【コラム】スペインサッカー界に激震…連盟会長の逮捕劇、国民の受け取り方とは

【コラム】スペインサッカー界に激震…連盟会長の逮捕劇、国民の受け取り方とは

汚職容疑で逮捕されたビジャール会長 [写真]=Getty Images

 18日にスペインサッカー連盟のアンヘル・マリア・ビジャール会長が、逮捕された。スペイン治安警備隊はビジャール会長、彼の息子であるゴルカ、同連盟の副会長かつ財政責任者であり、テネリフェ島連盟会長フアン・パドロンと同じくテネリフェ島連盟秘書官ラモン・エルナンデスも逮捕した。ビジャール会長らは汚職、連盟の資金の横領などの疑いで家宅捜索も受け、マドリード郊外にあるラス・ロサスのスペインサッカー連盟施設も同会長と共に捜索された。ビジャール会長が留置所に戻ったのは19日の深夜3時30分で、長時間の捜査が行われた。

 ビジャール会長は現役時代は、スペイン代表にも選出されたアスレティック・ビルバオで活躍した選手だった。同国サッカー連盟の会長には29年前に就任し、現在はFIFA(国際サッカー連盟)の副会長も務めている。ビジャールの息子ゴルカは、本業は弁護士で、同国連盟の役職には1度も就いていなかったが、CONMEBOL(南米サッカー連盟)の役員を務めた経歴がある。彼らはスペイン代表の国際親善試合などでの利益を不当に自分たちの懐に入れていた。そしてビジャール会長は8期連続で会長選挙で当選をしているが、不正に資金を回すことで地方の各連盟の票を買収していたという疑いがかけられている。

 スペイン代表はUEFA EURO 2008、2010 FIFAワールドカップ、そしてUEFA EURO 2012と前人未到のメジャー大会3連覇を達成した。当時、当然ながらスペイン代表は人気と共に親善試合での需要が高まった。スペイン紙『マルカ』によれば、その時期は、ビックタイトル制覇直後ということもありスペイン代表は1試合につき最高で300万ユーロ(約3億9000万円)のギャラを手にしていたという。その機会をビジャール会長らは私腹を肥やす絶好の機会と捉えていたようだ。治安警備隊の捜査チームは、2010年から2013年の間に北米や南米で行われた親善試合10試合での不正を捜査しているという。

 ビジャール会長が逮捕後、地元メディアは信じ難いエピソードを次々と報じている。ビジャール会長が逮捕の2週間前に1800万ユーロ(約23億円)を粉飾しようとしていたとか、スイスの口座から同会長の口座に最近3年間で250万ユーロ(約3億2000万円)を振り込まれていたとか、同連盟の選手たちからボスと呼ばれる女性役員が2年以上、2泊で13万円するマドリードの中心地の5つ星ホテルに泊まり続けていたとかなどだ。

 その中でもスペイン紙『エル・ムンド』が報じたニュースは興味深い。2010年W杯を制覇した後にスペイン代表は42の親善試合を行ってきたが、その内の半分は南米のチームで、4試合がアジア、2試合がアフリカのチームとのゲームだった。赤道ギニアとの親善試合は、同国の首都マラボで行われた。独裁者テオドロ・オビアンが指導する国への渡航は危険もあり、選手たちはマドリードからの出発を引き伸ばしたという。結局は出国したが、その後招集された選手たちは「連盟は次はどこに連れて行く気だ」と繰り返し言うようになったという。またアルゼンチンで行われた同国代表との親善試合(4−1で敗戦)では今まで文句も言わなかったビセンテ・デルボスケ元代表監督までもが、遠征後に連盟に不満を訴えた。連盟は「1試合につき500万ユーロ(約6億4000万円)のギャラが出るから、その機会を活かしたい」と返答し、ビジャール会長は「スペインが新たなワールドカップを制覇するために必要なゲームだ」と常に同じ言い訳を言っていたという。実力が劣る対戦国、もしくは選手のコンディションを考えると危険なスケジュールの親善試合もビジャール会長たちは自分たちの懐を温めるために強行していたのではないかと記事は示唆している。

 ビジャール会長は逮捕された。しかし、ニュースを聞いたスペインの大半の人は、大きく驚いてはいなかった。スペインでは近年、政治家だけでなく、王室のメンバーまで公金の横領で裁判にかけられた。サッカーでもリオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウドらの脱税、もしくは脱税疑惑、最近でも元バルセロナ会長サンドロ・ロセイのマネーロンダリングの疑いでの逮捕が報じられた。ゆえに、その種の報道に対して免疫がある。ビジャール会長が逮捕され、メディアは大きく取り上げるが、意外に周囲は「やっぱりな」という諦めにも似た冷めた見方をしていた。それはそれで悲しいことでもある。

文=座間健司

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