日本が用意するべき“2つのシナリオ”とは? 蘭代表&アヤックスユースの日本人アナリストがセネガル戦を徹底分析

日本が用意するべき“2つのシナリオ”とは? 蘭代表&アヤックスユースの日本人アナリストがセネガル戦を徹底分析

W杯2戦目で対戦するセネガル代表 [写真]=Michael Regan - FIFA/FIFA via Getty Images)

 初戦、コロンビアを撃破した日本代表。大会までの試合すべてが“テストマッチ”と呼ばれるほど、世界中の国々が“結果”を求めるワールドカップだが、勝敗に直結するからこそ、プレーモデルの発展を目的とした検証と、次戦のスカウティングを関連付けて考えることが重要だ。

 25日に行われる第2戦の相手は強豪ポーランドを2−1で破ったセネガル。コロンビア戦に続き、オランダ・アヤックス/オランダ代表のユースカテゴリでアナリストとして活躍し、日本の指導者を対象に「The Soccer Analytics」という分析メソッドの普及に努める白井裕之氏にセネガルのスカウティングを依頼した。

 スカウティング対象となるのは、「W杯2戦目でともに1勝を挙げ、日本代表と対戦するセネガル」。前回同様、ゲーム分析に基づいた、日本代表の勝機を見出す“ソリューション”についても触れている。

取材・文:大塚一樹 提供:COACH UNITED

■アナリスト泣かせだったコロンビア戦



「相手によって、自チームが置かれている状況、選手のコンディション、天候や芝生の状態、あらゆる事前状況が関係してくるのがスカウティングです」

 自チームを勝利に導くためのスカウティングを欧州の“現場”でこなしている白井氏には、日本代表を自チームとして実行可能な“勝ちの芽”を見出す分析をお願いしている。

「アナリスト泣かせの試合でしたね」

 白井氏が振り返るのは、日本代表の初戦となったコロンビア戦。試合の是非の前に、開始わずか3分でコロンビアのMFカルロス・サンチェスが香川真司のシュートを右腕でブロック。PK、一発退場という“緊急事態”でスタートした試合は“想定外”の連続だった。

「日本代表に有利になったのは良いことなんですが、試合当初のゲームプランが崩れたのはコロンビアも日本も同じ。もし、自分があの試合にスタッフとして仕事をしていたら、大慌てで “対10人の戦術”を練り直していていたはずです」

 さらにスタメンには日本代表が絶対マークしなければいけないハメス・ロドリゲスの名前もなし。エース不在は幸運にも見えるが、コロンビアの攻撃のほとんどがハメスに絡んでいることを考えれば、日本は最大の“狙い所”、集中すべきポイントを失ったことになる。

「退場したカルロス・サンチェスも私の事前のスカウティング(詳しくは前回記事(https://www.soccer-king.jp/news/japan/national/20180619/779269.html)を参照)では、ビルドアップのキーマンでした。2人の不在によって、コロンビアはやり方を大きく変えてこざるを得なくなるわけですから、スカウティングによるゲームプランという意味では、冷や汗ものです」

 日本の失点シーンとなったFKも、相当数研究しているであろうハメスの左足ではなく、代わって入ったフアン・キンテーロのシュート。壁の下を狙う技ありのゴールだったが、ハメスのキックに比べてサンプルは圧倒的に少なかったはずだ。白井氏は、「オランダ人のGKなら、失点直後にベンチにいる僕に『このキッカーのデータ少なかったじゃないか!』と抗議の眼差しを送ってくるでしょうね」と笑う。

 想定外が続くなか、日本代表は勝利をものにした。コロンビア戦のレビューではないので、詳細は記さないが、欧州では試合のあとのゲーム分析結果を次節までのトレーニングに反映させるM−T−“A”−M(マッチ−トレーニング−アナリシス−マッチ)という枠組みが定着していて、コロンビア戦で「できたこと」「できていなかったこと」はセネガル戦のスカウティングにとっても重要な前提条件、布石になる。

 ここからは白井氏自身の言葉で、セネガル戦のスカウティング、さまざまな前提条件を加味した上で見えてきた日本代表の勝機について語ってもらうことにしよう。

■これまでとまったく異質のサッカーを展開した“W杯仕様”のセネガル

 コロンビア戦を勝利した日本の次の相手は、アフリカの強豪・セネガルです。みなさんはアフリカの国々とその選手にどんな印象をお持ちでしょう?

