【ライターコラムfrom千葉】溝渕雄志、苦しいときこそ輝く男…無私の心で勝利を引き寄せる

【ライターコラムfrom千葉】溝渕雄志、苦しいときこそ輝く男…無私の心で勝利を引き寄せる

4試合連続先発出場中の溝渕雄志 [写真]=J.LEAGUE

 背番号15はゼロから一気にトップギアに入る加速力で右サイドを疾走した――。

 J2第30節の東京ヴェルディ戦。溝渕雄志は対面するサイドバック奈良輪雄太と一進一退の攻防を繰り広げる。そこにドリブラーの泉澤仁も流れてくるため、劣勢を強いられる場面も何度かあったが体を張ってシュートをブロック。返す刀で反撃に出てクロスを送り得点へと力を傾けた。

「個人として1対1では絶対にやらせないというつもりで挑みました。そこは出来ましたが、右サイドを守る点でもっと修正できたと思います」。ジェフユナイテッド千葉はプレスを外されギャップを作られると前半の2失点が響き、結果2−3で敗戦を喫した。「周りの選手にどう守備をするのかを伝えるのも仕事。まだまだ全然足りていません。シンプルにやられているので粘ることで失点は減ります。意識を統一してみんなで積み重ねて良くしたいです。絶対に良くなると信じていますし(失点は)減ると思っています。そうでなければ自分が出場する意味がないです」とエネルギーが溢れる言葉から強い決意が伝わってきた。

 プロ2年目の溝渕は、昨シーズン終盤にチャンスを掴むとJ1昇格プレーオフに進む千葉の原動力となった。今シーズン、1月のキャンプからコンディションを上げスタメン定着を狙ったが、チームの戦術的狙いもあり第19節の愛媛FC戦までの出場数は合計で7試合。ベンチ外となる日も少なくなかった。それでも練習場での振る舞いは変わらない。ユナイテッドパークで懸命に汗を流し、地道に努力をする姿があった。

「出場していない時に自分の中で整理をして準備をする。出場していない時の姿勢がとても大事になると思っています。そこでの積み重ねがあるからこそ、チャンスが来た時に試合に出場できると感じます」

 そして満を持して6試合ぶりの先発が回ってきた第25節のヴァンフォーレ甲府戦(2−1)では、50分にあわや失点というシュートシーンを体を投げ出してブロック。「勝ち点3のために何が出来るかを常に考えています」と先発出場に懸けた強い思いも重なってか小さなガッツポーズで喜びを表現した。しかし、チームの戦略もある。ここまで右サイドバックには山本真希、茶島雄介、ゲリア、鳥海晃司が起用されている。ポジション競争は熾烈だが、裏を返せば指揮官を認めさせるだけのプレーさえすれば定位置確保につながることは間違いない。

「(定着するには)パフォーマンスを安定させること、自分が最低限のやれることを丁寧にやり、ピッチで示すことが出来れば評価は変わると思います。他の選手にないモノを出したいと考えます。相手に自由を与えないプレーやラインコントロール。攻撃ではシンプルにつけながら追い越してクロスを供給すること。そのためのアップダウンも長所です。(定位置を)勝ち取りたいです」とファーストチョイスを狙う。

 現在はチームの強化部に所属し、流通経済大学付属柏高校サッカー部では当時コーチとして溝渕を指導していた稲垣雄也スカウトは「高校1年の最初は前目の選手で、途中からサイドバックにコンバートとなりました。元々、身体能力が高くスピード感があり走れる選手でした」と懐かしそうに振り返った。また、1年後輩で流経柏時代に同じ釜の飯を食べた小泉慶(柏レイソル)は「対人やアジリティーはトップクラスで、1対1で負けるところは見なかった。積極的なプレーが多く、賢さを持っていましたね」と話す。

 その後、慶應義塾体育会ソッカー部に進むと技術だけではなくリーダーシップやパーソナリティーを磨き、人間としても大きく成長した。「苦しい時に踏み出す一歩、戦術的なことはあるにせよ危ないところを察知する力も進歩していました」と稲垣スカウトは話すと「あの年、右サイドバックを取りたい意向があり、ピックアップした中で『こいつは信用できる』とプッシュしました。もちろん他のスタッフにも入念にチェックをしてもらいました。技術や知恵も大事ですが、人間力は重要なところで大きな要素だからです」と獲得の理由を話した。

 この「人間力」というキーワードが溝渕を象徴している。周囲とのコミュニケーションを大事に互いのプレーを理解し、守備では近いポジションの選手と連係を図ることはもちろん、ボールを持った時は攻撃陣とのタイミングを構築する。第27節の松本山雅FC戦(2−3)では、右サイドをトップスピードで走り抜けると絶妙なクロスを送り相手のハンドを誘発。船山貴之のPKにつなげた。そして1点差を追いかける場面では、右サイドから左サイドに回っても最後まで駆け上がり、“やってやろう”という姿勢を見せていた。

 人への対応、間合い、アプローチの位置、スピードの吸収の仕方、ドリブルに対しての幅の合わせなど、細部まで突き詰めているからこそ「やられる気がしない」、「1対1を止めた時の快感が強い」というのは隠さない本音だろう。そして攻撃面では「去年、見えていなかったところが見えています。慌てずに探せていることで(クロスを)可能性のあるボールを入れることが出来ています」と揺らぐことのない自信を口にする。また、溝渕の成長を間近で見てきたディフェンスリーダーの近藤直也は言う。

「去年より落ち着きも出て状況判断が出来るようになっています。誰が見ても分かりますが、ガムシャラさが一番のストロングポイント。守備で頑張れますし、運動量とパワーは他の選手にないもの。1対1で負けないところはセンターバックにとって重要で役割を忠実にこなしてくれているので助かっています」

 一方で、チームはリーグワーストとなる59失点を喫している。すでに昨シーズンの58失点を超えてしまった。溝渕は「良い守備をしてくれと期待をされて出場していると思っているので悔しさはあります」と、ここまで尽くした力ではまだまだ足りていないというのは痛感している。ただ“チームを良くしたい”と自らが集団のためにという公平無私の心がチームの原動力となることもたしかだ。溝渕の口からは熱のこもったマグマのような言葉が溢れ出す。

「チームのために自分に何が出来るのかをずっと考えています。チームがきついと感じている時に頑張って体を張るのが僕の役割。苦しい時に声をかける姿勢も大事。自分の役割だと思ってブレすにやるべきことを続けたいと思っています」

 リーグ戦も残り12試合となり、次の第31節は千葉と同様に攻撃力を売りにするレノファ山口FCが相手だ。今後を占う意味で大きな山場となるだろう。打ち合いも上等だが、ゼロで抑えること、失点しても慌てずに試合を進めることを大事にしたい。

「この状況を変えるのも引きずるのも僕ら次第です。甘えをなくし、自分たちに厳しく、そして仲間に要求できるかが鍵になります。チームには(昇格を)誰も諦めている選手はいません。一致団結して全員で乗り越えたいです」

 チームが苦しい時にこそ、溝渕のストロングポイントは際立つ。目の前の道が険しくともチームの勝利に貢献するため、攻守でアグレッシブさを押し出し献身的なプレーをする。後悔なく自分をやり切る背番号15のプレーに注目したい。

文=石田達也

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