「戦略」を活かして「戦術」で勝て!  ポーランド攻略の鍵は“中盤の人数”

「戦略」を活かして「戦術」で勝て!  ポーランド攻略の鍵は“中盤の人数”

コロンビア戦に先発したポーランド代表先発メンバー [写真]=Patrick Smith - FIFA/FIFA via Getty Images

 1勝1分、グループリーグ突破をかけた第3戦の行方は? 対戦相手のポーランドはすでにGL敗退が決まっているとはいえ、欧州予選を8勝1分、わずか1敗で突破した強豪であることに変わりはない。

 引き分け以上でGL突破が決まる日本代表は、どのように戦えばいいのか。ポーランドの内紛が噂され、モチベーションの高い若手を中心にしたチーム編成になるのでは? などさまざまな情報が飛び交う中、日本代表は「事前の準備」の点では難しい選択を迫られることになる。

 圧倒的有利とは言え、決勝トーナメント進出を確定させているわけではない日本代表はポーランドとどう戦えばいいのか。オランダ・アヤックス/オランダ代表のユースカテゴリでアナリストとして活躍し、日本の指導者を対象に「The Soccer Analytics」という分析メソッドの普及に務める白井裕之氏にスカウティングを依頼した。

取材・文:大塚一樹 提供:COACH UNITED

■戦略で好結果を残した日本代表、一方で戦術面には改善できる点も

 大会直前の解任騒動から西野朗監督の就任を不安視する声が多い中、着実に結果を残し、1勝1分でグループHの首位に立った日本代表。“望外”とも言える快進撃を続けているが、決勝トーナメント進出をかけた戦いはこれから始まる。

 ここまで2戦続けて実戦用のスカウティングをしてくれた白井氏は、日本代表の戦いぶりを踏まえた上で、「さらに優位に戦いを進め、勝利の確率を上げるための」戦い方を探る。

 ポーランド戦のスカウティングを始める前に、日本代表のここまでの戦いぶりは、どうなのだろう。白井氏にとっての“仮想自チーム”である日本代表の戦いぶりは、自分たちで設定した「戦略」においては試行錯誤、成長の跡が見られるという。

「コロンビア、セネガルと自分たちよりもプレーレベルの高い相手に対してどう戦うのか? という点については、いまの日本代表の選手の特徴や相手の特徴を考慮し、試合前に想定したやり方がうまく機能している面があると思います。最も大きいのは、一律にリトリートするのではなくボールホルダーに対してプレッシャーをかけ続けている点です。この積極性と継続的な守備が強豪相手にある程度能動的に戦えている要因でしょう」

 翻って、相手のやり方を踏まえて試合中に用いる「戦術」については、まだまだ改善の余地があるという。

「相手のやり方を見分けて、それに対応したプレー、さらに踏み込んでそれを利用したプレーができるかどうかの部分ですね」

 日本ではこの「相手のやり方を見分けて即応する」パートを選手の即興性に期待する傾向があるが、ヨーロッパでは戦術部分もあらかじめ設定されている。スカウティングは、相手のやり方のバリエーションを想定して「シナリオ」を作り、その分岐の数だけ対応策を練るという役割を担っている。

 白井氏が指摘したのは、セネガル戦での日本代表のビルドアップのやり方だ。

「セネガルは、初戦のポーランド戦で機能した1−4−4−2ではなく、1−4−3−3、エムベイェ・ニアンの1トップと3人のミッドフィルダーの布陣で日本戦に臨みました。これに対して日本代表は攻撃時のビルドアップで長谷部誠がDFラインまで下がってボールを受けるシーンが目立ちました。これが日本代表のビルドアップを落ち着かせたという分析も目にしましたが、ゲームをコントロールするという観点でいうと、このやり方よりもベターな選択肢があったように思います」

 このセネガル戦でのビルドアップは、ポーランド戦の戦い方にもつながる重要ポイントとのこと。ここからは、白井氏の解説に耳を傾けよう。

■メリットもあったがデメリットもあった長谷部の役割

 セネガル戦では、長谷部がDFラインまで下がることで数的優位を作り出し、ビルドアップの組み立てを行うというやり方を基本にしていました。このやり方は、守備に回ったときは一時的にしろ西野監督が初陣で試した3バックで守れるという利点があります。

