【ライターコラムfrom甲府】歯車のズレ、過密日程…来季J1復帰へ過酷な1年で得たものとは?

【ライターコラムfrom甲府】歯車のズレ、過密日程…来季J1復帰へ過酷な1年で得たものとは?

J2最終戦後、サポーターと一緒に ?J.LEAGUE

 2018年のヴァンフォーレ甲府を象徴するような、シーズンの終わり方だった。11月21日に開催された天皇杯準々決勝。甲府はAFCチャンピオンズリーグ王者・鹿島アントラーズと対峙していた。

 0−0で迎えた75分。甲府は曽根田穣がエリア内へ仕掛けて、昌子源と競り合う。曽根田はコンタクトプレーで傷み、プレーに戻れない。しかしセカンドボールを回収した甲府は、数的不利の中で攻め続ける。先制の絶好機であり、なおかつ失点の危機でもあった。

 選択は裏目に出た。試合後の記者会見で上野展裕監督はこう振り返っていた。

「我々はボールを外に出すチャンスもあったんですけれど、そこで少し持ちすぎたために、3人くらいが置き去りになって、ゴールまで運ばれた形でした」

 ベテランのMF小椋祥平はこう悔いていた。

「自分たちが人数を掛け過ぎていた。人数をかけずやり切ることが大事だったと思うし、ファウルで止めるプレーも必要だった。そういうところが甘かった」

 鹿島もブラジル人トリオをベンチに残して「終盤に仕留める」ゲームプランだったが、後半30分間までの流れは甲府優勢。コンパクトな守備組織を構築しつつ、サイドからの崩しも狙い通りに出していた。しかし鹿島は甲府の隙を見逃さず、見事なカウンターから土居聖真が決勝ゴールを挙げる。甲府は0-1で敗れて天皇杯、そして今季の戦いを終えた。

「行けそうだな」と思って、前のめりになると、ズッコケる……。そんなシーズンだった。

 2017年の甲府は、サンフレッチェ広島と勝ち点1差でJ1残留を逃した。吉田達磨監督は交代せず、2018年のJ2でも指揮を執った。しかし今季は開幕から1敗2分とスタートダッシュに失敗し、歯車がズレていく。大宮アルディージャ、FC町田ゼルビア、東京ヴェルディという3連戦の相手は今思えば難敵揃いだった。「勝てそうで勝ち切れない」「ギリギリで勝ち越される」「ギリギリで追いつかれる」といった展開が続き、2勝4敗5分の苦境下で4月末に吉田監督はクラブを去った。

 上野体制下で迎えた5月は4勝1分と「V字回復」を見せ、J1復帰への流れに乗れていた時期もある。ただ甲府はもう一伸びが出来ず、J1の昇格争いに最後まで絡めなかった。最終順位は9位。16勝11分15敗で、勝ち点59は6位・東京ヴェルディと12ポイントの大差だった。

 一方でポジティブな要素もあった。天皇杯では清水エスパルス、セレッソ大阪を下した。ルヴァンカップもJ1勢3チームと競り合いってグループステージを勝ち抜き、プレーオフでは浦和レッズを退けた。「格上相手に良い試合をする」のはJ1時代から甲府が持つカルチャーだが、それが非常によく出たシーズンだった。

 ただしJ2からルヴァンカップに参加したのは甲府とアルビレックス新潟の2クラブのみ。週中に開催されるグループステージはまだ小さな負担で済んだが、プレーオフ、準々決勝と勝ち上がるにつれて日程面の「ひずみ」は強まった。甲府は第17節・新潟戦、第18節・ツエーゲン金沢戦、第32節・大宮アルディージャ戦はいずれも週末から水曜日に開催がずらされた。

 上野監督は苦言を呈する。

「過密日程はいいですが、J2のチームだけが中2日でJ1は1週間空いていたことがあったし、J2の中でも甲府が中2日で、1週間休んだ相手と戦ったこともある。そういう不公平さはキツかった。日程がタイトになれば選手に負荷はかかります。それでケガをした選手も多かった」

 今季の甲府はリーグ戦を42試合、ルヴァンカップを10試合、天皇杯を4試合戦った。「56」という公式戦の試合数は、鹿島アントラーズに次ぐ数だ。お客がお金を払って見に来るプロの試合である以上、勝利を求めず臨むこともあり得ない。J2から2クラブだけがルヴァンカップに参加する仕組みは、甲府にとって過酷なものだった。DF湯澤聖人、MF新井涼平、MF島川俊郎、FWジュニオール・バホスと主力の長期欠場が相次いだのも、この日程と無縁ではない。

 キャプテンのDF山本英臣は鹿島戦のピッチに立たなかったが、試合後はどうしても彼の話を聞きたかった。彼が目の前の試合だけでなく、「クラブの未来」を真剣に考えている選手だからだ。敢えて今季の“収穫”を聞いたのだが、彼はこう答えてくれた。

「今年は特に若い選手を中心に、試合に出ることですごく伸びたところもある。逆に『もっとこうして行かなければいけない』という課題を得られたことも大きい」

 今季の甲府はDF小出悠太、DF今津佑太、MF道渕諒平、MF曽根田穣といった生え抜きの若手が多く出番を得て、持ち味を出した。MF佐藤和弘、MF小塚和季も含めて20代の選手がチームの中心となり、ベテラン頼みの体質は刷新された。

 城福浩元監督、吉田元監督らが築いた堅守のカルチャーは良くも悪くも甲府の色となっているし、チームの「ベース作り」も決して疎かにはなっていない。上野監督も今季での退任を発表したが、そこは来季以降に引き継がれる部分だ。

 山本はこう口にする。

「上野さんがやりたいことは、(試合に)出ている選手たちがやっていると思う。DFラインからのビルドアップに関して『どう入口を見つけるか』というところは、(吉田)達磨さんが植え付けた。そこは監督が変わっても積み上がっている部分。結果が伴わなければいけないだけど、ベースは自分たちの中に今後も残っていくものじゃないかと思います」

 甲府はJ2の中でも「ビッグ」とは言い難い経営規模で、サッカーの中身が伴わなければJ1復帰も不可能だ。もちろんベース「だけ」で結果は出ない。連携や質を上げるにせよ、プレーの強度を追求するにせよ、相手の研究を深めるにせよ、「プラスアルファ」が必要なことは皆さんもこの1年で痛感しただろう。ただ心身ともに過酷な1年を経て得たものは確実にあるし、希望を失う必要もない。それが2018年のシーズンを終えた今の実感だ。

取材・文=大島和人

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