合言葉は「兵働と“勝ちロコ”を」…若手の躍進を支えた清水MF兵働昭弘のクラブ愛

合言葉は「兵働と“勝ちロコ”を」…若手の躍進を支えた清水MF兵働昭弘のクラブ愛

引退する兵働(右から6人目)のためにホーム最終戦を勝利で飾れるか [写真]=Geety Images

「兵働と“勝ちロコ”を」

 24日の明治安生命J1リーグ第33節ヴィッセル神戸戦に向けて、清水エスパルスの選手たちは合言葉のように、この言葉を口にしている。

“勝ちロコ”は、清水の選手やファン・サポーターの間でお馴染みとなっている勝利後の儀式。選手とサポーターがそれぞれ隣の人と肩を組み、『LOCO LOCO』という応援歌に合わせて踊る。選手も参加するのはホームゲームのみであるため、ホーム最終戦の神戸戦は、今シーズン限りでの現役引退を発表した兵働昭弘が“勝ちロコ”をする最後のチャンスとなる。

 2005年に筑波大学から清水へ加入した兵働は、2010年まで6シーズン所属。その後は柏レイソル、ジェフユナイテッド市原・千葉、大分トリニータ、水戸ホーリーホック、ヴァンフォーレ甲府と5クラブを渡り歩き、今シーズン、再び清水に復帰した。14年間のプロ生活について、「正直、よくここまでできたなと思う」と口にしたのは、筑波大の小井土正亮監督だ。兵働とは付き合いが長く、彼が筑波大在学中に大学院生として指導に当たり、2005年からは長谷川健太監督体制下の清水でコーチとしてともに戦った。同監督いわく、彼の選手生命を支えたのは「賢さ」だという。

「身体能力がずば抜けていたわけではないし、スペシャルな武器があったわけでもない。でも、本当に賢くて、監督やチームメイトが求めていることを察知する能力は昔から抜群だった。彼を見て、“チームを勝たせる選手”とはこういう選手だ、と感じた」

 前節終了時点でJ1、J2合わせて375試合出場、22得点。決して派手なタイプの選手ではないが、複数のポジションを高いクオリティでこなし、視野の広さとゲーム展開を読む力をもってそれぞれのクラブで指揮官やチームメイトの信頼を勝ち得てきた。それはピッチ外でも変わらず、2005年〜2010年と今シーズン、清水でチームメイトとなった西部洋平は、次のように語る。

「兵働は“両方”を持っている。周りの空気をピリッとさせる力と、笑わせて和ませる力。それに、誰に対してもオープンだから、若い選手が兵働に話しかけに行く姿もよく見かける。それは俺も含めて誰にでもできることではないし、人間的にも素晴らしいということ」

 実際に若手の声を聞いてみると、今シーズン、公私で多くの時間をともに過ごしたという石毛秀樹は、「ヒョウさんは年の離れている僕らと話す時、僕らの目線に立ってくれる人。本当に優しくて、尊敬できる」とよく慕っている。

 そういえば、よく印象に残っている兵働の姿がある。試合中、特にCKを蹴りに行く際に、自チームのサポーター側のスタンドを両手で煽る場面。あれも、サポーターの目線に立ち、「今のチームの必要」と状況判断しての行動だったのだろう。

 プロ入り時、複数のクラブから注目されながら清水を選んだのは、前年の2004年に残留争いに巻き込まれたチームを見て、「自分が浮上のきっかけの一つになれればいいと思った」からだった。そして今シーズン、再加入を決意したのも、自身がチームに還元できるものがあると感じたからだ。今年2月、兵働はある抱負を口にしていた。

「以前、僕がエスパルスにいた時は、(IAIスタジアム)日本平で試合をする時、サポーターからすごくパワーをもらったし、負ける気がしなかった。でも、今は負け癖がついてしまっていると思う。やっぱりホームで勝てないのはエスパルスにとって良くないので、今年はチームとして雰囲気や精神面から変わっていければいい」

 シーズン序盤はやはりホームで苦戦したものの、第11節の柏戦で勝利を挙げると、ここまでのリーグ戦では7勝3分6敗と白星が先行。直近は3連勝中で、若い選手たちからも「ホームで負ける気がしない」という声が聞こえるようになってきた。兵働も「今は、選手たちが『勝てるだろう』という雰囲気の中でプレーできていると思うし、サポーターの方たちも『必ず勝ってくれるだろう』と思いながら見てくれていると思う」と変化を感じ取っている。

 躍進の原動力となった若手選手たちの成長に、兵働は二重に貢献している。現在、トップチームに所属するアカデミー出身選手たちは、兵働が中心選手として活躍し、毎年のように上位争いを繰り広げていた2010年までの時期を間近で見て育っている。その影響もあってか、「自分たちの力でクラブを強くする」と強いクラブ愛を自覚し、言葉に発する選手が増えてきた。西部は「間違いなく、チーム全体が良い方向に向かってる」と言う。

 そして今シーズン。リーグ戦のメンバーがほぼ固定されていた中、悔しい思いを募らせた選手は多く、兵働もその一人だった。しかし、彼らベテランが「本当にストイックにサッカーに打ち込んでいる」(石毛)姿を日々見せることで、チームの和が乱れることなく、一体感を保ち続けた。「練習から一つひとつのプレーにこだわりを持つこと。そこで人との差をつけること」。兵働には、長いサッカー人生でどんな状況でもこれを意識し続けてきた、「芯の強さがある」(西部)。

 チームメイトやファン・サポーターから愛された兵働のホームラストゲームで“勝ちロコ”をする意義は、彼が“勝ちロコの”の歴史に携わる人だという理由もある。2009年、当時キャプテンだった兵働がサポーターと選手の間をつないだことから、選手も参加しての“勝ちロコ”が始まり、定着していった。ここ最近は選手たちが自分の子どもを参加させるなど、より自発的に楽しみ、それを温かく見守る空気がスタジアム全体に流れている。兵働はそんな変化を喜び、さらなるチームの成長とクラブの発展に期待を寄せている。

「僕は今シーズンももっと順位を上げられたと思っているし、もっと高みを目指さないといけない。やっぱり常に上位争いをして、タイトルを取って、ACLにも出られるような、そういう常勝軍団になっていってほしい」

「それに……お客さんが『また観に来たい』と思ったり、『エスパルスが生活の一部だ』と言ってくれる人がもっと増えるような、魅力あふれるクラブになっていってほしい」

 この望みから、彼がこれまでどのようにしてクラブに関わる人やファン・サポーターと接してきたのかが垣間見える。清水で現役生活にピリオドを打つことにこだわった。「僕はエスパルスで、良い思い出しかないから」――。たくさんの愛情をクラブに注いでくれた彼のためにも、「兵働と“勝ちロコ”を」。この合言葉を神戸戦で実現し、花道を笑顔で飾りたい。

文=平柳麻衣

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