 西野監督の頭には、2017−18シーズンのブンデスリーガで、アンカーとリベロをこなした長谷部の活躍があり、彼を中心にしようという意図が見えます。相手を想定しない自分たちの「戦略」部分で、長谷部選手が下がってボールを受けることを基本にするのはまったく問題ないのですが、状況によってより効率的なプレーがある場合はそちらを選択する柔軟性も必要です。

 図@は、セネガル戦の日本の攻撃時によく見られた、長谷部がDFラインに下がってボールを受けるプレーを表したものです。長谷部が後ろへポジションを下げるため、相手の中盤の選手がマークについてきていることがわかります。日本の両サイド、長友佑都と、酒井宏樹は攻守の切り替え時に前に出る動きをしますから、DFラインには吉田麻也、昌子源の2人が残っていることになります。

 このとき、フィールド2の日本のDFラインだけを見ると、3対2の局面ができていることがわかります。この数的優位によって、日本代表はビルドアップを行っていたのですが、実はこの戦術は、日本の攻撃という観点からは効率的ではなく、むしろビルドアップをしながら相手ゴールに迫るという観点ではマイナス面を生んでいるのです。

■長谷部がDFラインに下がることで…

 次の図Aは、長谷部がDFラインに下がっていくときの過程を示したものです。ビルドアップがスタートし、吉田にボールが入った時点での、DFラインの人数を確認してみましょう。日本は吉田、昌子の2人、対するセネガルはこの日1トップに入ったニアンがいるだけです。つまり、長谷部がマーカーを引き連れてDFラインまで下がることで、2対1の数的優位が、3対2の数的優位になるのです。

「どちらも数的優位なのだから問題ないのでは?」と思う人もいるかもしれませんが、ここで重要なのは「プレーしているフィールドの位置」になります。結論から言えば、フィールド2の後ろで3対2を作るより、2対1のままでプレーした方が中盤以降により人数をかけて数的優位を作れるということが言えます。

 長谷部が下がる局面では、彼がボールを触るというメリットの裏で、中盤の数的優位ができず、攻撃がサイドへの展開か、ロングボールに限定されてしまうというデメリットが発生していたのです。長谷部が下がることによって、中盤が3対3から2対2になり、ボールを奪われた際のプレッシャーというこの試合での大きな要点についても後手を踏むことになりました。数的同数には違いありませんが、スペースがより大きいことが、セネガルにカウンターからチャンスを何度も与えることになりました。

 フィールド1からのビルドアップに関して言えば、実際、セネガル戦の日本代表はショートパスのビルドアップで崩す場面より、中盤を飛び越すロングボールで局面を打開するシーンが目立ちました。それでも試合を見たみなさんが「つないでいる」という印象を抱いたとしたら、それはセカンドボールを拾って、攻撃を設定し直せたからという理由が挙げられるでしょう。

 セネガル戦の日本代表は、かなりの確率でセカンドボールをマイボールにできていました。これは、日本の予測が良かったという理由よりもセネガルの守備、セカンドボールに対してのアクションがあまりにも悪かったことに起因しています。CBの競り合いに絶対の自信があったセネガルは、ボールに対してのアプローチが一拍遅れます。それを尻目に日本代表の選手たちは、セカンドボールを拾い攻撃をやり直すことができたのです。

 もちろんこの陰には大迫勇也が屈強なCBと競り合ったこと、試合前の戦略で、ゴールキックやDFラインからのロングボールを意図的に増やしていたことを忘れてはいけません。

■不確定要素の多いポーランド戦は「戦術」が鍵を握る

 ポーランド戦のスカウティングを踏まえたゲーム分析をする上で重要なのは、「ロングボールのセカンドボールをとれた」という結果ではなく、より確率の高い方法はなかったのかという視点です。

 事前のスカウティングで「ロングボールが有効」「セカンドボールが拾える」という方針がある程度示されていたとしても、相手が1トップできていて、フィールド1もしくは2からのビルドアップがより有利と思えばそちらに切り替える。セネガルの1トップを務めたニアンは、爆発的なスピードを持っていますが、守備のアクションを繰り返し行う継続性や粘り強さには欠けます。この特徴から見ても、CB2人での対処をキープした方が優勢に試合を進められた可能性が高かったでしょう。さらにニアンを疲弊させてカウンターの脅威を奪うことも可能でした。つまり、相手のやり方を見分けてやり方を変えるという方法論を持てれば、セネガル戦はよりコントローラブルな試合になったはずなのです。

