要因は『観察力』と『信頼』 2011年W杯ともシンクロした“ヤングなでしこ”世界一の理由

要因は『観察力』と『信頼』 2011年W杯ともシンクロした“ヤングなでしこ”世界一の理由

表彰式後、選手たちに胴上げされる池田監督 [写真]=Getty Images

 グループリーグで1敗して、グループ2位で決勝トーナメント1回戦に進むと、対戦相手は優勝候補のドイツに決まった。日本の戦いはここまでかと思われたが、大方の予想に反して日本が総合力で突破すると、歴史的勝利を続けて決勝へ。そして、初の決勝の舞台も制して日本が初優勝を遂げる。大会前はレギュラーとは言えなかった選手が、大会中に定位置を掴んでヒロインとなり、チームに勢いをもたらした。

 これは、先のFIFA U-20女子ワールドカップフランス2018で優勝した、U−20日本女子代表の戦績でもあるし、FIFA 女子ワールドカップドイツ2011で優勝した、なでしこジャパンの戦績でもある。

 2011年のヒロインはMF川澄奈穂美(現・シアトル・レインFC/アメリカ)だった。今夏のヒロインは、強烈な左足のキックを持つチーム最年少MF遠藤純(JFAアカデミー福島)だ。

 世界一に立った2011年のなでしこジャパンと、2018年のU−20日本女子代表には、共通点が多い。

 2011年のなでしこジャパンは、選手が互いに連携しあってボールを奪う、“ソーシャルサッカー”で世界を驚かせた。2018年のU−20日本女子代表を率いた池田太監督は、『ハードワーク』という言葉を選手やメディアの前で多用している。相手の選手と選手の間に立ち、絶妙な距離感を90分間保ったまま、相手に休みなくプレッシャーをかけ、まずボールに近い選手2人以上がボールを奪いに行き、その周りの選手も、こぼれ球を拾えるところで準備しておく。これは言葉は違えど、2011年のなでしこジャパンが実行した、“ソーシャルサッカー”と同義ではないだろうか。

 筆者は当初、池田監督が掲げるハードワークは、守備における考え方を指すものと理解していたが、「ハードワークというのは、チャンスがあったら飛び出すこと、相手のスペースに出ることも含めてのハードワーク」と、池田監督本人が明かしている。

 例えば、初戦で決めたMF林穂之香(セレッソ大阪堺レディース)のシュートは、相手選手と林の間にこぼれたボールへ向け、林が一歩早く踏み出してそれを奪ったことから生まれた。

 決勝のMF長野風花(仁川現代製鉄レッドエンジェルズ/韓国)の得点も、ハードワークの結実だ。スペインから猛攻を受ける苦しい時間だったが、長野は相手ペナルティエリア内右に見つけたスペースへ走った。ハードワークを止めなかった長野が、最後の試合で大会初得点をマークした。

 では、チームがハードワークを続けられたのはなぜか。ひとつの要因に、『観察力』にあると考えられる。

 今大会のチームが集合写真でよく見せていた、『太さんポーズ』は、ミーティングの時などに、池田監督がよくやっていたというクセを、選手が真似して始まったという。「選手たちはチームメートだけじゃなく、私たちスタッフのことも、よく見てるんですよ」と池田監督は笑う。

 試合中にベストなポジショニングをするためには、ピッチをよく見渡し、観察して、一歩または半歩のポジション修正を連続する必要がある。その効果的なポジショニングから、ハードワークは始まっている。

 池田監督はチーム立ち上げから、しっかり状況把握=観察することを習慣づけてきた。その結果が、去年10月のAFC U−19女子選手権中国2017(アジア予選)の優勝であり、今大会の優勝、おまけに『太さんポーズ』の誕生にもつながった。

 ハードワークを可能にした要因は、もうひとつあると考えている。それは信頼できるチームの存在だ。

 決勝の前半、日本は相手にプレッシャーをかける位置が定まらないまま、ハーフタイムを迎えた。DF南萌華(浦和レッズレディース)は「ハーフタイムにみんなで守備について話し合った」と話す。遠藤はもっと具体的に「前線の選手が自ら判断して(プレスに)行ってもらえば、私たち後ろの選手が必ず、それについていくようにした」と明かしている。初の優勝が懸かった大舞台で、高い位置からプレスをかけていくのは勇気がいる。体力が削られるし、チーム全体が間延びする要因ともなり得るからだ。

 しかし前線の選手が、背後のチームメイトを信頼して、積極的に高い位置からプレスをかけ、それに呼応して2列目の選手が続いた。結果、後半はスペインが精度の低いパスを出すことにより、日本がボールを奪うことに成功した。

 勉強不足で申し訳ないが、筆者は浦和レッズでプレーした池田監督の現役時代を知らない。しかし現役選手さながら、元DFの池田監督は練習中に混じってボール全力で追いかけた。アツい男・池田監督は「指導する方も全力でやらないと選手に失礼でしょ?」と、当然のように話す。

 練習場に点在する全選手に、話しかけに行く池田監督の姿も印象的だった。選手に言わせれば「ほとんどがどうでもいい話」。しかし全体練習後のフリータイムも、池田監督は毎日グラウンドを隅々まで見る。選手やスタッフと一緒にグラウンドをランニングしたり、パス回しをしたり、シュートを打ったり、腰を下ろして談笑したり。そのすべてのコミュニケーションが、チーム力を高める一因になったはずだ。

 林は決勝戦の後に「仲がいいだけじゃなく、戦う集団になれた」と感想を述べた。2011年のなでしこジャパンも、戦う集団だった。妥協を許さず、11人が声を掛け合いながら、相手のボールホルダーに対して、次々とプレッシャーをかけ続けた。

 2018年のU−20日本女子代表の世界一は、2011年やそれ以前から続く、日本が進むべき道=ジャパンウェイを再確認させるものだった。

 最後に告白するが、決勝トーナメント1回戦の相手がドイツに決まった瞬間、2011年も2018年も、帰国の準備を始めた筆者を許してほしいと思う。

取材・文=馬見新拓郎

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