異色のキャリアを歩みACLで輝く“もう一人のスズキケイタ”…「僕に続くような選手が出てきてくれたらうれしい」

異色のキャリアを歩みACLで輝く“もう一人のスズキケイタ”…「僕に続くような選手が出てきてくれたらうれしい」

[写真]=姜 亨起

単なる1勝以上の価値があった浦和戦の勝利
「鈴木啓太さんのことは、もちろん知っていますよ。小さい頃から、自分の名前を言うと“え、スズキケイタ!?”って聞き返されることはたくさんありましたから(笑)」

 今年4月21日、タイで行われたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)グループFの第3節で、浦和レッズを破った大邱FCにいた、もう一人の「スズキケイタ」を覚えているだろうか。

 彼の名は鈴木圭太。現役時代、浦和一筋で活躍した元日本代表の鈴木啓太氏とは同姓同名の24歳だ。当時の浦和戦では後半8分、自身の左足から絶妙なアーリークロスを送り、決勝点となるブラジル人FWゼカのヘディングゴールをアシスト。チームの1ー0の勝利に貢献した。

「もともと大邱FCがクロスの練習をたくさんするのと、ペナルティエリア内に人数もいたので、“上げれば何か起きるだろう”と思い、ボールを高く上げて、上から落とすイメージで蹴りました。そうしたら、自分のキックの感覚も良くて、ゼカが高い打点で合わせてくれましたね」

 大邱FCのクラブハウスで行ったインタビューで、当時の得点シーンをそう振り返った。「僕自身、アシストという形に残る結果を作れたことはすごく大きかったです。それに、相手が浦和ということもあってか、古い友達からも連絡があったりしてうれしかったです」。その言葉のとおり、大邱FCにとって浦和戦の勝利は単純な1勝以上の価値があった。

 大邱FCは過去のACLで2019年にサンフレッチェ広島、2021年に川崎フロンターレ、名古屋グランパスといった日本勢と対戦したが、通算5試合で一度も勝ったことがなかった。そんなチームに、記念すべき対日本勢初勝利をもたらした殊勲の一人が、日本人の鈴木だったわけだ。

6年間、東欧で揉まれ、たどり着いたKリーグの舞台

 Kリーグでの登録名を「ケイタ」とする鈴木は神奈川県に生まれた。地元横浜のサッカークラブである田奈SC、FC C.O.J.Bを経て、大阪府の桃山学院高校を卒業後にモンテネグロへ留学。2016年、トライアウトを通じて同国2部のFKイバルでプロデビューを果たした。

 その後は同カテゴリーのFKベラネを経て、1部のFKポドゴリツァ在籍時の昨年7月には、UEFAヨーロッパカンファレンスリーグ(UECL)予選1回戦に出場。東欧の小国で6年間、ステップアップを重ね、今年1月末に韓国Kリーグ1(1部)の大邱FCに加入した。

「ポドゴリツァで欧州の国際大会も経験できたので、タイミング的にも移籍したいと思っていたときに、大邱FCからオファーをいただきました。大邱FCではACLに出場できるチャンスもありますし、アジアで自分がどれぐらいの位置にいるのかを知りたかったんです。なので、僕としてはこれまでと違う、また新しい挑戦という意味で韓国に来ました」

 左ウイングバックやサイドバックを主戦場としつつ中盤もこなせる鈴木は、激しい接触もいとわないハードワークが持ち味。身長172センチと小柄ながら、「泥臭いプレーに全く抵抗がない」スタイルだからこそ、Kリーグにやりがいを見出したという。

「Kリーグについてはもともと、球際の激しさやフィジカル面でレベルが高いと思っていましたし、自分のプレースタイル的にも合っているのかなと。大邱FCも2002年創設と比較的新しく、サポーターがとても熱いチームと聞いていたので、そのような環境でサッカーができることに魅力を感じました」

 もっとも、今シーズンの鈴木は十分な出場時間を得られているわけではない。リーグ戦では27試合消化時点で19試合に出場したが、うち先発起用は7試合のみ。同じ左ウイングバックのポジションでは、2018年ロシア・ワールドカップのメンバーであり、先月のE-1サッカー選手権にも出場していた現役韓国代表のホン・チョルが主力を張っている。

「やはりホン・チョル選手は代表経験もあるので、試合中もみんなから頼りにされています。それに比べると、僕はまだKリーグでの経験も浅い。そのぶん、誰よりも献身的なプレーをして、球際など泥臭いところで絶対に相手に負けないということを心掛けています。ホン・チョル選手が出場できないときに自分が出て、何をアピールできるのかというのは、常に考えています」

「自身の成長」を何より大事な指針に

「でも、あまり試合に出られていないことに関して、僕はそこまで悲観していない」。そうきっぱりと言った鈴木が強調したのは、「成長」という言葉だった。

「僕は“自分の成長”というものをとても大事にしています。この1年間チャンスをいただいて、試合に出られないときもありますが、それは単に現時点での結果でしかありません。今意識しているのは、大邱FCに加入した1月から、シーズンが終了する10月までの期間で、自分がどれだけ成長できたのかということ。もちろん、試合に出て目に見える数字を残すことも大事ですが、結果の部分にとらわれすぎることなく、自分が日々どうすれば成長できるかを考えて過ごしています」

 一度もJリーグでのプレー経験がない鈴木は、日本では“無名”に近い選手だった。それでも、モンテネグロでスタートさせたキャリアを着実に積み上げ、大邱FCを通じてアジアの舞台にまで登り詰めた。そして、浦和戦で見せた活躍をきっかけに、日本でも自身の存在が広く知られるようになった。

「僕はJリーグでプロにはなりませんでしたが、そういうチャンスがあまりなかった選手でも、自分で海外に行って、しっかり自分自身と向き合って成長できれば、違う国でもプロとしてやっていけます。Jリーグだけがプロの道ではないということを、僕の姿を見て知ってほしいですね。それこそ、Jリーグでプロにならなかった選手が、ACLという大きな舞台に出ている姿を見ていただいて、これから僕に続くような選手がどんどん出てきてくれるとうれしいです」

 8月18日、浦和駒場スタジアムで行われるACL決勝トーナメント1回戦の大邱FC対全北現代モータース。大邱FCとしては、勝てば史上初の準々決勝進出となる同国対決で、鈴木はプロになって初めて、日本のピッチに足を踏み入れることになる。

 グループステージで対日本勢初勝利に貢献したように、今回もチームの史上初の快挙に一助することはできるか。駒場の地でACLを戦う日本人Kリーガー、「鈴木圭太」に再び注目する時だ。

取材・文=姜 亨起(ピッチコミュニケーションズ)
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