「もっとサッカーがうまくなりたい」早稲田大を早慶戦6連覇に導いた相馬勇紀の飽くなき向上心

「もっとサッカーがうまくなりたい」早稲田大を早慶戦6連覇に導いた相馬勇紀の飽くなき向上心

早慶戦でフル出場し、3得点を演出した相馬 [写真]=金田慎平

7月15日(土)第68回早慶サッカー定期戦 早稲田大 5−1 慶應義塾大

 宿敵・慶應大に歴史的大勝を収め、歓喜に沸く早稲田大イレブンの中で一人、やや複雑な心境に至る選手がいた。

「最近すごく、サッカーがうまくなりたいって思うんです」

 喜びも冷めやらぬうちに、ミックスゾーンに現れた早稲田大MF相馬勇紀が発した言葉だ。

 相馬はこの日、3アシストの活躍で早稲田大の大会6連覇に貢献した。しかし、その表情は晴れやかとは言い切れない。さらに、三菱養和SCユース時代から仲の良い先輩であるFW飯泉涼矢が2得点を挙げて自身2度目のMVPを受賞したことに話が及ぶと、冗談混じりに顔を歪ませた。

「ほんと……悔しいですね(苦笑)。一人で2回も(MVPを)取らなくていいですよ。まぁ、CKは彼を狙っているので、僕もアシストがつきましたし、決めてくれて良かったですけど」

 実はこの試合で相馬に“幻の”ゴールが生まれていた。71分の左CKの場面、相馬が放ったボールはGKの前でバウンドし、そのままゴールへと吸い込まれた。だがその際、MF鈴木裕也がわずかに触れたと判定され、公式記録では鈴木の得点に。もし、それが相馬の得点となっていたら、果たして飯泉とどちらがMVPを獲得していたか。それだけ相馬は90分を通して何度も好プレーを見せていた。

「あれは僕のゴールですよ(笑)。(鈴木も)触ってないって言っていましたし。やっぱりあの場で『相馬選手のゴールでした』ってアナウンスされたかったですね」

 もちろん何よりもほしかったのは、チームの勝利である。それが成し遂げられたからこそ、笑って済ますことができる話だ。しかし半分くらいは、本音が込められていたと察する。


 早慶戦を迎える直前に、相馬ら早稲田大の3年生にとってターニングポイントとなる出来事があった。3日に行われた「アミノバイタル」カップ2017第6回関東大学サッカートーナメント大会で流通経済大に惜敗し、2回戦敗退。今シーズン唯一の全国大会への道が絶たれ、同時に11月までのリーグ戦をもって4年生が引退することが決まったのだ。

「あと4カ月で僕たちが最上級生になることが決まって、学年の中で役職や今後の方針について話し合いました。今まではそれぞれの個を生かした早稲田らしいサッカーをしてきたけど、来年は今年の主力メンバーがほぼ抜けてしまう中で、僕たちの代はそれほど個の能力が高くないから、どうやって穴を埋めるのか、埋められないならどういうサッカーをしていくのか」

 先輩たちが抜けてから何かに気づいたり、行動を始めるのでは手遅れになってしまう。1年での1部復帰はもちろん、来シーズン1部リーグでしっかりと戦えるチーム作りを目指しているからこそ、今、何かを変える必要があると感じた。

「まずはチームの理念をはっきりさせて、誰もが行動しやすいようにしようと。早稲田大ア式蹴球部には『社会に利益を与える』という理念があって、そのために今までは『観客に感動を届けるためにプレーしよう』と取り組んできました。でも、そうじゃないんですよね。自分たちが勝負にこだわって、良いパフォーマンスを見せた結果が、ゴールや勝利につながって、見ている人に元気や感動を与えられるんです。だから、目指すものを変えるわけではないけど、意識を向ける場所を少し変えたんです」

 特に低学年の頃から試合に出続けている相馬は、先輩たちから代々受け継がれている伝統校としてのプライド、早稲田大のユニフォームを着てピッチに立つことへの責任感を強く感じていた。学年での話し合いを経て迎えた今回の早慶戦は、自分が今後どのようにチームを引っ張っていくのかを示すための第一歩。そこで相馬は質の高いキックや、キレのあるドリブル突破など圧巻のパフォーマンスで会場を沸かせ、自信を深めた。そして何より、最後の最後まで全力で戦い抜く“早稲田らしさ”を体現して見せた。

「早慶戦は近年、1−0と拮抗した試合が続いていたけど、今日は5−1とリードしても攻め続けることができたし、守るところはしっかり守るっていう早稲田の長所も出すことができた。それに関しては納得しているし、お客さんに大学サッカーが『面白いな』とか、『また見に来たいな』と思ってもらえるような試合ができたんじゃないかと思います」


 個人の出来もチームの結果にも、ある程度の手応えをつかんだ一方で、相馬の脳裏には「うまくいかなかった場面」の光景が焼き付いていた。

「あと3点ぐらいは取れたと思うし、特に前半はボールが足につかなくて、絶対に通さなきゃいけないパスが通らなくてカウンターを食らったりとか、納得のいかないプレーもありました。そういうミスが減らないと、上にはいけない」

 相馬が言う「上」とは、チームとして目指す関東大学1部リーグ、そして自身の夢であるプロの舞台を指している。「上」で活躍するためには、さらに力をつけ、勝負強くなる必要がある。

「アミノ杯で1部の流経大と対戦した時も、ドリブルでDFをはがすことはできても、シュートまで持ち込むボール運びや、シュートの精度はまだまだでした。今日もCKの本数が多かったから3アシストできたけど、たとえば1試合で3本しかなかった時に、その3本を生かせるのかっていうとまだまだ足りないんです」

 だからこそ、大勝の余韻に浸る暇はないのだ。相馬は力を込めて言葉を続けた。

「もっとサッカーがうまくなりたいんです。今日の単純なミスも、雰囲気に飲まれたのではなく、自分が下手くそなだけ。いつもと違う芝に対応できなかっただけ。だからもっと練習しないといけない」

 技術もメンタルも結局、最後は「個」の力に委ねられる。それは関東大学リーグ優勝を果たした1年時、2部リーグ降格の苦杯をなめた2年時と、大学サッカーを通して学んできたことだ。次はピッチ内で誰かの陰にかすむことなく、圧倒的な存在感を放てるように。自身とチームのさらなる飛躍のため、相馬はひたむきに努力を続けていく。

文=平柳麻衣

関連記事(外部サイト)