 身体能力が高い、サイズに勝る、一方で組織力に欠け、戦術は得意ではない。こんなイメージを抱く人が多いかもしれませんが、ヨーロッパではアフリカ大陸出身の選手が多く活躍しているので、彼らの戦術に対する理解が低いということはあり得ません。私の所属するアヤックスも、早くからアフリカにルーツを持つ選手が活躍するクラブの一つですが、出身地に関係なく育成段階で“アヤックス化”を施すので、少なくともクラブにいるときは組織としての動き方を全うしてプレーしています。

 ポーランド戦でのセネガルは、よく組織されてチーム全体が“意図的に”プレーできていました。「ポ−ランド戦での」と言ったのは、実はこのセネガル、大会前に分析したその他の試合では、ここまで意図的に組織だったプレーをするチームではなかったのです。

 私が分析したゲームの中からいくつかの試合を紹介すると、3月23日のウズベキスタン戦、3月27日のボスニア・ヘルツェゴビナ戦、6月8日のクロアチア戦は、少なくともポーランド戦とはまったく違うやり方で試合を進めていました。

チームオーガニゼーションも「1−5−3−2」を採用することが多く、攻撃時にはサディオ・マネ、エムバイェ・ニアン、イスマイラ・サールらが豊かなスピードを活かして攻めるものの、中盤(フィールド2)での効果的なビルドアップはほとんど見られず、前線とDFラインが間延びするという特徴がありました。ストロングポイントである「縦の速さ(早さ)」がオーガニゼーションのズレを生み、そこに日本代表が付け入るスペースが生じる。ポーランド戦までは、こんな分析が成立していました。

 ところが、ポーランド戦のセネガルは、攻守ともにそれまでとは別チームのような戦略をとってきました。「1−4−4−2」のチームオーガニゼーションで、守備時は全選手が自陣まで下がり、ポーランドのビルドアップがハーフウェーラインを越えてからリアクションするというやり方でした。ボールホルダーに対しても基本的にはリトリートして方向を限定できるため、ボール奪取が容易なサイドに追い込むか、MFへの縦パスに狙いを定め、奪ってから素早く攻撃に転じる。手元の集計ですが、セネガルは前半だけで実に13回(27回のボール奪取のうち)ものカウンターを発動させることに成功しました。

 ポーランドは日本代表と同じく、ゲームメイク戦略のポジショナルプレーを採用するチームです。エースストライカーのロベルト・レヴァンドフスキの特徴からも、カウンターからの速い攻撃での得点が多いチームであることが災いした感もありますが、セネガルの徹底した「リトリートからカウンター」という戦術に見事にハマってしまいました。

 セネガルもゲームメイク戦略を採用していますが、ポジショナルプレーではなく、より直接的にゴールに迫るダイレクトプレーを選択しています。そして相手を見た相対的な戦術として、リトリートしてカウンターを多く使用していたのです。

■セネガル戦を戦う上での“二つのシナリオ”



 この戦い方を見せられてしまうと、W杯前のスカウティングをチームにそのまま渡すわけにはいきません。コロンビア戦のような緊急事態を事前予測するのはかなり難しいですが、セネガルの変貌はポーランド戦のフィールドですでに起きたことなので、アナリストとしては当然想定して、チーム全体に共有しておくべき事柄です。

 自分たちが想定する戦略と相手に合わせて調整する戦術、この二つがゲームを進める上での大きな指針になりますが、それだけでは不確実性の高いサッカーのゲームをカバーしきれません。試合中に起きる不確定要素や、こちらの想定が外れた場合などに分岐していく条件を分析的に見る要素が“シナリオ”という考え方になります。セネガル戦では、試合開始のホイッスルとともにこのシナリオの分岐点が訪れます。

 ポーランド戦のように自陣まで下がり、相手の攻撃に網を張る「守備を基本にした戦い方」をしてくるのか? それとも、W杯前のように攻撃で自分たちのストロングポイントを多く発動させようとするのか?

