【ライターコラムfrom東京V】長期離脱の澤井直人に現役ブラジル代表が激励…心温まるロティーナ監督の気遣い

【ライターコラムfrom東京V】長期離脱の澤井直人に現役ブラジル代表が激励…心温まるロティーナ監督の気遣い

開幕前にアキレス腱断裂の大怪我を負った澤井(左)にフィリペ・ルイス(右)から激励のメッセージが届いた[写真左]=J.LEAGUE PHOTOS [写真右]=Getty Images

 沖縄キャンプ中の今年2月5日、チームに衝撃が走った。川崎フロンターレとの練習試合でキックオフ直前のウォーミングアップ中に澤井直人が右足アキレス腱を断裂したのである。小学生のジュニア時代から一貫して東京ヴェルディの下部組織で育ち、2014年にトップチームに昇格。非常に明るいキャラクターで、ムードメーカー的存在でもあっただけに、チームメイトたちが受けたショックはあまりにも大きかった。

 そして、さらに深く心を痛めていたのが、今季から新しく就任したミゲル・アンヘル・ロティーナ監督だった。オファーを受けた昨年から、新たに指揮を執ることとなる日本のJ2チームの試合映像を熱心に見ていたが、その中で、豊富な運動量を武器に前線でスペースを上手く使い躍動し、チーム2位の6得点を挙げた背番号『14』の存在は、目を引いた。今年1月、来日し、実際に直接指導したことで、その期待値はさらに増していた矢先での大怪我だった。

 試合を終え、宿泊ホテルへ戻ると、すぐさまイバン・パランコ・サンチアゴ コーチとともに澤井の元を訪れ、励ましの言葉をかけた。その中で、スペイン人監督は、自らの長いスペイン・リーグでの監督経験の中で出会った、1人の愛弟子の話を出して聞かせた。「アトレティコ・マドリードのフィリペ・ルイスという選手を、ナオトも知ってるだろう? 彼は、デポルティーボ・ラ・コルーニャ時代に右足首を骨折し、ナオト以上の怪我だったが、見事に復帰し、その後、アトレティコ、チェルシーなどの世界的ビッグクラブでプレーする選手にまでになっている。だから、ナオトもしっかりと治し、努力すれば、明るい未来が待っている」と。その言葉が、失意のどん底だった22歳を勇気付けたことは言うまでもない。

 だが、それだけではなかった。翌日6日に手術を終え、ベッドの上で激しい痛みと、「いつ復帰できるんだろう?」という出口のない不安に苛まれていた7日、澤井の元へ、後藤雄一マネージャーから『LINE』が届いた。それは、新監督からのプレゼントを送るためのものであった。メッセージには、動画が添付されている。開いてみると……

「Hola, NAOTO!!(オラー、ナオト!!)」

「えっっ?」澤井は、自分の目と耳を疑いつつ、「鳥肌が立った」という。

 なんと、“あの”、フィリペ・ルイス本人から、直々にメッセージが届いていたのである。その後続く、ブラジル代表DFの激励の言葉は、初めて大怪我と向き合うことになった日本人サッカー選手を、たちまち前向きにさせてくれた。

「ナオトを励ますためにメッセージを送るよ。
(中略)
常に前向きでいること。前の自分より成長して戻ってくることができることを知ること。
そのために、常にポジティブでいることが、君に大きな力を与えます。
(中略)
僕も同じような時期を過ごしたことがありましたが、最終的には良い結果を生み出しました。
回復して偉大な選手として戻ってくることを信じています。強い抱擁と幸運を!」

