【コラム】ロシア行きを賭け有言実行…ドイツで存在感増す武藤嘉紀は“持ってる男”になれるか

【コラム】ロシア行きを賭け有言実行…ドイツで存在感増す武藤嘉紀は“持ってる男”になれるか

目に見える結果を残した武藤 [写真]=Getty Images

 気温32度・湿度80%という酷暑に加え、6万2165人の大観衆の異様な熱気に包まれたジェッダのキング・アブドゥラ・スタジアム。5日の2018年ロシアワールドカップアジア最終予選・サウジアラビア戦は壮絶な一戦だった。日本は終盤、杉本健勇(C大阪)に加え、吉田麻也(サウサンプトン)も前線に上げるパワープレーに打って出たが、その捨て身の作戦は実らず、0−1のままタイムアップの瞬間を迎えた。殊勲の決勝弾を挙げたアルムワラド(19番)に1対1で崩された酒井宏樹(マルセイユ)らがピッチ上に倒れ込む中、背番号14をつける男・武藤嘉紀(マインツ)はベンチで悔しさをにじませた。8月31日のオーストラリア戦(埼玉)を含む2連戦で招集されたFW陣でただ1人、出番を与えられなかったからだ。その屈辱感は想像を絶するものがあったに違いない。

 慶応大学在学中だった2014年9月のウルグアイ戦(札幌)で初キャップを飾り、続くベネズエラ戦(横浜)で初ゴールを決めた男は、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督体制移行後も大きな期待を寄せられた。予選スタートとなった2015年6月のシンガポール戦(埼玉)もジョーカーとして起用され、マインツ移籍当初のゴールラッシュも追い風となって、2015年末までは常連組の1人と位置づけられていた。ところが、2016年2月のハノーファー戦で右ひざを負傷してから人生が暗転。2016年9月の最終予選序盤戦のUAE(埼玉)&タイ(バンコク)2連戦でいったん復帰したものの、2度目のケガで代表からさらに遠ざかることになった。

 苦悩の日々を強いられ、募る焦燥感にさいなまれたこそ、満を持して呼ばれた今回2連戦への思いは誰よりも強かった。

「実力はもちろん大事だけど、ここ一番で決められるかどうかは『持ってるか、持ってないか』だと思う。やっぱり運も味方につけていかないと。僕は大一番は好きだし、ヒーローになるチャンスがあるというのがワクワクする。本当に点を取りたい」と彼はオーストラリア戦前には目を輝かせていたが、フタを開けてみるとまさかのベンチ外。サウジ戦も大迫勇也(ケルン)温存で他のFWにチャンスが巡ってきたが、ピッチに立てたのは本田圭佑(パチューカ)、岡崎慎司(レスター)と杉本。武藤ははじき出される格好になってしまったのだ。

 私服姿でカートを引きつつ、スタジアムを後をする際、彼は強く思ったことだろう。

「自分はワールドカップ出場権獲得に関われなかったけど、そこに出るチャンスをもらえた。それをプラスと考えて、本戦出場に合わせていくことが大事。これだけ予選で人の入れ替えが多かったってことは、本戦になればいなくなる人もいれば、新しい選手も出てくるということ。ホントに全員平等にチャンスがある。それをモノにするかしないかは自分次第なんだ」と。

 そのうえで、武藤は「やっぱり自分が一番、やらなきゃいけないのは結果。結果を出し続けていればチャンスは巡ってくる。マインツに帰ってとにかく点を取ること、点に絡むことかなと思います」と語っていた。

 その発言通り、9月9日のドイツ・ブンデスリーガ第3節・レバークーゼン戦で彼はまさに有言実行のゴールを奪う。0−1でリードされていた前半終了間際、左サイドバック・ブロジンスキの敵陣深い位置からの折り返しをファーサイドで反応。鋭い動きで左足を合わせボレーでネットを揺らしたのだ。ここまで劣勢を強いられていたマインツは活力を取り戻し、後半に2点を加えて、待望の今季初勝利を挙げる。ジョン・コルドバがケルンへ移籍し、最前線の点取屋の重責を託された武藤はそれだけの存在感と能力の高さを改めて実証したのである。

 最終予選終盤2連戦の呼ばれた海外組FW陣を見ると、大迫はアウグスブルグ戦に先発フル出場したもののケルンの低迷脱出の原動力にはなり切れなかった。本田と乾貴士(エイバル)はスタメンに陣取ったが、ゴールに絡む仕事はなし。岡崎に至ってはベンチ外となかなか厳しい現実に直面している。そういう時だからこそ、武藤の輝きがより際立つ。ハリルホジッチ監督は前線でタメを作れる大迫の動きを非常に重要視しているが、肉体改造によってパワーアップした武藤も最前線で同じような仕事ができるはず。マインツで1トップを張り続けていれば、評価は必ず上向くだろう。

「とにかくリーグ戦で点を取ること。それが自分の価値を高めると思いますし、ドイツ国内で取れてれば、自分の自信にもなる。あとは代表でのチャンス、来た時に持ってるか持ってないか、決めれるか決めれないかだと思う。それを楽しみにしてます」と本人も意欲的に語ったように、今の流れをいかにして代表につなげるかが肝心だ。まずは10月のニュージーランド(豊田)・ハイチ(横浜)2連戦、そして11月の欧州遠征まで好調を持続し、得点を重ねていくことが肝要だ。

文=元川悦子

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