 日本代表は二つのシナリオを用意しておく必要があるのです。

 スカウティングの重要な役割の一つに、試合前に“想定外”をなくすことがあります。セネガルがポーランド戦と同じやり方をしてきても、思ったより前から来ても、どちらも「あるよ」とチームで共有しておけば、柔軟な対応が可能になります。

 いくつもあるシナリオの中で、チーム、特に選手に優先させたいのが、自チームにとって危険なシナリオです。セネガル戦の場合は、ポーランド戦のようにリトリート→カウンターというのが日本にとって大きな脅威になります。

 セネガルがこの戦術を採用してきた場合、日本の対処法は「無理してボールを保持せず、相手にボールを回させること」になります。セネガルがボールを保持することで、カウンターが発動することを抑止できます。しかし、この想定ではそれは相手への依存度が高く、自分たちから事態を打開する決め手に欠けます。ビルドアップをしながら、セネガルの素早い攻撃を封じ、なおかつ得点の機会をうかがう戦術はないか? そんな視点で浮かんできたのが、日本代表が中盤で数的優位を保つための戦術です。

■中盤中央での数的優位を意図的に作り出せ

 時間帯や攻守のバランスも考えなければいけませんが、日本代表が主導権を握りながら攻めるためにはどうしたら良いのか? ヒントはコロンビア戦の後半にありました。11対10の数的優位にも関わらずなかなかその有利を活かせなかった日本代表ですが、後半に入ると明らかにやり方を変えたという部分がありました。

 それが、ビルドアップ時の長谷部誠と柴崎岳のポジショニングでした。

 前半、ビルドアップの場面で、長谷部と柴崎はDFラインまで下がってボールをもらいに来ていました。対するコロンビアのFWは1人ですから、図@のように4対1という不自然な数的優位が生まれることになります。その結果、フィールド2から3に攻めて出る香川が、1対2の数的不利に陥ってしまっていたのです。退場者を出して引いてきている相手に、フィールド1、2でのディフェンスラインからのビルドアップに人数を割き、自ら中盤で数的不利を作り出している。対10人の戦い方ができていなかったということなのですが、この問題のせいで、中盤でフリーマンを作り出せない状況が頻発しました。

 後半開始直後の映像を確認すると、長谷部と柴崎のポジションが目に見えて前になっています。2人が相手のMFと対峙する形でボールを受けることで、香川が動きやすくなり、大迫選手にボールが入りやすくなったのです。



■ポーランドも同様の問題が

 セネガルの初戦の相手、ポーランドにも同様の問題が見られました。「1−4−3−3」のチームオーガニゼーションを採用するポーランドは、10番のグジェゴシュ・クリホヴィアクが下がってビルドアップを行うため、中盤中央で数的不利が生まれ、サイドにボールが追い込まれてしまう現象が起きていました。消極的理由でサイドに流れたボールはセネガルの守備の餌食となり、カウンターにつなげられるというシーンが多くなっていたのです。(図A)

■日本の選手たちの役割は

 日本としては、この形だけは絶対に避けなければいけません。そこで考えたのが、図Bような選手にそれぞれの役割を与えたやり方です。

 基本はコロンビア戦のスタメンを踏襲していますが、ビルドアップの際のオプションとして左サイドの長友佑都を中盤に上げ、数的優位を意図的に作り出すことを目指します。セネガルが「1−4−4−2」できた場合、攻撃時に相手の2トップに対してDFライン4枚が並んでいる必要はありません。吉田麻也、昌子源、酒井宏樹が中央を抑え、長谷部と柴崎は相手のFWよりも前、コロンビア戦の後半のように高くポジションをとり、DFラインでは3対2、中盤中央では3対2の数的優位を作り出すのです。

