松本山雅の選手が背負った“松田直樹・3”…飯田真輝「マツさんという偉大な選手がいたから」

松本山雅の選手が背負った“松田直樹・3”…飯田真輝「マツさんという偉大な選手がいたから」

8月4日、松本山雅の選手たちは“3番”を背負い、試合に臨んだ [写真]=金田慎平

「8年前の出来事は松本山雅というクラブにとって大きな出来事だった。僕は重要な転換点になったと捉えています。マツさんという偉大な選手がいたからこそ、今の山雅がある。そういう感謝の意味を込めて、今日はしっかりとした戦いを見せたかった」

 夜にもかかわらず気温30度という猛暑に見舞われた8月4日の等々力競技場。J1王者・川崎フロンターレの本拠地に乗り込んだ松本山雅の選手たちは「松田直樹・3」と書かれた練習着を身にまとい、ウォーミングアップを行って決戦への士気を高めた。飯田真輝は2011年8月2日、松本市梓川のグランドで松田直樹さんが倒れた瞬間、一緒に練習していた今の山雅唯一の選手だ。今も年2回の墓参りを欠かさないほど、先輩に強い恩義を感じている。それだけに、命日の大一番に対する思いは特別だった。

「やっぱり3番のシャツを着てアップすることで、ウチのサポーターがマツさんことを話せるのが一番大きいと思うんです。サポーターの中には昔を知っている人もいますし、知らない人もいる。それは選手も同じ。山雅に関わるみんなが5年後、10年後も語り続けてほしいと僕は思います。マツさんがいれば山雅はもっとデカいクラブになってたかもしれないけど、後を引き継いだ自分たちは責任を持ってやらなきゃいけない。そんな気持ちになりましたね」と背番号4は自身に大きな影響を与えた偉大なDFに思いを馳せた。

 そんな彼はまるで松田さんが乗り移ったかのような闘争心あふれるパフォーマンスを前面に押し出す。松本山雅は前半から一方的にボールを押し込まれ、自陣に引いてブロックを作る時間が長くなったが、飯田は最前線に陣取る知念慶をフリーにさせなかった。ゴールをこじ開けられない川崎は後半に入ってからレアンドロ・ダミアン、小林悠と温存していた攻撃カードを次々と切ってきたが、それでも守備陣は最後までひるむことなく相手を零封。勝ち点3こそ取れなかったものの、アウェイでJ1王者から奪った勝ち点1を松田さんに捧げることができた。

「知念選手がいる間は、彼が空けたスペースに他の選手が入ってくるから、そこをボランチに埋めてもらうことを徹底させました。ダミアン選手の場合は自分の前から逃げてファーに行った時は左の浦田(延尚)に任せて、小林悠選手が入ってくる場合はボランチに埋めてもらうという形で、守り方を使い分けました。ラインが下がって11人全員で守備をしているような感じになりましたけど、普通に前からボールを取りに行って勝負してたら崩されていたと思う。結果的に勝ち点1を拾えたので、そこはプラスに捉えてます」と飯田は2週間がかりで刷り込んできた守備戦術が的中したことを素直に喜んだ。

「まるで松田がプレーしているみたいように見えたが」と水を向けると「いやいや、マツさんはもっといい選手ですよ。足元でつなげますからね」と苦笑いを見せた。

「お前はもっとやれる」「お前はボンバー(中澤佑二)みたいにになれるんだ」と常日頃からハッパをかけられていたことは、飯田の脳裏に深く刻まれている。身近にいたハイレベルな存在に近づきたいという意欲とモチベーションは、間もなく34歳になろうという今も変わることがない。

 飽くなき向上心を胸に秘める男が目指すのは、J1残留だ。今季のリーグ戦は残り13試合。目下16位とギリギリのところにいる松本山雅は今後、さらなる厳しい戦いを強いられるだろう。

「8月の清水、名古屋、浦和、大分との試合がありますけど、最低2回は勝たなきゃいけない。次の清水戦は勝ち点3を取りに行く必要があると思ってます。そのためにも、僕ら守備陣が失点を減らすしかない。それが残留への一番の近道ですから」と飯田は自らに言い聞かせるように話していた。

 カギを握るディフェンスラインは、ケガで長期離脱していた浦田が復帰したのに加え、キャプテンの橋内優也も今月中には戦列に戻る予定で、さらには元日本代表の水本裕貴のレンタル加入も決定。ポジション争いはより一層激化しそうだ。とりわけ、水本は反町康治監督の北京五輪代表時代の秘蔵っ子。今季はサンフレッチェ広島で出場機会に恵まれていなかったが、J1優勝経験のあるベテランと飯田には、いち早い融合が求められてくる。

「北京世代のエリートと雑草ですね(苦笑)。ソリさんは東京ヴェルディに強化指定で来ていた俺を見に来てすぐ帰ったらしいけど、水本君は五輪に行ってますからね。僕自身はあんまり彼のことをよく知らないけど、経験豊富な選手であることは間違いない。チームがよくなることは確かなんで、一緒にうまくやっていきたいです」

 新たな仲間とともに強豪相手に失点を許さない鉄壁の守備組織を構築することを、松田さんも強く願っているはず。2010年から山雅で生き抜く大ベテランは今後も全身全霊を込めて戦い続けていく。

文=元川悦子

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