【コラム】“野心”を抱くバロテッリとともに…昇格組ブレシア、8季ぶりのセリエAで躍進なるか

【コラム】“野心”を抱くバロテッリとともに…昇格組ブレシア、8季ぶりのセリエAで躍進なるか

今夏、ブレシアに加入したバロテッリ [写真]=Getty Images

 ブレシアが8シーズンぶりにセリエAに帰ってきた。ロンバルディーア州の一地方クラブに過ぎず、セリエA優勝経験がないどころか、チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグの出場権を得たことすらないクラブだが、イタリアのサッカー史を語る上で欠かせないクラブである。なぜなら、“東欧のマラドーナ”の異名を持ったルーマニアの英雄ゲオルゲ・ハジ、稀代のレジスタとしてイタリアを代表する選手となったアンドレア・ピルロ、世界最高の指導者となったジョゼップ・グアルディオラ、そして、“イタリアの至宝”ロベルト・バッジョが所属したクラブであるからだ。特にバッジョに関しては、現役最後の2004年までの4シーズンをこのブレシアでプレーし、ビアンカッズーリ(ブレシアの愛称)のユニフォームを纏ってその勇姿をサポーターたちの目に焼き付けた。

 ブレシアのサポーターは熱狂的で知られている。2003年9月21日、私は、ブレシア対レッジーナの一戦を本拠地スタディオ・マリオ・リガモンティで観戦した。バッジョがPKを外した一方で、レッジーナの中村俊輔がFKとPKからネットを揺らし、4−4の引き分けに終わるという壮絶な試合だった。試合後のホテルへの帰路、バスの中で思いもよらぬことが起こった。満員の車内で、ブレシアの若いサポーターたちが、引き分けにも関わらず凱歌を歌い始めたのだ。さらに、サポーターはジャンプをしはじめ、バスは横転するのではないかと思うほど大きく左右に揺れた。運転手は、対向車線ですれ違ったバスの運転手に対し「やれやれ、まただよ」というような呆れた顔を見せていたが、この瞬間は私にとっては、合計8回もネットを揺らしたどのゴールよりも鮮明に記憶に残っている。忘れられない光景だった。

■転機

 セリエA昇格は、昨年の今頃には誰もが期待しなかった結果だ。というのも、17−18シーズンは15位と残留を争うチームだったからだ。この年だけではない。10−11シーズンを最後にセリエAを離れてから、セリエBで昇格争いに絡んだのはわずか1度。12−13シーズンに6位に滑り込んでギリギリ昇格プレーオフ出場権を得たことが1度あっただけだ。それ以外の7年を振り返ると、かつて在籍した英雄たちもあまりの不甲斐なさに地団駄を踏みたくなるような、そんな酷い成績ばかりだった。とりわけ14−15シーズンは、散々たる1年だった。会計不備や給与の未払いがあったことで、勝ち点6が剥奪された厳しい1年であったが、22チーム中20位に終わり、1度は降格が確定。パルマの破綻によってセリエBに留まることを許され、救われる形となったとはいえ、もはやセリエBですら戦い抜く力は残されていなかった。

 状況が一転するのは2017年。会長職にマッシモ・チェッリーノが就任してからだ。イタリア人実業家で、かつてカリアリの会長を務めた人物。2013年に公金横領罪と偽証罪に問われて逮捕され、カリアリを手放すことを余儀なくされたが、その後、イングランドのリーズを買収して名を広めたあのチェッリーノである。2017年3月にリーズの経営権から離れたが、その10月にはブレシアの会長に就任。すぐに改革に着手し、新たなトレーニングセンターを建設した。さらには、スタディオ・マリオ・リガモンティの改築にも取り掛かり、老朽化されていたスタジアムはモダンなスタイルに一新されている。

