浅野拓磨が落選前に語っていた胸の内…不遇の1年から“勝負の3年目”に挑む

浅野拓磨が落選前に語っていた胸の内…不遇の1年から“勝負の3年目”に挑む

日本代表と同じく、浅野拓磨も新たな戦いに挑んでいる [写真]=Getty Images

 森保一監督率いる新生日本代表が、なんだか気持ちいいほど強い。

 コスタリカ、パナマ、ウルグアイとロシア・ワールドカップ出場組を相手にホームとはいえ3連勝。世界的な強豪の一角に数えられるウルグアイとは切った張ったの乱打戦で互角以上に渡り合い、見事な4得点で勝利した。

 おそらく、彼らから伝わってくる気持ちよさの要因は“3連勝”という結果とは別のところにある。

 パスを受けたら前を向く。ボールを前に押し出して縦に仕掛ける。ゴールが見えたら迷わず狙う。自信満々。意気揚々。面目躍如。とにかく活き活きと楽しそうにプレーするから、観ているこちらも痛快無比。舞台がワールドカップでなければ「負けてもいいじゃん」とさえ思えてしまうワクワク感が、この3試合の日本代表には確かにあった。

 原動力となっているのが、「新ビッグ3」などと呼ばれ始めている中島翔哉、南野拓実、堂安律をはじめとする攻撃陣のニュージェネレーションだ。その特長は三者三様だが、臆せず、迷わず、加えてひたむきなメンタリティは横並びの共通項だ。あのウルグアイを相手に初顔合わせで持てる力を存分に発揮するのだから、「日本サッカー新時代の幕開け」と盛り上がるのも無理はない。

 もちろん、ニュージェネレーションは彼らの他にもいる。中でも浅野拓磨は、ポジション争いに割って入らなければならないタレントの一人だ。中島と南野は1994年度生まれの同級生だが、A代表においてはヴァイッド・ハリルホジッチ体制下ですでに十分な存在感を示してきた。ケガによって今回の代表招集を辞退した浅野が、彼らの活躍を目のあたりにして気持ちが高ぶらないはずがない。

ロシアW杯最終メンバー発表前に語っていた胸の内とは

 浅野にとって新天地ハノーファーで臨む今シーズンは、勝負の1年だ。

 シュトゥットガルトで過ごした2017―18シーズンは、たったの15試合しかピッチに立てず、後半戦の約半年間はベンチ入りすらできない時間が続いた。彼と電話で話したのは、シーズン終了後、ロシアW杯に臨む日本代表候補合宿が始まる前のことだ。

「今までに経験したことがないほど難しいシーズンでした。変わらない状況に対して『厳しいな』と思っていたし、その分だけ、ずっと悔しかった。監督が僕のことをまったく見てくれていなかったわけではなかったし、決して“よそ者扱い”されていたわけじゃないんです。でも、とにかく何をやっても、試合には絡めなかった。チームの調子が良かったから(最終順位は7位)、仕方がないところもあったとは思うんですけど」

 タイフン・コルクト前監督とは、シーズン終了後に言葉を交わしたという。日本代表への招集を見据えて、シーズン終了後の親善試合には出場せずに一足早い帰国を打診した時のことだ。

「僕を使う気がなかったことはすぐにわかりました。でも、監督に対してネガティブな感情はなかったし、コミュニケーションもちゃんと取れていました。監督は、サッカー選手にとっては試合に出場することが大事で、来シーズンはそれが可能なチームを選ぶことが大事であること、できればサイドではなくFWで使ってもらえるチームの方がいいということ、それから、もっとゴール前での落ち着きを持って結果を残し続けることが大切だと伝えてくれました。シュトゥットガルトで試合に出られなかったのは自分のせいです。監督が求める選手になれなかった。それだけのこと。だから、なんとか、代表で……」

 それから、こう続けた。

「日本代表の候補メンバーに入れたことは、僕にとって半年ぶりのチャンスなんです。チャンスを与えてもらったことで、アピールできる。それがめちゃくちゃ嬉しくて。もちろん、クラブで試合に出ていない僕が選ばれたことを良く思っていない人もいると思います。でも、僕にとっては超ポジティブ。前向きなことしかない。スタートラインがマイナスだから、それをプラスに変えていくだけ。最終メンバーに入れなくても当たり前だけど、入れたらもっと頑張る。もちろん、やれる自信はあります」

 しかし、5月31日に発表されたロシアW杯登録最終メンバーのリストに、浅野の名前はなかった。

試合に出られなくても頑張れる理由

 ハノーファーへの移籍が発表されたのは5月23日のことだ。実は、契約交渉はかなり前から進められていたという。

「本当に、かなり前から気にしてくれていました。しかも、“僕みたいな選手”ではなく、“僕”を欲しいと言ってくれた。シュトゥットガルトでああいう経験をしたから、まずは僕自身を求めてくれるチームに行きたかった。だから決めました。可能性があるいくつかの選択肢の中で、一番のチームだと思いました」

 まずは代表合宿、頑張って――。そう伝えて電話を切ろうとすると、浅野は「もう少しいいですか?」と話を続けた。

「シュトゥットガルトでは、『どうして試合に出られなくてもずっと頑張れるの?』とか『そういう時ってどういうメンタリティなの?』とか聞かれることがよくあって、自分なりに考えました。もしその試合に出られなくも、次の試合に出られる可能性はゼロじゃないですよね。たとえ確率が低くても、1%でも2%でも残っているなら、それに期待して100%で準備するのはプロとして当然のこと。

いくら僕でも、可能性がゼロならサボっていたかもしれません。でも、どう考えてもゼロじゃない。試合に出ている選手がケガをしてしまうかもしれないし、急に監督の気が変わるかもしれない。つまり、未来って何が起こるかわからないじゃないですか。だから、試合に出られなくても頑張れる理由もそれなんですよね。未来が分からないから、頑張れる。……なんか俺、カッコいいこと言ってます?」

 もともと言葉を持っている選手だ。彼の頭の中は常にグルグルと回転していて、熟考の末に導き出されたカッコいい言葉に薄っぺらさはない。そのメンタリティと思考能力は、スピードよりも特筆に値する武器であると思う。

4年後の雪辱へ…順風満帆とは言えない再出発

 浅野の能力は“ただ速いだけ”ではない。どれだけ落ち込んでも自力でポジティブ思考に脳内転換できるキャラクター。それでいて向こう見ずの開き直りではなく、きちんと向こう側を見据えて逆算できる。わずか23歳にして、頭の中がとにかくはっきりと、体系的に整理されている。

「何となく、僕がそういう考えを持っていることを伝えておきたくて。とにかく頑張ります」

 勝負の3年目が幕を開けた。そのスタートは順風満帆とは言えない。ハノーファーでは“準レギュラー”の域を出ず、日本代表では同学年の中島と南野を筆頭するニュージェネレーションが躍動している。未来は分からないが、だからこそ頑張り続けられる。もちろん4年後の雪辱を見据える彼もまた、新生日本代表を彩るキャストの一人であることは間違いない。

文=細江克弥

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