【ライターコラムfrom仙台】振り返りは謙虚に、攻撃は大胆に…中野嘉大が佐賀の地で記した一歩

【ライターコラムfrom仙台】振り返りは謙虚に、攻撃は大胆に…中野嘉大が佐賀の地で記した一歩

今季、川崎からの期限付き移籍で仙台に加入した中野嘉大

「“出る”だけじゃなくて、“出て活躍する”“出て結果を出す”ということを目指しています」

 4月頃、中野嘉大は何度もこの言葉を繰り返していた。

 今季に川崎フロンターレから期限付き移籍で加入。新天地での活躍を誓った中野は、開幕前のキャンプで好調を維持し、先発出場に近づいていた。

 中野の大きな武器は、相手が間合いをはかる前に抜き去ってしまうドリブルだ。しかしキャンプでは2月4日の練習試合・大宮アルディージャ戦でフリーランニングからクロスに合わせてゴールを決めるなど、他の武器も見せていた。攻撃のバリエーションを加えようとしているベガルタ仙台の「3−4−2−1」システムの中で、彼は自分の生きる道を見つけていたところだった。

 しかし開幕を前にした2月18日の練習試合(非公開)で、中野を試練が襲う。ここで左ひざ内側側副じん帯損傷の大ケガを負って、長期離脱を余儀なくされた。そのリハビリの時期が、冒頭の話をしていた頃のことだった。

 そして5月15日の練習試合で実戦復帰した中野は、5月20日の明治安田J1リーグ第12節・横浜F・マリノス戦で仙台加入後初めてベンチ入り。1点を追う69分からピッチに入ると、攻撃に変化を加え、同点劇に到る勢いをチームにつけた。

 しかし試合後の本人からは、「消化不良に終わった感じ」と、手応えよりも反省の弁が先立った。渡邉晋監督も「もっと彼は良くなる。あんなもんじゃない」と評したように、まだまだこれから、というところ。4日後のJリーグYBCルヴァンカップ第6節・北海道コンサドーレ札幌戦では加入後初の公式戦フル出場を果たしたものの、「“出られた”ということ以外、ポジティブな点はない。勝ったからよし、ではなくて、自分の悪いところはシビアに評価したい」と謙虚に自己評価を下した。

 そんな中野がひとつの大きな一歩を記したのが、6月17日のJ1第15節・サガン鳥栖戦のことだった。佐賀東高校で3年を過ごした中野にとって、「自分が活躍することが、お世話になった方々に喜んでもらうことにつながれば」と、楽しみにしていた佐賀県での一戦だった。

 この試合で、仙台は中野の川崎フロンターレ時代のチームメートである原川力に先制ゴールを許し、1点を追うことになった。攻勢を強めようとする中で、右サイドを攻撃のポイントと見た渡邉監督は、66分に梁勇基とともに中野をピッチに送りこむ。すると右ウイングバックに入った中野は、ドリブルで切れ込んだり、クロスで決定機を演出したりと躍動。そして72分に、CKからのこぼれ球を中央で押しこんで、仙台加入後初ゴールを決めてみせた。遠く仙台から駆けつけたサポーターや、キャンプ地でお世話になった宮崎県延岡市、宮崎市、鹿児島県さつま町の方々、そして高校時代を知る恩師たちが見守っていた中で。

「ボールも多く触れてチャンスも作れました。どんなかたちでも点が欲しかったので、取れて良かった」と、試合後にはこれまでで一番の自己評価が聞かれた。渡邉監督も「CKでヨシ(中野)が点を取ったのにはびっくりしましたけれども、仕掛けの意識があったからこそ彼にこぼれてきたのかなと思っています」と、この日の中野のプレーを評価した。

 しかしこの一歩にも、中野は表情を緩めない。「今度は、自分の形から点を取れるようにもなりたい」。天皇杯とリーグ戦が続く今週の日程にも、「自分が試される場だと思っているので、しっかり結果を残して早くスタメンを取って長い時間プレーできるようになりたい」と意欲を見せる。

 中野が次に勝負する場所は、6月21日の天皇杯2回戦。相手は、母校の筑波大学である。

文=板垣晴朗