 ただ、積極的な補強を行った18−19シーズンも開幕ダッシュとはいかず、不穏なスタートであった。開幕から3試合を2分け1敗で終えると、この夏から指揮を採っていたホンジュラス人のダビド・スアーソ監督は解任。後任にはキエーヴォやパレルモで活躍し、指導者としてもこの2つのクラブを率いた実績を持つエウジェニオ・コリーニが招へいされた。すると、この監督交代劇が功を奏す。徐々に調子を上げ前半戦終了時には2位にまで浮上。後半戦はチッタデッラ戦の1試合に敗れただけで、第22節以降首位を堅守しながら最終節まで駆け抜けた。「セリエA復帰を望んでいるが、急ぐことはしたくない。目標を達したらそこに長く留まりたい。脇役を演じることはしたくないんだ」と会長就任当時には控えめなコメントを残していたチェッリーノにとっても望外の喜びとなった。

■期待の逸材、そしてビッグネームの獲得

 このシーズン、ブレシアはリーグ最多の69得点を記録。その攻撃的なチームを牽引したのが、アルフレード・ドンナルンマだ。17−18シーズンにはエンポリに所属し23ゴールをマーク。セリエA昇格に貢献したものの、ブレシアによって170万ユーロ(約2億円)という破格の安さで買い取られた。180センチと飛び抜けた高さがあるわけでもなく、スピードも突出したわけではないが、ディフェンスラインの裏への抜け出しに長け、ゴール前の嗅覚に優れるストライカー。昨シーズンは25得点を奪いセリエB得点王のタイトルも獲得した。28歳にして、満を持して初のセリエAに挑む。

 そして、この10代の存在を忘れるわけにはいかない。バッジョやピルロといったファンタジスタの系譜を継ぐサンドロ・トナーリ。19歳ですでにイタリア代表の招集を経験している、将来を嘱望されているMFだ。17−18シーズンのセリエB最優秀選手に選出されるなど、素晴らしいキャリアを歩んでいる。ビッグクラブからの噂も後をたたないが、クラブ生え抜きで違いを生み出せる選手だけに、サポーターは気を揉みながら移籍市場が終わる8月31日まで、ただただ残留を願うだけだ。

 ブレシアは今夏のテストマッチで、ベシクタシュや元ブラジル代表FWロナウドがオーナーを務めるバジャドリードに勝利を収めるなど、好調な仕上がりを見せていた。しかし、今シーズン初の公式戦となった18日のコッパ・イタリア3回戦ではマッシモ・オッドが指揮するセリエBのペルージャに、延長戦の末に1−2で敗れてしまった。

 だが、ほろ苦い一日となった同日、クラブはビッグネームを手に入れていた。マリオ・バロテッリだ。ブラジルの名門・フラメンゴもオファーを出していたが、ブレシアが争奪レースを制した。マルセイユとの契約が満了となったため移籍金は発生しないが、年俸は300万ユーロ(約3億5000万円)にボーナスが加わるもの。ブレシアのような残留を争う規模のクラブにとっては破格の報酬だ。チェッリーノ会長の本気度が伺える。けれども、バロテッリがこのクラブを選んだ要因は金銭的なものだけではないようだ。「俺の町に帰ってきた」。そう、クラブと同名のこの地は、バロテッリが生まれ育った町なのだ。

 クラブ公式ストアにはすぐに、年間シートを買い求めるサポーターの列ができた。大物の獲得に地方都市の町は騒然。いきなりバロテッリ効果があらわれる形となった。慣れ親しむ「45」を新天地での背番号に選択したバロテッリは、「ブレシアの名前が出てきたときから、それ以外のクラブのことは、もはや頭になかった。恐れ? そんなものは全くないな。あなたたち記者の方が、俺よりも恐れているんじゃないか?」と町への強い愛を示すとともに、バロテッリ節も炸裂した。

 8月12日には29歳の誕生日を向かえ、故郷の地で20代最後の1年をプレーすることになったバロテッリ。「俺の目標はユーロに出場することだ。(ロベルト)マンチーニが監督を務める前は、自分がどうプレーしようが、代表招集には関係なかった。だが今は、自分のプレー次第だ」と代表復帰の野心ものぞかせている。

 人々の期待は大きいが、それに応えることができるだけの能力は持っている。当然、上位進出、ヨーロッパカップ戦出場権獲得がバロテッリの目標となるはずだ。いつの日か「バロテッリが所属したクラブ」として人々の記憶に刻まれるように。

文=佐藤徳和/Norikazu Sato

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