 ポーランド戦では、ここまでうまく機能している日本の「戦略」をうまく活かし、相手のやり方を見分けて対応する「戦術」を柔軟に出して行くことが勝利への近道になります。

 GL突破をかけた大一番の相手は、すでに敗退が決まっているポーランドです。相手のモチベーションも含め、選手起用など不確定要素が多く、スカウティングのかなりの割合を占める「予測」が難しい試合ではありますが、セネガル戦同様二つの「シナリオ」を用意して試合に臨みたいと思います。

 今大会のポーランドは攻撃に明らかな問題を抱えています。それは、ポーランドが採用する戦略に原因があるのですが、ストロングポイントを構成する要素が何かの拍子で欠けてしまったとき、それがウイークポイントになってしまうという典型例のように見えます。

 ポーランドのスカウティングに当たって、ビデオによるゲーム分析を行った試合は、2017年の3月27日に行われた欧州予選のモンテネグロ戦、9月2日のデンマーク戦、2018年の3月27日の韓国戦、6月8日のチリ戦、6月12日のリトアニア戦と今大会、ここまでの2戦です。

 これらの試合を分析した結果、ポーランドは、1−3−4−3のチームオーガニゼーションを基本に、サイドアタッカーに攻撃な特徴を持つカミル・グロシツキ、ヤクブ・ブワシュチコフスキが揃った場合は、1−4−3−3でサイド攻撃という傾向があることがわかりました。

 センターフォワードに日本でも有名なロベルト・レヴァンドフスキがいますが、決して彼だけのチームではなく、1−3−4−3のチームオーガニゼーションから丁寧にビルドアップをして、攻撃のバリエーションを増やした中で最後にはレヴァンドフスキが決めるタイプのチームです。

 分析したゲームだけの集計でもビルドアップからの得点が10あり、かなりロジカルなサッカーを展開するチームという印象を受けました。

■ロジカルなサッカーをするポーランドの隙はそのロジックにアリ?

 今大会、早くもGLでの敗退を余儀なくされたのは、そのロジカルなサッカーのロジックの部分が欠けてしまったからと言えるでしょう。初戦となったセネガル戦の前半で、右のウインガ−、ブワシュチコフスキが負傷交代を余儀なくされ、まず攻撃に特徴を持った選手の数が減ります。左サイドのグロシツキもトップフォームにはほど遠く、ポーランドの攻め手は、論理的に数的優位を作っていくビルドアップでの崩しのみになってしまいます。

 こうなったときのポーランドは、攻撃に人数をかけて攻めるやり方しかしてきません。

 ポーランドが1−4−3−3のチームオーガニゼーションで来た場合、1−3−4−3で来た場合の二つのシナリオに応じてスタメンを用意しましたが、どちらの場合も数的優位を保つために前線にかなり人を割いてくるのが特徴です。

 ポーランドが1−4−3−3のチームオーガニゼーションを敷いた場合は、日本としては攻撃の予測がしやすくなります(図B参照)。セネガル戦でも見られたように、ボールはよく動くのですが、A地点からB地点にボールが移動しているだけで、相手の守備ラインを突破するには至りません。攻め手はあらかじめサイド攻撃に限定されますが、今大会の左右のウインガーの調子を見ると、日本の両サイドが圧倒される確率は低いでしょう。

■問題は3バック時

 問題は、1-3-4-3でロジカルなサッカーを展開してきた場合です(図C参照)。DFラインを3バックにしてウイングバックは高い位置を保ち、中盤の人数を増やして数的優位を作る。3トップのうちレヴァンドフスキ以外はいわゆる“シャドーストライカー”のような役割を果たしているので、事実上ポーランドの中盤には4人の選手が密集することになります。

■コロンビアの対処法を参考に日本オリジナルの対処法を考える

 この戦い方への対処方法として参考にしたいのが、GL第2戦でポーランドと対峙したコロンビアが見せた対処方法です。

 コロンビアが素晴らしい守備でポーランドを打ち破ったということならそのまま参考にさせてもらうのですが、スコアこそ0−3ですが、この試合、ポーランドの攻撃はある程度機能していました。自陣からのビルドアップで数的優位を作るという戦略は機能していましたし、攻撃に特徴のある選手がレヴァンドフスキをサポートできれば、得点の可能性もあったはずです。

