それが私の考えだ。だから悪いことはしないし、人を傷つけたりもしない。ただ、選手のことは傷つけるかもしれない。試合に出してやれないこともあるし、放出することだってあるからね。監督業の最もつらい部分だよ。でも試合に負けるのは、どんなときだって私の責任だ。

B──道理をわきまえた言動で、人を傷つけずにベストを尽くすということだね。

K──そういうことだ。聞かれる機会がないだけで、きっと大半の人が同じ意見だと思う。

ON TOUCHLINE ANTICS AND GUARDIOLA タッチライン上での振る舞いとペップ

B──いつも試合前にタッチライン上に立ち、対戦相手のウォーミングアップを眺めているのはなぜ?

K──可能な限り情報を得ようとしているだけだよ。自分のチームのことはいつも見ているから、試合当日に確認する必要がない。それに対戦相手を見ていると、たまにアップのときにその日のフォーメーションになることがあるんだ。試合前にスタメン表は渡されるが、フォーメーションまでは分からない。だからそこで4 バックなのか、3バックなのかを確認する。アップのときにDFラインが4人なら、その試合は4 バックでくると推測できる。あとは対戦相手の雰囲気を吸収する。それが一番の理由かもしれない。ヨーロッパリーグで古巣のドルトムントと対戦したとき、私がピッチ脇にいれば彼らの気が散ると思って、どんなに嫌がられても立ち続けた。その作戦がうまくいって、我々は試合が始まる前に小さな勝利を収めたよ!

B──ボクシングの公開計量でボクサーがにらみ合って、気合いをアピールするみたいだね(笑)。

K──別に挑発しているわけじゃない。相手に興味があるだけだ。相手選手がかなり近くに来ると気まずいけど、もう慣れたかな。彼らは私の視線が気になって、アシスタントコーチに「よそ見をするな」と怒られていたよ(笑)。

B──サポーターは、今のリヴァプールの活躍や監督の手腕に満足している。よくあなたのピッチサイドでの情熱的な振る舞いが取り上げられるけど、リヴァプールの監督になったら私でも同じように振る舞うと思う!

K──ハハハ!(大爆笑)

B──僕らフットボールファンは、あなたがベンチに静かに座って試合を見守る日を見ることはないのかな?

K──いつかそんな日も来ると思うよ。信じてもらえないかもしれないけど、今だって以前よりずっと落ち着いた。監督はいろいろと準備して、試合の前まで選手に様々な指示を送るし、できる限りのアドバイスや情報を与えておく。試合中は展開も早いし、観客の歓声で指示を出しても聞こえないから、あまり指示を送れない。まともな会話ができるのはハーフタイムくらいだ。私の仕事は予備タンクみたいなもので、選手のエネルギーがなくなってきたら、私が分け与える。彼らにはこう伝えてある。「私にエネルギーは不要だから君たちにすべて分け与える。だから、全力でぶつかっていけ。パワーが足りなくなったら、私が叫んでやるから」ってね。「チャンスを逃した」と試合後に後悔するくらいなら、私を恨んでパワーに変えてほしい。「監督、あんたはクソ野郎だ」と怒って、自分の実力を示してくれるほうがよっぽどいい。でも、タッチラインでどんな言動をするかなんて意識したことがないな。自然とああなっているだけで、どう見られているかなんて気にしたことはない。自分が戦術家として見られていないのは知っているよ。戦術家になるには熱すぎるからね(笑)。

B──一方でジョゼップ・グアルディオラは戦術家と呼ばれているね。

K──ペップは情熱的だが、熱くなりすぎない。それに彼のほうが叫ぶ姿も様になっている。彼はいつだって完璧だ。体型、服装、すべてにおいて非の打ちどころがない。私が叫ぶと、連続殺人犯に見えてしまう(笑)。歯の食いしばり方といい、そういう顔つきだから。この顔で「かわいいね」って赤ちゃんに近づくと、たいていの場合は泣かれてしまうんだ(笑)。

ON HIS ‘INTENSITY’ インテンシティ

B──勝敗に関係なく、試合のあとはどう切り替えて翌日の練習に備えているの?

K──以前よりはうまくなったと思うけど、オンとオフを切り替えるなんて無理だよ。試合後には12 、13 本ほどのインタビューが待っているから、一人で考える時間なんてない。

B──え? 何本のインタビューだって?

K──12 本くらいだ。テレビ用が6本、そのあとラジオ、ラジオ、ラジオと続いて最後にクラブ公式テレビ用のインタビューといった感じでね。

B──契約で決められているの?

K──そう。チャンピオンズリーグのときはもっと多い。

B──それだけのメディア対応をこなせば、試合の興奮が冷めてくるんじゃない?

K──それはどうかな。試合が終わったあと、控え室に戻って1分ほどしたら(クラブ広報部長の)マット・マッキャンが迎えにくるから、なんというか、たまに感情が“半生状態”のままメディア対応を強いられることもある。調理する前のお肉とでも言うべきかな。で、いきなり「なぜあの選手を起用したの?」といった馬鹿げた質問をぶつけられるんだ。言いたいことを我慢する術を身につける必要がある。私の場合、「超」がつくほどの負けず嫌いだからなおさらね。今のところはうまくやっている。適当におもしろそうなコメントだけを拾おうとしたり、真実を問い詰めて、過激な見出しを引き出そうとするメディアに対しては穏やかではいられなくて、たまに言い返してしまうけど。ドイツ時代、私は変なインタビューをすると有名だった。生中継のインタビューで「君はどの試合を見たんだ?」とインタビュアーに言い返したもんだ。

B──イングランドに来てから、そんな姿は見せていないね。

K──もうそういう人間じゃない。かなり丸くなったよ。

B──年齢を重ねて?

