【ライターコラムfrom鳥栖】投入金額以上の価値を得た「値段のないスタジアム」… 地域により愛されるクラブに向けて、鳥栖は挑戦し続ける

【ライターコラムfrom鳥栖】投入金額以上の価値を得た「値段のないスタジアム」… 地域により愛されるクラブに向けて、鳥栖は挑戦し続ける

「値段のないスタジアム」は話題だけではなく、一定の成果を収めた [写真]=サガン鳥栖

 先日、サガン鳥栖は5月27日の明治安田生命J1リーグ第13節・北海道コンサドーレ札幌戦で行ったJ1での初のイベント「一夜限りの値段のないスタジアム」の結果を発表した。これは「この一夜限りで値段を決めるのはあなたです」として、A自由席など4席種を対象に、試合観戦後に観客自らが価格を決めて、所定のボックスに投入するというもの。

 この「一夜限りの値段のないスタジアム」のチケット売上げ(投入額)は4,568,215円、一人当たり平均支払金額は812円だった。売上げ的には少し寂しい結果に見えたかもしれない。しかし、チケット売上金額だけに注目すると本質を見誤ってしまう。実は、札幌戦のチケットの初動は鈍く、ベストアメニティスタジアムでの今季ホームゲーム最少観客だったアルビレックス新潟戦の8,990人を下回ることが予想された。だが、このイベントを企画したことで札幌戦の観客は新潟戦を5,500人ほど上回り、開幕の柏レイソル戦を超えて前半戦8試合で3番目となる14,416人を集めた。観客が多ければ、グッズや飲食店の売り上げも比例して上がる。もし、このイベントを行っていなければ、新潟戦を遥かに下回る観客数やグッズなどの売上げもなかったかもしれない。

 そもそもこのイベントには、綿密に計算されたクラブの戦略であった。指定席では通常どおりの来場者数分を売上げたうえで、イベント対象となったA自由席、B自由席、ホームサポーター席に新規客を呼ぶことに成功。また、このチケットの販売方法は常識を覆していた。クラブ指定の場所のみで販売され、そこで申し込み用紙に住所・氏名などを記入し、本人確認を済ませた人だけが「一夜限りの値段のないスタジアム」チケットを手にすることができた。これによりクラブは、ライトユーザーなど新しいファンの顧客情報をも手にしている。これをもとに第1回目のお礼レターをクラブは届けている。

 チームは、足を運んでくれた観客のために1−0での勝利をプレゼント。試合後、マッシモ・フィッカデンティ監督は「竹原社長がより多くの人たちを巻き込んでいくために出してくださったアイデア。チームも多くのサポーターの方々の後押しがないと苦しいところもあります。初めて見るような企画でしたが、その中でこれだけ多くのサポーターが来てくださったというのはチームが戦ううえですごくプラスでした」と振り返った。

 2012年からJ1で戦い続けている鳥栖だが、経営問題に直面することもあった。その危機をクラブとチーム、スポンサー、サポーターが一岩となって乗り越え、一歩ずつ前に進んでここまできた。今回のイベントは、クラブが大切にしている「サガン鳥栖ファミリー」がこれからも一致団結して前進していくというスタンスの表れ。一概には言えないが、新潟戦と比べて5,620人ものライトユーザーがスタジアムに足を運んだことを考えれば、今回のイベントは大成功と言える。

 応援してくれる人が例え少なくても選手たちは全力を尽くして戦うが、その数が多ければ多いほど、選手たちのサポーターの期待に応えたいという気持ちは強くなるはず。勝負にこだわりつつ、勝っても負けても地域に愛されるクラブであり続けるために鳥栖の挑戦は続く。

文=荒木英喜
写真提供=サガン鳥栖

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