【ライターコラムfrom山形】「なんとか上がりたい」…山形一筋10年目、山田拓巳が抱くJ1への思い

【ライターコラムfrom山形】「なんとか上がりたい」…山形一筋10年目、山田拓巳が抱くJ1への思い

山形一筋10年目の山田拓巳 [写真]=J.LEAGUE

 40分、モンテディオ山形はこの試合初めてのCK。ゴール前の競り合いの中から、本田拓也が体勢を崩しながら落としたボールを、ペナルティエリアの外からダイレクトで捉えた。「珍しく力が抜けて、いい形で打てた」というコントロールショットは、キーパーの指先をかすめるようにしてファーサイドのネットを揺らす。長い弾道が美しい残像になった。

 明治安田生命J2リーグ第29節ジェフユナイテッド市原・千葉戦。立ち上がりから、どちらかと言えば守備にパワーを割く展開だったホームチームの先制点に、スタンドの7000人余りが湧く。しかしその直後、場内に得点者の名前がコールされると、歓声は一層の厚みを持って吹き上がり、ピッチに降り注いだ。

 その降り注ぐ歓喜の声と拍手を一身に浴びた背番号6の名は山田拓巳。市立船橋高校を卒業後、山形一筋のプロ生活は10年目を迎えた。昨季、今季と2年連続で二桁の新加入選手を迎え入れた山形で、山田よりもクラブ歴が長いのは移籍11年目の石川竜也だけ。山田に次ぐのは4年目の松岡亮輔と汰木康也になる。だから山田は、山形サポーターにとって少し特別なのだ。おらがチームのゴールなら誰のゴールも嬉しいが、山田のゴールだからこそなお嬉しい――。そんな空気を感じたのは、決して気のせいではないだろう。

 さて、最高の雰囲気で折り返した試合はしかし、後半にセットプレーから2点を失ってひっくり返され、アディショナルタイムの永藤歩のゴールでかろうじて2−2のドローにこぎつけた。勝ち点1を加えたが、プレーオフ圏内の6位東京ヴェルディとの勝ち点差は4。残り13節で勝ち点4差という数字は、十分に可能性があるようにも見えるが、近い勝ち点に10チーム前後がひしめく混戦から抜け出そうとすれば、一歩も引くことはできない。試合後、山田に自身にとって3度目となるJ1昇格への思いを聞くと、こんな答えが返ってきた。

「今年のモンテディオは選手が入れ替わり、だいぶ色も変わりましたが、本当に力があるし、面白いチーム。これまでの昇格は2回とも、経験豊富な選手を中心に戦って上がったイメージが強いですが、こういう、ちょっと若返ったチームで上がれれば、また違う雰囲気でJ1を戦えると思う。今、若くていい選手がいっぱいいるから、このタイミングでJ1に上がって、上がればみんな(移籍せずに)残ると思うから、なんとか上がりたいです、このメンバーで」

 夏が終われば、リーグ戦はいよいよ佳境に入る。ラストスパートをかけるチームにプラスアルファの力を与えるのは、やはり地域のファン・サポーターの力。そしてそのファン・サポーターの心に力を与えるのが、生え抜き10年目、山田の活躍なのではないか。あのゴールの後の、まるで観客一人一人の笑顔が見えるような温かなどよめきの中に身を置いて、そんなことを思った。

文=頼野亜唯子

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