【コラム】「代わり」ではないサイド起用 槙野智章、豪州戦で担った役割とは

【コラム】「代わり」ではないサイド起用 槙野智章、豪州戦で担った役割とは

オーストラリア戦に左サイドバックとして出場した槙野智章 [写真]=Anadolu Agency/Getty Images

 グループB首位に立つオーストラリア代表をPKによる1失点に抑え、守備において一定の成果をつかんだハリルジャパン。「ほとんどチャンスを与えなかった」とヴァイッド・ハリルホジッチ監督が賞賛した守備のオーガナイズで大きな役割を演じたのが、DF槙野智章(浦和レッズ)だった。

 2018 FIFAワールドカップ ロシア アジア最終予選の山場と言われたアウェーゲームに、槙野は左サイドバックとして出場。「まずは守備から。高さと強さを存分に出してほしいと言われていた」と指揮官から期待を受けると、得意の攻撃参加を封印して、屈強なオーストラリア攻撃陣とバトルを繰り広げた。

 中でも興味深かったのが、相手のサイド攻撃への対応と槙野のポジショニングだ。

 右MFのアーロン・ムーイ(ハダースフィールドタウン/イングランド)と右サイドバックのライアン・マッゴーワン(河南建業/中国)による右サイドアタックに対し、槙野は左ウイングのMF原口元気(ヘルタ・ベルリン/ドイツ)を最終ライン近くまで戻らせ、5バック気味にして対応した。その狙いについて、槙野が説明する。

「本当なら彼をもう少し高い位置でプレーさせたかったんですけど、『ヘルタでもこういう仕事をしている』と言っていたので、普段のプレーを存分に出させるためにワイドの選手を彼に見させて、中を僕が潰そうと。それがうまくハマったと思います」

 こうしてサイドバックの役割をこなすと同時に、状況に応じて3バックの左ストッパーのようなポジショニングを取った槙野は、森重真人(FC東京)、吉田麻也(サウサンプトン/イングランド)と連係しながら相手の2トップを封じ込んだのだ。

「僕に求められたのは、原口の守備のオーガナイズをすることと、前に行きたがる(香川)真司にストップを掛けて真ん中を消すこと。あと、自分のところや森重との間に入ってくる選手をしっかり潰すこと。サイドバックというより真ん中への意識が高かった」

 槙野が原口をサポートしたのは、オーガナイズの部分だけにとどまらない。殊勲の先制ゴールを決めた原口が相手にPKを与えてしまった直後、落ち込む後輩の頭をなでて慰めたのもまた、槙野だった。

「ゴールを決めて気持ちが昂ぶっている中で、『自分のせいだ』とも言っていた。致し方のない部分もあったけど、『あー』と言ってうなだれていたので、さりげない一言、さりげない動作で彼のメンタルをノーマルに戻すことができたなら良かったなと」

 今回のオーストラリア戦は、槙野にとって昨年11月のカンボジア戦以来、約1年ぶりに手にしたスタメンの座。しかも左サイドバックとして先発するのは、ザックジャパン時代の2013年、東アジアカップ以来のことだ。

 ともすれば右サイドバック酒井宏樹(マルセイユ/フランス)の出場停止、左サイドバック長友佑都(インテル/イタリア)の負傷離脱によってめぐってきたチャンス――。そう思われるかもしれないが、実は「合宿が始まった時から2戦目(オーストラリア戦)に向けて準備しておくようにと言われていた」という。ハリルホジッチ監督は酒井宏、長友という二人のサイドバックが離脱する前から、対人プレーと空中戦で強さを発揮する槙野の起用を考えていたのだ。そんな期待に、彼が燃えないわけがない。

「メンタルをここに合わせる準備はできていたし、このオーストラリア戦に懸ける想いは強かった。僕の中で彼らの代わりだとは思っていないし、代わりとして見られたくもなかった」

 もちろん、だからといって、10月6日のイラク戦で甘んじたベンチスタートをすんなり受け入れたわけではない。会場となる埼玉スタジアムは浦和に所属する彼にとってのホームスタジアムであり、9月シリーズを負傷辞退していた経緯もあり、「力になりたいという気持ちも強かった」と思いを明かす。

「もちろん悔しさはありましたよ。でも、僕も29歳で、いろいろなことを経験してきましたから。齋藤学(横浜F・マリノス)とか、若い世代が悔しい思いを練習の中で出していくための雰囲気を作ったり、支えてあげるのも、呼ばれている者の仕事だと思っています」

 6年前の南アフリカ・ワールドカップでも、2年前のブラジル・ワールドカップでも、チームの一員として戦いながら本大会のメンバーに選ばれることはなかった。三度目の正直として念願のワールドカップ出場に懸ける想いは強い。センターバックとして、サイドバックとして、そしてムードメーカーとして。槙野はこの先もハリルジャパンのキーマンになっていくはずだ。

文=飯尾篤史

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