【コラム】緊張の大一番で「ヒーローに」…浅野拓磨、有言実行の先制弾

【コラム】緊張の大一番で「ヒーローに」…浅野拓磨、有言実行の先制弾

有言実行の先制ゴールを決めた浅野拓磨 [写真]=Getty Images

「昨日はバクバクしながら寝ました」

 そう笑いながら話したのはFW浅野拓磨(シュトゥットガルト)だ。試合前夜のミーティングでオーストラリア戦の先発を伝えられた。「基本、試合は緊張する」という浅野にとって、スタメンを告げられてからの準備期間は落ち着かないものだったという。

「どの試合よりも緊張した。ピッチに入るまでドキドキしていました」

 今までに経験したことのない緊張感が浅野を襲った。勝てば6大会連続のワールドカップ出場が決まる――。そんなプレッシャーに負けないように、浅野は「大舞台に強いんだ」と何度も自分に言い聞かせた。

 序盤は「噛み合わないプレーがあった」と連係面でミスが目立つ。22分、DF酒井宏樹(マルセイユ)とのワンツーで右サイドを崩しにかかったが、リターンパスは失敗。酒井も「拓磨がやりやすいようにできなかった部分もあった」と反省点を口にした。それでも運動量豊富にピッチを走り回り、得点のチャンスをうかがっていた。

 歓喜の瞬間が訪れたのは41分だった。「常に裏への抜け出しは狙っていた」とDF長友佑都(インテル)からの左クロスに反応。ゴール前でフリーになると、「慌てず、枠に入れることだけを考えました。足を振らずに、ボールに合わせることを意識した」と冷静に左足ダイレクトでゴール右隅に流し込んだ。「最高のボールが来たので合わせるだけでした。時間があった分、緊張もしましたけど、本当に入って良かったです」。得点後は代名詞とも言えるジャガーポーズを披露。スタジアムは歓喜と興奮に包まれた。

 試合前、浅野はこんな言葉を口にしていた。

「ここで一発やったろうか、という気持ちはあります」

 さらりと言ったが、決意のような強い何かが伝わってきた。3月の代表2連戦では、同世代のFW久保裕也(ヘント)に2ゴール3アシストの活躍を見せつけられた。6月のキリンチャレンジカップ・シリア戦では後半に途中出場するもノーゴール、続くW杯最終予選・イラク戦はベンチから試合を見守った。「チームに貢献できていない」と危機感は募っていくばかり。「今までいいプレーを見せられていない。自分の立ち位置を確立させるためにも、ここで一発逆転したい」。改めて自分の存在価値を示すためにはゴールが必要だった。

 その野心が、この大一番で実を結ぶことになる。浅野は「僕は走ることしかできない」と何度も相手の背後を突く動きを繰り返し、そして訪れた得点チャンスをしっかりとものにした。

「今まで貢献できていなかったからこそ、『ここで決めたらヒーローだ』と言い聞かせて、『ヒーローになるんだ』という気持ちでやりました」

 緊張から解放された背番号18の顔に自然と笑みがこぼれた。有言実行のゴールでチームをW杯へと導いたが、「課題はいっぱいある。まだまだだと自覚しています」と謙虚さは忘れていない。ロシアの舞台で“ヒーロー”になるために、浅野拓磨は進化し続ける。

取材・文=高尾太恵子

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