トップ4返り咲きへ…新アーセナルの鍵を握る“戦術的な”新指揮官と“適材適所な”大型補強

トップ4返り咲きへ…新アーセナルの鍵を握る“戦術的な”新指揮官と“適材適所な”大型補強

アーセナルは近年にない大改革を施し新シーズンを迎えようとしている [写真]=Getty Images

 ヴェンゲルと決別したアーセナルは、本当に正しい道を選んだのか――。その答えが出るのは来年5月、もしくは何年も先の話かもしれない。現時点で言えるのは、生まれ変わった姿でスタートラインに立つということだけだ。

 毎年プレミアリーグは、各クラブの情報が掲載された「ハンドブック」を公式HPでリリースしている。クラブ広報の連絡先やリーグ規定などが記されたデジタル小冊子だ。それに目を通せば、アーセナルの何が変わったのか一目瞭然である。時間があるときに、昨季と今季の資料をダウンロードしてアーセナルのページを見比べて貰いたい。(今季からクラブのFax番号が記載されていないのは、単なる時代の流れだろう!)

 注目すべきは監督の項目だ。別に今さら監督名を比べろと言うつもりはない。見比べて欲しいのは監督の「肩書き」である。アーセン・ヴェンゲルには「Manager」という役職が書かれていたが、今季から指揮を執るウナイ・エメリには「Head Coach」と記されているのだ。

新指揮官は状況によって柔軟に対応できる“Head Coach”

 昨年からアーセナルは組織改革に着手しており、ドルトムントから強化責任者を、バルセロナからスポーツディレクターを引き抜いた。その流れで、監督職も全権を委ねる「Manager」から指導だけに専念する「Head Coach」へと変わったのである。

 そして分業制となれば、根っからのコーチ気質であるエメリは適任者と言える。プレシーズンの最初の会見では「戦術、技術、フィジカル」の強化に取り組むと意気込みつつ、アーロン・ラムジーの契約問題の話になると「本人とクラブの問題」と冷めた様子だった。

 そんな新指揮官を迎えたアーセナルは、ライバル勢よりも1週間早い7月2日に始動し、インテンシティの高いトレーニングで体力強化と戦術確認を同時に行ってきた。とりわけ戦術に関しては、大幅な改善が期待できる。「ヴェンゲルは選手のひらめきに委ねたが、エメリは“もう少し”戦術的で組織立っている」と両監督を比較したのは右SBエクトル・ベジェリンだ。恩師に配慮する現役選手の言葉である。「もう少し」を「かなり」と解釈しても間違いないだろう。

 エメリは、自分たちのスタイルを極めることに固執した前任者と違い、状況によって柔軟に対応できるタイプだ。プレシーズンマッチでは4−3−3を基本形として、4−2−3−1や3−4−3も確認。8月4日に行われたラツィオ戦の前半には、アーセナルでは何年もご無沙汰だった4−4−2まで試してくれた。若手を起用したことで「ボールポゼッションが満足いかなかった」と後半から4−3−3に戻したとはいえ、とても新鮮な光景だった。さらにプレシーズンでは念入りにプレスの掛け方を確認しており、昨季までのような無意味な単独プレスは解消されるだろう。

派手さはないがバランスが取れた適材適所な補強

 補強に関しては、強化部長主導で進めた甲斐があり、バランスが取れている。中でもウルグアイ代表のルーカス・トレイラは、ファン待望の頼れる守備的MFだ。動き回ってボールを回収し、パスをさばく。少し大袈裟かもしれないが、エンゴロ・カンテが加入したと思っていいだろう。さらに、合流初日からチームメイトに叫んで指示を送る積極性まで見せているのだ。

 フランス2部から加入したMFマテオ・グエンドゥジは、パトリック・ヴィエラと比較されるほどスケールの大きい19歳だ。年齢を疑いたくなるほど自信満々にボールを保持する。持ちすぎて失うことも度々だが、本当に大化けしそうな匂いがする。

 それ以外にも、衰えが指摘されていた36歳のGKペトル・チェフと定位置を争うことになるGKベルント・レノ、実績十分のDFソクラティス・パパスタソプーロスやシュテファン・リヒトシュタイナー、派手さこそないが、適材適所な補強と言えるだろう。

 そう考えると、新生アーセナルには期待が持てそうだ。少なくともファーギー退任時のマンチェスター・Uの惨劇の二の舞だけは避けられるはずだ。ただし、全ては机上の空論である。いくら用意周到に戦術を練っても、単純にオリヴィエ・ジルーを投入する方が効果的なことは往々にしてある。ロジックだけでは通用しないのがプレミアリーグだ。理想を追い求めた偉大な前任者からバトンを渡されたエメリは、理想と現実の狭間で折り合いをつけられるのか。トップ4返り咲きを目指す戦いが始まろうとしている。

文=田島大(フットメディア)

関連記事(外部サイト)