先発でもジョーカーでも脅威に…決勝点演出の乾貴士が示した左サイドでの存在価値

先発でもジョーカーでも脅威に…決勝点演出の乾貴士が示した左サイドでの存在価値

途中出場で決勝点の起点となった乾貴士 [写真]=三浦彩乃

 大迫勇也(ケルン)のPKで先制しながら、ニュージーランドのエースFWクリス・ウッド(バーンリー)の豪快なヘッドで追いつかれ、1−1のまま終盤を迎えた日本代表。6日夜、冷たい雨の降りしきる豊田スタジアムで行われた一戦は、2018年ロシア・ワールドカップに向けた本格的なチーム作りの重要な一歩だっただけに、FIFAランク113位の相手にドロー決着だけは避けたかった。

 想定外の苦境を打ち破るシーンが訪れたのは88分。酒井宏樹(マルセイユ)、山口蛍(セレッソ大阪)、長友佑都(インテル)とつながったボールを左サイドで受けた乾貴士(エイバル)が得意のドリブルで仕掛けたところが始まりだった。背番号14は深い位置からふわりとしたクロスを蹴り込む。「健勇(杉本=C大阪)が中に入ってたんで高いボールを入れようと思って。それまではニアに低いボールを入れてたけど、健勇は高いボールの方がええんやなと思ったんで。それで適当に入れました」と本人は言う。

 それが杉本の頭上を超え、ペナルティエリア内まで上がってきた酒井宏へ渡り、頭で折り返したところに飛び込んだのが倉田秋(ガンバ大阪)だった。A代表5試合目のダイナモは大胆なダイビングヘッドで待望の初ゴールを決め、日本を勝利へと導いた。

「誰が出て、誰が得点取ろうが、それはチームの得点なんで、何も変わらない。チームが勝てればそれに越したことはない」とお膳立てした乾も嬉しそうに同級生を称えていた。

 殊勲の倉田同様、乾もハリルジャパンでの経験は決して豊富ではない。チーム発足時の2015年3月のチュニジア(大分)・ウズベキスタン(東京)2連戦には呼ばれ、後者のゲームに出場しているが、そこから2年以上も招集を見送られてきた。だが、2015年夏に赴いたエイバルで大活躍し、確固たる自信を手にしたテクニシャンは攻守両面で献身的プレーのできる選手へと変貌。瞬く間にボスニア人指揮官の信頼を勝ち取り、最終予選の大一番だった8月31日のオーストラリア戦(埼玉)で先発に抜擢された。そこでのハードワークは凄まじく、守から攻への切り替えの鋭さ、長友とのタテ関係を生かした分厚い攻めも披露。日本のロシアへの切符獲得に大きく貢献した。

 あれから1カ月。今回のニュージーランド戦で乾はジョーカーとして異彩を放った。武藤嘉紀(マインツ)と代わって70分からピッチに立つと、得意のドリブルで積極果敢に前へ前へと仕掛けていく。長友も上がる回数が増え、左サイドが活性化すると同時に、チーム全体が躍動感を取り戻す。その思い切った一挙手一投足が倉田の決勝ゴールを生み出す原動力になったのは間違いない。

「先発の時とは役割が違うんで。先発の時はバランスってものがあるんで、守備もやらないといけないけど、1−1の試合途中から入るのは『今日は点を取りに行く』っていうサイン。守備は陽介(井手口=G大阪)に任せて、自分は高い位置で攻撃に行こうと考えました。もちろん守備もしないとダメなんですけど、ある程度攻めに比重を置きたかったので」と彼は割り切って前がかりになったことを打ち明ける。

 自分なりに戦況を分析し、多少のリスクを冒しても攻撃に徹することのできる日本人選手は少ない。その大胆不敵さが乾貴士の大きな強みだ。バランス重視だったフランクフルト時代はなかなかそのよさを理解されずに苦しんだが、エイバルでは信頼できるチームメートに囲まれて、勇気を持って自分らしさを前面に押し出せるようになった。「エイバルに行ったことは大きいのかもしれないですね」と本人も笑っていたが、この短期間でスタメンでもジョーカーでも十分いける左サイドアタッカーであることを、彼は確実に実証してくれた。

 加えて、同じポジションを争う武藤、原口元気(ヘルタ・ベルリン)と異なる特徴を彼自身がよく理解し、チームのために有効活用している。それも重要なポイントだ。「ヨッチ(武藤)のよさは裏に抜けること。そこでの得点感覚もあるし、キープできる力もある。俺とは違う特徴があるので羨ましい」と乾は話す。一方、左太もも裏負傷でこのゲームを欠場した原口もダイナミックなランニングを繰り返すことができ、ゴールに直結する仕事もこなせる。同じドリブラーでも微妙にタイプが違うのはお互いに認めるところだろう。

「貴史(宇佐美=デュッセルドルフ)含めて左にはいい選手が揃っているので、自分が選ばれなくても仕方ない部分もある」と本人も話すだけに、彼らの陣取るポジションは日本代表の中で最も競争が厳しいと言っても過言ではない。そういう状況下で、乾がこの日のように「確固たる違い」をピッチ上で表現し続けることができれば、長年の念願だったワールドカップの大舞台に手が届くはず。すでに2014年ブラジル大会を経験している同学年の吉田麻也(サウサンプトン)や香川真司(ドルトムント)より少し遅咲きではあるが、乾にとっては今が一番いい時期なのだろう。同じ88年組の倉田とともに、ここから一気にエンジンを上げていってほしいものだ。

文=元川悦子

関連記事(外部サイト)