 前線に5枚の選手を並べてくるポーランドに対して、コロンビアは4バックに加えボランチを一枚下げ、さらにウイングのフアン・クアドラードをDFラインに加えるという方法で守りました。これにより、コロンビアのDFラインでは、6対5という状況ができあがっているわけですが、この形ではボールを奪ってから攻めるのに相当時間がかかってしまいます。(図D参照)

 コロンビアがこの形を採用できるのは、右サイドのクアドラードの類い希なるスピードと、この日は左ウイングに入っていたハメス・ロドリゲスのキープ力を前提にしたものです。

 コロンビアとしては、噛み合わせの不利のかなりの部分を個人の特徴で補う形で克服していたことになるので、日本としては、これをそのまま採用でするわけにはいきません。

 ポーランドが1―3―4―3を選択した際は、フィールド2からのビルドアップの妨害がひとつのポイントになります。

■中盤でボールを奪う

 日本代表には、中盤で5対5の数的同数を保って守備をしてもらいます。コロンビアは、数的優位を保つため、相手のやり方にあわせてチームオーガニゼーションを崩していましたが、このやり方なら、日本は自分たちのチームオーガニゼーションを保ったまま守備ができます。(図E参照)

 香川真司がチェイシングをして、長谷部と柴崎岳の連動で中央でのビルドアップを防ぐことができれば、ポーランドはスピードやドリブルでの突破力というより、ビルドアップのために前に出てくるウイングポジションの選手にボールを回さざるを得なくなります。このサイド選手にボールが渡ったとき、またはボールが出る瞬間が日本のパスカットの狙い目になります。

 ここでボールを奪えると、中盤は数的同数になります。ビルドアップに手数と人数をかけてくるポーランドに対して、ボールを奪ってから素早く攻めることができれば、日本の得点機会が訪れるはずです。

 お手本になるのは、コロンビアがポーランドにとどめを刺した3点目です。

■何を選択するかが重要

 左サイドにビルドアップを追い込んだコロンビアは、ここでボールを奪うと、右サイドのオープンスペースにパスを出し、クアドラードを走らせます。ポーランドは、自らのロジックにこだわって前線に人を割いているので、自陣には広大なスペースが残されていました。(図F参照)

 日本代表で言えば、中盤を5対5の数的同数でカバーでき、なおかつボールを奪うことに成功すれば、左右に配置されている乾貴士と武藤嘉紀がフリーになれる確率が高まります。必然的に大迫が自由に動けるスペースも増えるため、決定機をかなり多く作ることも可能になるのです。

 この戦術を適応できるかどうかは、相手のやり方次第と言うこともあります。ポーランド戦のポイントに「戦術」を挙げているのは、試合中でも相手のやり方を見分けて、それに対応したやり方を選択すること、その中でも、自分たちのストロングポイントをどうしたら発動できるか、発動させやすいのか? を選択することが重要だからです。

 相手の敗退が決まっている状態で迎える3戦目、相手のチームオーガニゼーションや選手起用については流動的で、アナリストとして「これだ」と断言できる確信はない中でのキックオフになるかもしれませんが、どのシナリオになったとしても、試合の中で起きる状況を的確に見分けて、事前のスカウティングに照らし合わせて、プレーを選択してくことが真にスカウティングを活かすということにつながるのです。

 もちろん日本代表の選手たちは私が提案するスカウティングをもとに試合を戦うわけではありませんが、相手のやり方、状況に応じたプレーで決勝トーナメント進出を勝ち取って欲しいと思います。

記事提供:COACH UNITED

※白井 裕之
オランダの名門アヤックスで育成アカデミーのユース年代専属アナリストとしてゲーム分析やスカウティングなどを担当した後、現在はアヤックス内の別部門、「ワールドコーチング」のスタッフとして海外のクラブや選手のスカウティング、コンサルティングを担当。また、オランダナショナルチームU−13、U−14、U−15の専属アナリストも務めている。
日本国内においては自身がまとめたゲーム分析メソッド「The Soccer Analytics」を用いたチームコンサルティングや、指導者向けセミナーなどを全国各地で行っている。

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