【ライターコラムfrom東京V】ヴェルディをV字回復に導いたロティーナ監督を支える右腕的存在

【ライターコラムfrom東京V】ヴェルディをV字回復に導いたロティーナ監督を支える右腕的存在

ロティーナ監督は、ここ数年J2下位に低迷する東京VをJ1昇格争いのできるクラブへと引き上げた[写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 クラブ史上初のスペイン人監督就任にあたり、ミゲル・アンヘル・ロティーナ新監督が、東京ヴェルディ側に唯一とも言える絶対条件としたのが、「イバン・パランコ・サンチアゴのコーチ招聘」だった。2014年、15年の2シーズン指揮を執ったアル・シャハニアSC(カタール)時代、ヘッドコーチとして共に闘い、2年目に1部昇格を成し遂げた右腕ともいえる存在。さらに、監督自身にとって、「以前から興味があった」とはいえ、初めてとなる異国・日本での挑戦において、2009年から12年にわたり、『FCバルセロナ・スクール福岡校』でテクニカルディレクターとして日本人を指導していた同コーチは、これ以上ないほど心強いパートナーと言えた。そして、そのスペイン人コンビがいま、ここ数年J2下位に低迷するかつての名門クラブを、J1昇格争いのできるクラブへと、見事に立て直しつつある。

 両者のバランスは、実に見事だ。「守備は監督、攻撃はイバンがトレーニングする」と、選手の誰もがきっぱりと言うように、互いのストロングを尊重し合う関係性に、信頼度の深さを感じる。とある日、ロティーナ監督に、拙いスペイン語で尋ねてみた。「イバン コーチを連れてきた、一番の理由は?」。「なぜなら……」までは理解できたが、その後続いたスペイン語は、どうしてもすぐには理解できなかったので、懇願してノートに書いてもらった。そこには、「FCバルセロナのスクールで指導していた彼には、FCバルセロナのフィロソフィーが備わっているから」と記されていた。「あなたのフィロソフィーも、それに近いものがあるということですか?」と、再び問うと、「その通り」と、笑顔を見せた。

 常に深いコミュニケーションをとった上で、日々の攻撃練習の多くはイバン コーチが指揮を執る。その指導方針は、バスク人監督が期待する通り、「非常に沢山の要素が、FCバルセロナ・スクールで培った、バルサのコンセプトから来ていると」という。中でも、最も重要視しているのが、『ポジションプレー』だ。現在のFCバルセロナについては、「すごくカウンターの多いチームなので、なかなか『バルサのコンセプト』とは一言では言いづらいのですが」と前置きした上で、世界最高クラブの根本原理を説く。「わかりやすく言えば、“ポジションプレー”といって、ポジションを守ってプレーをすることと、ボールを失った後、カウンタープレスをかけること。そして、『3つのP』が非常に重要です」。『3つのP』とは、“position(立ち位置)”、“possession(保持)”、“progression(前進)”を指す。それは、「導入していくチームによって目指すことは変わってくると思います」と、同コーチ。「例えば、速い選手がいるなら、カウンターを強化していくべき。日本人は、とてもスピードがあって速い選手が多いという特長を考えると、バルサがやっていることをそのまま導入してもうまくいかない。監督と僕が目指しているのは、自分たちがもっているアイデアと、日本のサッカーが持っている良い部分をミックスさせ、より良いものを作ることです」。あくまでヴェルディはヴェルディ。ポジションサッカーを植え付けつつも、現有選手たちの特長を最大限生かした『3つのP』を目指している。

