【コラム】決戦を前に改めて考える――なぜ、日本はオーストラリアに勝てないのか

【コラム】決戦を前に改めて考える――なぜ、日本はオーストラリアに勝てないのか

昨年10月の対決ではPKを沈め、1−1の引き分けに持ち込んだオーストラリア [写真]=Getty Images

◆立ちはだかる難敵

 なぜ日本は勝てないのか?

 今月末に決戦を控えるオーストラリアのことだ。5分け2敗。過去のワールドカップ予選において、日本は一度も勝っていない。言わば、天敵である。

 そもそも論として、アジアレベルなら普通に強い。しかも、日本の嫌なことばかり仕掛けてくる。だから、余計に戦いにくい。

 第一にロングボールだ。いくら最終ラインを押し上げて戦おうとしても、後ろからガンガン放り込まれて、気づけば撤退に次ぐ撤退。日本の苦手な肉弾戦でセカンドボールを拾われ、いとも簡単に失点――という筋書きである。何度そんな光景を見てきたことか。日本サッカーには、いまだアバウトな放り込みに対する「免疫」がないように見えて仕方がない。例えば、2年前の東アジアカップでも190センチを超える長身FWをターゲットにした北朝鮮や韓国のロングボール戦法を食らって、守備組織が崩壊。最下位に沈む要因となった。

 第二にハイクロスだ。オーストラリアのFW陣と言えば、日本が何度も痛い目に遭ってきたティム・ケーヒルをはじめ、横(外)から入ってくるボールにも滅法強い。特にサイドバックが中に絞る日本の大外(ファーサイド)は中央以上に高さがなく、そこを狙われると、対応はさらに難しくなった。

 Jリーグにロングボールを中心に攻めてくるチームは、まずいない。外からハイクロス勝負というケースも稀だ。空路より陸路、球は転がせてナンボ。そんなチームが大半である。かつて名古屋グランパスに在籍していたオーストラリアの巨人ジョシュア・ケネディが2年連続でJ1得点王を獲得したことがあるが、これも「高さを生かせば楽勝」というJの死角を物語る事例と言えるかもしれない。また、尹晶煥(現セレッソ大阪監督)が率いていた時代のサガン鳥栖などはロングボールを有効に使って、Jの強豪を大いに苦しめていた。

 球を大きく蹴り上げ、味方が落下地点へ突進していくキック・アンド・ラッシュは、どこかラグビー的だ。これをラグビー大国のオーストラリアがやると、妙にハマる。日本はその迫力に押されて、受け身に回ってきた。



 おまけに攻めるのも厄介だ。守備ブロックに侵入しても、リーチの長さ、タックルの深さ、コンタクトの強さに手を焼いて、最後の一線を越えるのが難しい。外から崩そうとしても肝心のクロスが「人間山脈」に阻まれて、なかなかフィニッシュに結びつかない。こうして攻めあぐねた末に球を失って、例のロングボールを浴びるわけだ。技術とパスワークという長所が封じられ、高さと強さに乏しい短所ばかりが顕在化する。日本にとって、これほど戦いにくい相手もいないだろう。

 こうした例は日本だけではない。1990年代後半、王国ブラジルもロングボール戦法を操る北欧の巨人ノルウェーを大の苦手にしていた。当時の監督だったマリオ・ザガロが「あんなものはサッカーじゃない!」と吐き捨てた話は、あまりにも有名だ。

 もっとも、現代では極端なロングボール戦法へ走るチームは減っている。アンジェ・ポステコグルー監督就任以降のオーストラリアも、その一つだ。体格差の少ないヨーロッパ勢相手には、ロングボールの効果が薄い。パスをつないで攻めるスタイルへ一大転換を図った。これは朗報か――と思いきや、現在の日本は球を奪ってからダイレクトに相手ゴールへ迫るカウンター型を志向している。従来とは大きく異なる「世界標準」仕様だ。過去の戦いの図式から攻略法を探っても、あまり意味がない。実際、昨年10月11日のアウェー戦では日本がガッチリ守って速攻を狙い、1−1のドローで終えている。両国の立場が入れ代わったような戦いぶりで、勝ち点1を持ち帰った。

◆では、どう戦う?

 オーストラリアの「陸路攻め」は日本にとって好都合だ。少なくとも、前線からのプレスをロングボールであっさりスキップされるケースは少ない。うまくプレスを連動させて、相手のパスワークを寸断し、中盤から前で球を奪えば一気にチャンスが広がるだろう。

 だが、理屈はそうでも、実践できるかどうかはまた別の話だ。活動期間の少ない代表の宿命か、プレスの嵌め方や連動性に波がある。しかも、高温多湿ならプレスの強度も微調整が必要だ。ハードワークは当然でも、それが行き過ぎてオーバーワークに陥っては元も子もない。
また、噛み合わせの問題もある。予想されるオーストラリアのシステムは3−4−2−1。日本が4バックのゾーンで守備ブロックを組めば、マッチアップにズレが生じやすい。その穴を埋める工夫がないと、プレスが嵌まらず、いいようにパスを回される恐れがある。

 特に高い位置でフリーになりやすいウイングバックを、どう捕まえるか。これにサイドMFをぶつけて自陣に押し込まれると、逆襲へ転じるのが難しい。前方のパスコースが1トップとトップ下の2枚しかないからだ。

 おまけに、オーストラリアは球を失った後のカウンタープレスが速く、鋭い。下手をすると自陣から球を逃がせず、2次攻撃を浴びる危険もある。こうなれば負けパターンへ一直線だ。そこで意識的にラインの裏へ人と球を送り込んで、一時的に押し返す細工が必要だろう。そのための「弓と矢」を用意できるかどうか。

 戦術面では(1)ウイングバック封じ(2)前線のキープ(3)ライン裏狙い――の3点がポイントになりそうだ。そもそも指揮官の志向するプレス・アンド・ラッシュを機能させるには、どれも必須のテーマだろう。

 無論、タイとの最終戦で勝ち点3を見込めるオーストラリアが慎重策に出る可能性もある。いざとなれば、ロングボールを使ってくるかもしれない。そんな厄介な罠が張りめぐらされた一戦でもあるわけだ。相手の出方次第で、柔軟に打つ手を変えられるか。イレブンが同じ意図をもって難局に当たらなければ、無事では済まない。そこで正しい進路を指し示す羅針盤が必要だろう。その意味でも、これまで以上にベンチ(指揮官)の手腕が問われているはずだ。

文=北條聡

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