【ライターコラムfrom広島】低迷続く広島、ミシャ・フォーメーションからの“脱却”で浮上のきっかけを

【ライターコラムfrom広島】低迷続く広島、ミシャ・フォーメーションからの“脱却”で浮上のきっかけを

チームの中軸を担う青山敏弘 [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 2008年4月29日の対徳島ヴォルティス戦以降、サンフレッチェ広島はほぼ変わりなく同じフォーメーションを採用。3−4−2−1という数字の並びは、その形以上に広島のサッカーに大きな意味を為していた。

 守備時には両ワイドが下りてサイドに蓋をする5バック。攻撃時にはストッパーが大きく開いてボランチが1枚おりる4バックを形成し両サイドのストッパーが攻撃に参加する「可変型システム」は、後ろの形ばかりがよく話題になるが、前線も1トップから5トップと大きく枚数が変わってくることも含めて独特である。ボールを保持するサッカーを標榜しながら、攻撃時の中盤には一人しかいないから、真ん中で「時間」「タメ」をつくることはほぼ不可能。故にボールを持つのは最終ラインであり、そこでゆったりとボールを回しながら、一気にスイッチを入れて速攻を仕掛ける。相手がプレスを掛けたいと思わせるようなパス回しで引っ張り出し、裏にスペースを作り出す。

 このサッカーによって広島はJ2を「新幹線のように通り抜けた」(ミハイロ・ペトロヴィッチ監督 現浦和レッズ)。42試合で勝点100・得点99という圧倒的な成績でJ1に復帰。毎年のように主力が流出する事態に見舞われながら、12年には森保一監督が守備を整備して初優勝を成し遂げた。4年間で3度の優勝。広島の栄光は、まさに「黄金時代」と言ってもいい実績である。

 しかし、ボブ・ディランの歌ではないが、時代は変わる。常勝などは有り得ない。プロ野球では巨人の9連覇(1965〜73)以降、3連覇を果たしたセ・リーグのチームない。パ・リーグでも西武の4連覇(1985〜88)が3連覇以上を達成した最後のチームである。ドラフト制度のないサッカーの世界では資金力がそのままリーグ制覇につながりやすいが、それでも各国の王者が集まるUEFAチャンピオンズリーグ(CL)での連覇は至難の業。今シーズン、レアル・マドリードが連覇を果たしたが、これはミラン以来27シーズンぶりのこと(※現行のCLでは初)。ちなみにバルセロナもマンチェスター・Uも連覇は経験していない。広島のように資金力がリーグ上位にはないチームであれば、4年で3回の優勝を果たしたことそのものが、奇跡と言っていいのである。

 繰り返すが時代は変わる。だが、時代が変わっても、サッカーは続く。クラブもチームも歴史を重ねなければならない。

 今、広島は生き残りをかけた闘いに臨んでいる。2007年、2度目の降格を味わって以来、最大の危機と言っていい。

 要因は明確だ。

 もちろん、得点をとれるストライカーがいなくなったことも大きい。だが、昨年の得点王に輝いたピーター・ウタカが今季も在籍していれば、果たしてうまくいったのか。昨年の後半、彼と広島のパフォーマンスを考えれば、それは否定的にならざるを得ない。ことはそれほど単純ではなく、様々な問題が絡まって複雑な様相を呈しているが、現在の位フォーメーションが機能不全に陥っていることが戦術面での難問だ。

 指導者はよく「システムは関係ない」というが、それは一面の真実しか言っていない。フォーメーションはスタートポジションしか表していないが、「戻るべき場所」はそこにある。基本的な考え方やコンセプトがそのスタートポジションに込められているからこそ、戦術を語る上でフォーメーションは欠かせない。もちろん、試合中には4バックが6バックになったり、1トップが4トップになることもある。しかし、だからといってスタートポジションに意味がないことはない。

 広島の場合、たとえば攻撃時に4バックになる「可変システム」は森崎和幸とストヤノフがピッチ内で発見した形をそのまま採用したもの。ただ、森脇良太と槙野智章という超攻撃的ストッパーの力を生かしたいというペトロヴィッチ監督の意志があったからこそ、森崎とストヤノフのアレンジがうまくいった。森保監督が就任後も、塩谷司という存在が故に同じ形を継続してきたが、昨年あたりからストッパーの攻撃参加に対して各チームの対策が整い、厳しい守備からカウンターによって攻撃に出てきた裏を狙う攻めを徹底してくるようになった。今季は塩谷のオーバーラップから得点が生まれたシーンはない。攻撃面でメリットが失われると、リスクばかりが目立ってしまう。

 広島の攻撃時の形である4−1−5では、中盤を支えるのは青山敏弘だけになる。彼の調子が良ければ、少ないタッチで次々にパスを展開できるのだが、状態が悪ければ厳しいマークをかいくぐれずにボールロストばかりが目立ってしまって、ショートカウンターの餌食になる。中盤の人数が足りないから相手がクリアしたボールを拾うことが難しい。ストッパーが攻撃に参加することでウイングバックのサポートもできていたのだが、そればかり意識するとサイドの裏に穴があく。ストッパーが下がった位置をとればウイングバックが孤立する。

 もちろん、メリットも多い形であり、だからこそ広島は栄光を掴んだ。だが徹底的な広島対策が進み、相手は対広島戦となるとそれまでと違う形・やり方を整えるようになった。「阿吽の呼吸」が成立していれば乗り越えられる部分もあるが、広島は特に前線が毎年入れ替わり、合わせるのに時間がかかる。15年、爆発的な攻撃力を誇れたのは、ドウグラスと浅野拓磨という「阿吽の呼吸」に頼らないFWの存在が大きかった。昨年もウタカという巨大な力があったのだが、もう1枚が足りない。そして今年は、今のところ、そういう選手は誰もいない。そうなると、フォーメーションの硬直性がいやがおうでも目立ってしまう。

 その難しさは昨年後半から既に露呈していた。森保監督はフォーメーションを変えずにプレスの強化など戦術的な調整で臨もうと考えて今季に入ったが、それは困難を極めた。選手を何度も入れ替えて活性化を図ろうとしても、うまくはまらない。フォーメーションを変えるとチームに混乱が起きると慎重な姿勢だったが、いよいよトレーニングで4−4−2や3−1−4−2などへの変更も模索し始めた。特に4−4−2については鹿島アントラーズ戦や川崎フロンターレ戦の後半に導入し、一定の成果も出しているが、それを0−0の状況でトライするには守備面のリスクが大きい。「サイドバックの位置どりも含め、4バックに慣れていない人が多いから時間はかかります」と野上結貴は語る。とはいえ、このまま手をこまねいていては、機能不全を解決できない。難しい局面である。

 それでも、やれることからやらないと、浮上のきっかけもつかめない。たとえば鹿島戦後半から「可変型」をやめて3バック2ボランチを堅持し、青山を孤立させない形を施行しており、それは一定の成果をあげている。10年続き、数々の栄光をもたらしたペトロヴィッチ・フォーメーションからの脱皮に向けて、広島はようやく動き始めた。

文=紫熊倶楽部 中野和也

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