 あまりの感動に、言葉が出なかった。そして、「怪我をしているこの時期を大事にしよう。復帰した時には、絶対に前よりも精度の高いプレーを見せたい」と、固く心に誓ったのだった。同時に、まだ、出会って1カ月も経っていないにもかかわらず、怪我をした直後に世界的な成功を収めた選手に直接連絡を入れ、「ナオトにも、この怪我をきっかけにビッグプレーヤーになってほしいから」と、動画での励ましを依頼してくれた新指揮官の心遣いに、感謝せずにはいられなかった。「器の大きさを感じ、一気に心を掴まれました。僕のためにここまでしてくれた監督、動画が届くまでに関わってくれた全ての人に、恥ずかしい姿は絶対に見せられない。復帰するまでも、した後も、いっさい妥協できない。きちんと治して、試合で活躍して感謝の気持ちを伝えることが、恩返しになると思っています」。

 さらに、新たな目標もできた。ロティーナ監督も、「復帰したら、今度はナオトの動画をフィリペに送ろうと思ってるんだ」と話すが、澤井の目指すものは、さらに大きい。「むこうからしたら、『こいつ、誰だよ?』って思うと思います。でも、どんな形でもいいから、本人に直接会って、『あの動画のおかげで、これだけ活躍できるようになりました』と、自分の口でお礼が言いたい。一番は、いつか同じピッチでプレーした時に、ですよね。堂々と会える自分になれるように、まずは怪我前よりも成長した姿で復帰できるようにしっかりと治したい」。高いモチベーションを胸に、日々の治療・リハビリに励んでいる。

■着実に浸透している“ロティーナ・イズム”

 このエピソードに象徴されるように、ロティーナ監督は今、新天地の日本で、時に言葉で、時にその人柄で、周りの人の心を掴んでいる。1992年からスタートさせ、約25年にも及んでいる豊富な指導者経験が、日本人選手たちには、より説得力を与えているのかもしれない。試合のロッカーアウト直前にかける、モチベーションを上げるための言葉に、心かき立てられる選手・スタッフも多い。

「僕の腕時計は、約200個のパーツによってできている。でも、その中のたった1つでも正確に動かなくなれば、すべてが狂っていき、壊れてしまうことさえある。君たちのチームも同じだ」(田村直也)

「今、こうやって話をしてるけど、僕の話は大事ではない。というのは、みんなすぐに忘れるから。それよりも、君たちの頭に残るのは、君たち自身のプレーで、それはグラウンドの中で起こることである。僕自身、今でも自分の現役時代のプレーを憶えていて、それが、自分の歴史になっている。つまり、グラウンドの中には、君たち自身の歴史があるということだ。さらに、君たちだではなく、そのプレーは、観客の人の記憶にも残っていく」(小寺真人・通訳)

 など、他の選手も含め、その一言一言が、それぞれ胸に響いているという。

 また、安西幸輝は、日々の立ち居振る舞いから、サッカー人として多くの学びを得ていると話す。とある日、遠征先からクラブハウスに戻ってきた際、選手がリカバリーをしている横で、同じタイミングでアウェイから帰り、練習を見に来たサポーターに声をかけ、一緒にボールを蹴る姿を目にした。「スペインであれだけ超満員の中で試合をやった人でも、こうやって身近なサポーターを大事にしているんだなと、すごく考えさせられます」。サポーターの存在については、監督は常々、「この仕事は、最終的にはサポーターに満足してもらうことが目的だ。もちろんお金や勝利も大事だが、それだけではモチベーションは続かない。サポーターが幸せになっている姿を見ることが一番の目的であり、また、喜びであり、それがあるからこそ続けられる仕事だ」と話していると、小寺通訳は敬意を込めて話す。その思いを、サポーターもまた、十分感じるのであろう。スタジアムで送られる「ロティーナ」コールは、選手たちへのそれと同じぐらい大きく、温かい。

 東京ヴェルディを率いて半年を迎えた。ここまでリーグ戦19節を終え、9勝6敗4分の6位と、悲願のJ1昇格争い渦中にある。どんなに尊ばれる人間性も、戦術論も、経験値も、すべて『結果』が伴ってこそだと熟知する。その中で、まだまだ熟成途中ではあるが、試合を重ねるごとに成功と失敗を繰り返しながら、“ロティーナ・イズム”は着実に浸透しつつあることは間違いない。

文=上岡真里江

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