K──そのとおりだ。インタビューを終えて選手と話したあとは、試合のことは一切考えないようにしている。息子は2人ともフットボールが大好きだから、リヴァプールに遊びに来るといつもフットボールの話をしてくる。ドイツからもショートメッセージを送ってくるし、「お願いだから黙ってくれ」と言ってるよ(笑)。私は毎週末ピッチの横にいるわけだし、翌日には次の試合についてミーティングを開くんだから、少しくらい休ませてほしいってね。

ON THE NEXT LIVERPOOL MANAGER 後任監督

B──リーダーとしての自信について触れたけど、それはクラブにレジェンドと呼ばれるOB がいても平気だということにつながってくるのかな。クラブの非常勤役員にケニー・ダルグリッシュがいるけど、あなたは彼の存在を煙たがらない。それどころか、スティーヴン・ジェラードをU−18チームの監督に迎えたこともある。監督の中には、「OBにはクラブに近寄ってほしくない」と訴える人もいそうだけど。

K──そもそも、ケニーとスティーヴィーはとても私に協力的だったしね。それに私の立場は、周りに誰がいようと関係ない。もし明日私がクビになったら、おそらくケニーが後任候補の筆頭になるだろう。あるいはスティーヴィーをグラスゴーから呼び戻すかもしれない。誰を後任にするかと聞かれたら、私はスティーヴィーと答えるよ。彼は今日もここに来ていた。たった10分の用事のためだけにね。だから私もなるべく彼の力になりたい。監督の座を誰かに奪われても、後任者には何の非もない。私が実力不足だっただけの話だ。私は天才でもなければ完璧でもないけど、クラブのために100パーセントの力を尽くす。それでうまくいかなければ仕方ない。私は人をねたんだり疑ったりしないし、いつだってオープンだ。家族には、簡単に人を信用しすぎるなとよく注意されるけど、疑っている時間がもったいないだろう? 私は人生を楽しみたいし、この仕事を愛している。大半の人のことも好きだ。それじゃダメかな?

ON BEING ‘THE NORMAL ONE’ “ノーマル・ワン”

B──初めて会った日のことを思い出すよ。あなたは高級車ではなく、オペル社製の車でメルウッドの練習場にやってきた……。

K──今でもオペルに乗っているよ。

B──さすがだ(笑)。でもフットボール界で活躍する人って、もっと違うイメージだよね。あなたはそういうフットボール界の派手な部分を全く見せないというか、この世界に汚されていない独自の世界観を持っている。仕事をしていないときは何をしているの?

K──妻、犬、友人、家族と一緒に過ごす。一番の親友は2人の息子だ。最高だよ。さっきも言ったとおり2人ともフットボール狂だからしょっちゅう遊びにくるんだ。ビッグマッチのときは必ずと言ってもいい。先日、妻と息子、それから息子のガールフレンドを連れてドバイで6日間の休暇を過ごしたよ。それ以上の幸せがどこにあるって言うんだ? 正直、私が監督業を楽しめるようになったのは、お金の心配がなくなってからだった。あまりお金に執着しないから、キャリアの序盤から楽しんでいたけどね。現代のフットボール界で私たちがもらっている給料はクレイジーだ。ただ、私たちは仕事を失う可能性があるし、社会的に消される危険だってある。もしメディアやファンがその気になれば、私は二度と監督業に戻れなくなるだろう。ドイツではそういう事例がいくつもある。私の場合、マインツでの監督業がうまくいったことで自由を手に入れた。「監督としてやれる」という確信を持てたんだ。だからそのあとは、フィジー代表の監督になってもいいし、それなりに結果を残せるはずだと思えた。でも、結果を出すまでは厳しいプレッシャーとの戦いだ。私にはフットボール以外に得意なことなんてない。だから、この仕事じゃないとほかに何をすればいいのか分からない。お互い恵まれているよ。君もきっと、お金の心配がなくなってから楽しめるようになったはずだ。

B──私の場合は、少し変わっているかもしれない。スタンダップコメディを始めたのが遅かったからね。ある日突然、「舞台はアリーナなのかパブなのか分からないが、コメディアンになれる」と思った。そのときは、お金も何も気にしていなくて、「できる」という気持ちだけで突き進んだ。

K──私は、見ている人に立派な監督だと認めてもらうことが重要だった。そう評価されたとき、「これで好きなだけこの仕事ができる」と確信を得た。まさに今だね。

B──2022年まではリヴァプールを率いるんだよね?

K──契約は2022年までだ。

B──では、ここはもうあなたにとってホーム? 今でも生まれ故郷のシュヴァルツヴァルトがホームのまま?

K──19 歳のときにシュヴァルツヴァルトを離れたから、ホームと呼ぶべきはマインツかな。新しく家を建てているところなんだ。息子の一人もマインツに住んでいて、もう一人はベルリンにいる。

B──勇気を出して聞くんだけど、マインツってどの辺にあるの?

K──ドイツの南西でフランクフルトの隣にある。人口はおよそ18万人で、その多くが学生だ。ライン川の川辺にたたずんでいて、ワインで有名な街でもある。本当に素敵な
街だよ。気候もリヴァプールやドルトムントよりいい……(ドアをノックする音が聞こえる)おっと。ごめん、もう行かなくちゃ。今日は来てくれてありがとう!

※この記事はサッカーキング No.009(2020年1月号)に掲載された記事を再編集したものです。

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