 セネガルはリトリートしてボールを奪うタイミングを計っているという前提ですから、ボールホルダーにプレッシャーをかけてきたときにボールを素早く動かして、相手の守備を無効化しつつ、香川がフリーに、前を向いてプレーする大迫勇也へスルーパスが通る形が作れれば、日本の得点の可能性は高まり、ボールをフィールド中央で長く保持できれば、サイド攻撃でも1対1での状況を意図的に作り出して優位に立てます。

■攻防一体がサッカーの醍醐味 攻撃・守備・攻守の切り替えをつなげて考える

 ポーランド戦を見たあとでは、ビルドアップをする日本代表に不安を覚える人もいるかもしれません。セネガルのニアン、ポーランド戦ではバランサーに徹していたマネは、左サイドを主戦場にする世界的なアタッカーです。縦パスをカットされて縦パス一発、不要な横パスを?っ攫われてそのまま高速ドリブルで抜け出される。こうしたカウンターのリスクを軽減するために、ビルドアップの際は酒井宏樹に日本の右サイドをケアしてもらいます。

 コロンビア戦では、アクションの頻度で酒井高徳を推しましたが、セネガルの強烈なアタッカー陣には、一つひとつのアクションの強度が出せ、広範囲で守備ができる酒井宏樹が最適です。酒井宏樹がマネ、ニアンのカウンターを防げば、中央の吉田、昌子のどちらかはカバーリングに回る余裕ができます。

 右サイドにもとんでもないスピードを持つイスマイラ・サールがいますが、ここはウイングバックもこなす長友と昌子に対策を任せます。いずれにしても日本の攻撃時のビルドアップで数的優位を保つことができれば、ボールを奪われた時でも、ボールへのプレッシャーを掛けやすい数的優位を保てるので、攻守の切り替えから守備のフェーズに素早く切り替わるカウンター攻撃を受けたとしても、「準備ができた状態」で守備を行うことができるはずです。

 シナリオ2として想定する、セネガルが日本のフィールド1、2から積極的に守備を仕掛けてきた場合ですが、脅威なようでいて実はこちらの方が対処が容易です。ポーランド戦でも局面によってはフィールド1、2でのビルドアップの妨害を試みていましたが、ハーフウェーラインまで下がって守備をする場合と比べて選手間の距離が広くなりスペースができるため、ポーランドも楽にボールを回せていました。この形の場合は、W杯前の課題だった前線とDFラインまでの間延びが顕著になるので、日本代表はポジショナルプレーを展開しやすくなるはずです。(図C参照)

 ポーランド戦で攻撃においてカウンターという手段を選択したセネガルですが、鋭いカウンターを実現していたのは、フィールド中央を固める守備でした。守備ブロックを作る最前線をハーフウェーラインに置いて地域を限定し、さらにリトリートで中央へのパスコースを塞いでしまうことで、ボール奪取ポイントをサイドに絞る。前からプレッシャーに行かない分、選手同士の距離が近いため、素早い攻守の切り替えが可能、かつセネガルの武器であるスピードのある選手が活かせる。

「セネガルは組織的」と多くの人が指摘していますが、「組織的」であるための戦術、やり方を理解すれば、それを利用した戦い方が見えてくるのがサッカーの面白いところです。得点の確率、勝利の確率を高めるためには、スカウティングによって相手のストロングポイント、ウィークポイントを見分け、ストロングポイントの発動を防いだ上で、ウィークポイントを“意図的に”発生させる方法論をあらかじめ準備することが必要不可欠です。

記事提供:COACH UNITED

※白井 裕之
オランダの名門アヤックスで育成アカデミーのユース年代専属アナリストとしてゲーム分析やスカウティングなどを担当した後、現在はアヤックス内の別部門、「ワールドコーチング」のスタッフとして海外のクラブや選手のスカウティング、コンサルティングを担当。また、オランダナショナルチームU−13、U−14、U−15の専属アナリストも務めている。
日本国内においては自身がまとめたゲーム分析メソッド「The Soccer Analytics」を用いたチームコンサルティングや、指導者向けセミナーなどを全国各地で行っている。

関連記事(外部サイト)