 とはいえ、今の東京Vのメンバーは「まず、ポジションありき」のサッカーが初めてだという選手が大半である。始動日から、各ポジションごとに「なぜ、この立ち位置を取らなければいけないのか」「なぜ、この選手はここに走らなければいけないのか」を事細かに説明し、理解を求めた。だが、これまで、明確な定義があるわけではなく「良いポジショニングをとれ!」と指示され、なんとなく感覚として動き、「よし」とされてきた日本人選手に、理屈を理解させた上で浸透させるのには、否応なしに時間がかかるもの。キャンプ期間を経て、練習試合でも、なかなか思い通りの結果としてあらわれなかったが、その、実戦を通じて起こった現象を改めて映像で振り返り、指定する位置取りの重要性を繰り返し確認していきながら、浸透度を深めていった。はじめは、スタートの位置、球を受ける身体の向き、運び方など、あまりにも細かい決まりごとの多さに、不安を抱く選手も少なくなかったが、リーグ戦が開幕し、第2節目から無失点で5連勝を果たしたこと。また、「この場合は、どうすべきなのか?」と、決まりごとの改善を相談すると、「じゃあ、そうしよう」と、選手のやりやすさを最優先させてくれる柔軟戦に、選手たちの信頼度も確実に上昇。「今、“戦術”ということの本当の意味を初めて知りました。本当に勉強になっている(安西幸輝)」、「『ボールを回す』という土台があって、ほんの1、2歩の立ち位置や動きの差で、ボールが回る、回らないが変わる楽しさを感じながらやれています(高木大輔)」と、若い選手が充実感を口にすれば、「パスだけではなく、ドリブルをうまく使うことで、 “ボールを動かす”の本当の意味って、こういうことなんだなと、勉強になる。この歳(35歳)になって、サッカーのまた新たな楽しさを感じながらやれている(柴崎貴広)」、「『世界は、サッカーというものを、こういう風にやっているんだなぁ』と、僕の今までの感覚が覆された。合理的で理にかなったサッカー。新鮮で、僕は好きです(高木純平)」と、30代の選手たちも目を輝かせている。

控えメンバーの選手が悔しさを超越したスカウティング力

 さらに高い評価を受けているのが、スカウティング力である。「『こうやったら相手が嫌がる』、『こうなったら、こうなる』というのが、試合で本当にその通りになる」と、選手たちは驚きの声をあげる。中でも「ドンピシャにはまった」と、高木純が絶賛するのが、第12節の横浜FC戦だった。残念ながら1−1の引き分けとなったが、「『ここが空くから、お前がここにおりて、ここでまずボールを持ちなさい』といったことが、まさにその通りだったんですよ。分析が、本当に上手い」。この試合、本人はベンチからの観戦だったが、サッカー選手として初めて、メンバーを外れた悔しさを超えたという。「試合後、僕の方からイバンに『素晴らしい試合でした』と、言いに行きました。見ていて、『あぁ、いいゲームだな』と、心から思いました」一人のサッカー人として、純粋に賛辞を伝えずにはいられなかった。

 高木純の行動からも伝わるように、イバンという人物が、何よりも評判なのが、ロティーナ監督が「本当に研究熱心で、誠実」だと全幅の信頼を置く、その人間性である。「決して選手をけなすことは絶対にしないし、どんな時も選手のことを一番に考えてくれている。良くないプレーをしたと自分でわかっていた時も、そのあとのプレーを褒めてくれたりもする」その言葉に、高木大は何度も励まされたという。また、安西は、「常に映像などを相当細かく作ってくれるので、かなり疲れているんだろうなぁと思っていました。そんな中、5月の連戦中、練習が終わった後、僕が治療で残っていたら、イバンが来て、あっという間に昼寝をしてしまったんです。その姿を見て、『あぁ、疲れているんだなぁ。すごい仕事に対して熱心だし、こういう人のためにも、勝たなければいけないなぁ』と、心底思いました」大きなモチベーションになっていると語る。

 そんな選手たちの賞賛に、「嬉しいですね」と、カタルーニャ人コーチは優しく爽やかな笑顔を見せた。一方で、その心の中は、常に熱く、成功への希望に満ちている。「チームは、僕たちのコンセプトを吸収しながら、少しずつ、でも、着実に成長していると思います。 “僕たちのコンセプト”とは、4つの局面『攻撃、守備、守から攻、攻から守の切り替え』。この4つの局面をしっかりと支配できることです。それは、もしかしたら、以前、東京Vが強かった時に持っていたコンセプトなのかもしれません。日本に来る前に、クラブスタッフや強化部、元ヴェルディでプレーしていた選手と話し、このクラブの文化は『ボールを保持して攻撃的にプレーをする』ことだと感じました。僕たちのアイデアが、その文化を取り戻すきっかけになればいいなと思っています。そして、もう1つは、『しっかりと戦う集団だった』ということ。どの相手にもリスペクトを持ち、恐れずに戦う集団だったということも聞いています。その部分に対しても、しっかりと選手たちに要求して戦っていますし、今後も要求していきます」。

 奇しくも、変革求めた初のスペイン流サッカー導入が、“ヴェルディらしさ”の原点回帰のきっかけになるかもしれない。「守備はロティーナ監督、攻撃はイバン」。ベスト・コンビとも言える2人が作り上げていくロティーナ・ヴェルディの熟成が、今から楽しみでたまらない。

文=上岡真里江

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