【コラム】偉大な父を追い越すために…フィレンツェの至宝・キエーザに迫り来る“決断の時”

【コラム】偉大な父を追い越すために…フィレンツェの至宝・キエーザに迫り来る“決断の時”

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 2018−19シーズンのセリエAが閉幕した。ユヴェントスの8連覇達成は、開幕前に多くの人々が予想した通りの結果となった。一方、期待を大きく裏切ったのがフィオレンティーナ。第7節終了時には3位に位置し、好調なスタートを切ったものの、第24節のSPAL戦を最後に勝利に見放され、それ以降は勝利をたぐり寄せることは一度もできず。とりわけ、ステファノ・ピオリ監督が辞任し、ヴィンチェンツォ・モンテッラ監督が就任してからの第32節以降は、5連敗を喫するなどさらに調子を下げ、終わってみれば16位とかろうじて残留を決めたほどの散々な体たらくだった。

 想定外の失速に、チームの若きエース、フェデリコ・キエーザも困惑を隠せないでいた。0−1と敗れた第35節、エンポリとのトスカーナ・ダービーを終えたあと「良いスタートを切った1年をこのように終えるなんて正しいものではない」とただ嘆くしかなかった。その後のミラン戦、パルマ戦にも敗れ、最終節のジェノア戦に負ければ降格の恐れもあったが、引き分けに終わり、かろうじて降格は逃れることとなった。

 3年目のキエーザは今シーズン、チーム最多の37試合に出場。コッパ・イタリア準々決勝のローマ戦ではハットトリックを決めるスーパーパフォーマンスを見せ、リーグ戦では昨シーズンと同じ6得点を挙げた。センターフォワードのジョヴァンニ・シメオネが決定機を多く外したことでアシスト数は伸び悩み、 17−18シーズンより2つ少ない数字に終わったが、それでもチーム最多の7をマークしている。また、今シーズンは副キャプテンを務め、昨年11月25日の第13節ボローニャ戦では初めてゲームキャプテンとしてピッチに立った。クラブが創設した1926年に19歳で主将を担ったゼランテ・サルヴァトリーニに次ぎ、2番目に若いキャプテンが誕生した瞬間だった。

■移籍先の最有力候補は……

 イタリア代表としても11試合の出場数を誇るが、まだ21歳と若く、6月15日に開幕するU−21欧州選手権の出場資格を持つ。すでにフィオレンティーナの中心選手として存在感をいかんなく発揮しており、チームにとって必要不可欠な選手であることは誰の目にも明らかだ。しかし、キエーザに関しては、移籍の話が絶えない。触手を伸ばしている本命、それはユヴェントスだ。昨夏にも移籍の話が連日報じられてきたが、今夏はより現実味を帯びてきている。シーズンが終わったと当時に、ユーヴェ贔屓のスポーツ紙『トゥットスポルト』は、「7000万ユーロ(約85億円)にトレード要員」という破格のオファーを準備していると報じた。アントニオ・コンテが新監督に就任したインテルも獲得に動いていると見られるが、ユーヴェほどの好条件を提示できるかは疑問だ。

 経営破綻により強制降格したのち、セリエAに復帰した04−05シーズンと同じ16位に終わったフィオレンティーナには身売りの話も浮上している。ジェノアとの最終節直前には、カラーブリア生まれで、アメリカ市民権を持つ、実業家のロッコ・コンミッソによるクラブ買収の話が持ち上がった。ケーブルテレビやインターネット事業を展開し、NASLの2部リーグに所属するニューヨーク・コスモスを所有する。セリエA残留を条件に、1億5000万ユーロ(約182億円)を上回る額が支払われ、デッラ・ヴァッレ・ファミリーは経営陣から退くと報じられた。だが、コンミッソが本来秘密事項であった条約を漏らしてしまったことで、現オーナーのデッラ・ヴァッレ・ファミリーが憤慨。一時は、売却でまとまりかけた交渉も、先送りになる可能性が指摘されている。フィオレンティーナ買収に関心を抱いているのは、コンミッソだけではない。アルゼンチンの富豪、エドゥアルド・エウルネキアンやクウェート、カタールの投資会社も上がっており、フィオレンティーナの将来は誰の手に委ねられるのか不透明となっている。

 フィオレンティーナが目指すべきところは本来、最低でもヨーロッパリーグ出場権獲得だろう。それが、残留争いの渦に巻き込まれてしまったのだから、サポーターの心情も穏やかではない。フィレンツェは、芸術の都。ルネッサンスが花開き、多くの芸術家を輩出し、一時代を築いた町だ。その末裔たちは、誇り高く、世界有数の美しい町のクラブに対しても計り知れない愛を持っている。チームの成績がふるわない中で、エースが放出となれば、黙っているわけにはいかないはずだ。しかも、その移籍先がユヴェントスと聞けば、腸が煮えくり返る思いだろう。

 フィオレンティーナは、ユーヴェと古くからライバル関係にあり、至宝ロベルト・バッジョを“強奪”された経験を持つ。最近では、もう一人のフェデリコ、ベルナルデスキをユーヴェに引き抜かれている。キエーザのユーヴェへの移籍オペレーションに対しては、ファンからの相当な反発があると予想される。そう簡単にはことが運ばないだろう。けれでも、フィオレンティーナはキエーザにとって、今いるべき居場所であるとは決して言えない。チャンピオンズリーグどころかヨーロッパリーグにも出場できず、残留争いを強いられたのだから。キエーザ本人のことを思うと、セリエA優勝を狙うことができ、チャンピオンズリーグに出場し、国際経験をより多く積めるチームでプレーすることが最良と言える。

■偉大な背中を追いかけて

 彼には、追い越さなければならない人物がいる。父、エンリコだ。サイドでプレーするフェデリコとセンターフォワードでプレーしたエンリコのポジションは異なるものだが、エンリコはサンプドリアに所属した25歳のときに22ゴールを記録。その5年後にもフィオレンティーナで22ゴールをマーク。イタリア有数のゴールゲッターとして名を馳せ、全盛期の得点力とキレは、バッジョやジュゼッペ・シニョーリにも劣らないものを持っていた。

「自分と父のスタイルは異なる。シュートに関しては、父のような凄さはない」とフェデリコは話す。エンリコの過去の映像を見る限り、決して謙遜とは思えないほど、まだまだ今のフェデリコとはシュートの破壊力、正確性、決定力については歴然の差があると言わざるを得ない。それだけ父、エンリコは偉大なプレーヤーであった。フェデリコにとって、その背中はまだまだ遠い。

 カルチョ・メルカートは7月1日に開幕となるが、これからキエーザの移籍にまつわる情報は日々、アップデートされていくこととなる。特定の代理人を持たないキエーザは、将来については、代理人的な役割を持つ父、エンリコからも当然、アドバイスを受けることとなるはずだ。タトゥーに関心がなく、イタリア人が好きなディスコにも背を向け、今は恋人もいない、サッカーだけに心血を注ぐフェデリコ。残留か、移籍か。果たして、去就はどうなるのか。今年も熱い夏の移籍市場が、1カ月後に始まる。

文=佐藤徳和/Norikazu Sato

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