日本が優秀なGKを育てるためには何が必要なのか?「ファン・デル・サルは12歳、レーマンも11歳までは…」

日本が優秀なGKを育てるためには何が必要なのか?「ファン・デル・サルは12歳、レーマンも11歳までは…」

ヴェンゲル政権時代のアーセナルで15年間にわたりGKコーチを務めたペイトン氏(左)。現在は日本でGK育成に熱意を注ぐ。(C) Getty Images



 ジェリー・ペイトンは、2003年から15年間に渡りアーセン・ベンゲルが率いるアーセナルでゴールキーパーを指導し、03-04年シーズンのプレミアリーグ初めての無敗優勝やFAカップ4度制覇、さらには欧州チャンピオンズ・リーグ決勝進出などの快挙を支えた。

 そんなペイトンが、日本のGKの育成環境を見て是非改善するべきだと感じるポイントがいくつかある。

 まず多くのアカデミーが人工芝のピッチを導入し、一方で依然として土のグラウンドでプレーする子どもたちが多いという現実だ。

「GKにとって大切なのは100%正しい技術を身につけることだ。プレミアリーグのアカデミーは全て天然芝でトレーニングをしているし、それがGKを育成するにはベストの環境だと言える。人工芝ではセーブして着地すると、身体の大きさに関わらず誰もがコンクリートに叩きつけられるように大きな衝撃を受ける。また日本の土のグラウンドには小石も混じっている。セーブする度に肩、腕、尻に痛みを覚え、繰り返せば無意識のうちにそれを避けるようになる。これでは正しい技術を習得することはできない」

 日本の現場で時折目にするのが、プールに飛び込むような恰好でダイブするGKだという。
「身体はボールに正対しているべきなのに、横を向いてダイブしてしまっている。正面を向いていれば、脇の力で腕の位置も修正できてキャッチが可能になる。そしてキャッチング能力が高まれば、チームが勝利する確率も高まる。多くの人たちは、ダイブしてセーブすればOKだと思っているかもしれないが、それでは相手のCKになる。逆にそういう場面でキャッチができれば、シーズンを通して考えれば物凄く大きな違いが出てくる。こうして些細なことを修正するだけでも、GKも育成は大きく変わってくる」

 ペイトンは兵庫県の淡路島を活動拠点とする相生学院高校(定時制)サッカー部のアドバイザーを務めているが、同校は2002年日韓ワールドカップの際にイングランドが合宿をしたピッチ等を利用可能で、天然芝や近くの砂浜でのトレーニング環境が整っている。
 

 また将来GKになる選手でも、出発点ではフィールドプレーヤーを経験しておくべきだと指摘する。

「私の息子は4歳からサッカーを始め、最初からGKをやりたがっていた。でも私はスクールのコーチに、最初はフィールドでプレーをさせるように頼んだ。ファン・デル・サルは12歳までセンターバックをやっていたし、レーマンも11歳まではトップ下でプレーしていた。少なくとも8歳くらいまでは、サッカーという競技を理解することが大切なんだ。そのためにはフィールドを走り回りながら試合というものを学んでいく方がいい。私の息子は13歳になり、GKとして少しずつ成長しているところだ」

 一方で若年代での勝利至上傾向が、メンタル面の成長に悪影響を及ぼしていると考える。
「トレーニングで一番大切なのは、自分のポジションでのプレーを楽しむことだ。そのためにコーチは、端的に目的を伝えていく必要がある。例えば、ストライカーなら最初はゴールを奪うとか……。楽しめば自然と判断も速くなっていくものだ。逆にコーチの役目は、いかにシンプルなトレーニングを組み立てられるか、になる」

 育成年代のコーチは、チームの勝利より個々の成長に焦点を当てて仕事をする。これはイングランドに限らず「欧州大陸全体に共通した認識だ」と言い切る。

「成長段階では、勝ったり負けたり、あるいは成功したりミスしたり、それらが全て当たり前の出来事なんだ。そして成長のためには、あまり勝敗を深刻に捉えるべきではない。勝って成長しないより、負けて成長する方がずっと良いわけだからね」

 そう話してペイトンは、さらに言葉を繋ぐ。
「先日息子がカップ戦決勝で負けて泣いていた。13歳で14個のメダルをもらうほど成功しているのにね……。もちろん選手は、どんな年齢でも勝ちたがるし、それは良いことだ。でもコーチにとって最も大切なのは、選手たちをどう成長させるかだ。日本では、特に若いGKに大きな心理的重圧をかけ過ぎる傾向がある。子どもの頃から、ミスをして負けると自分のせいだと考えるようになりがちだ。これが欧州だと、自分でミスをしても他のDFのせいにして捌け口にすることも多々あるのにね」
 

 欧米と日本の相対的な身長差は、それほど危惧していない。もちろん19歳男子の平均身長でトップのオランダに比べれば12センチほど小さいが、Jリーグに多くのGKを輩出している韓国とは3〜4センチほどの差しかない。

「日本はとても人口の多い国だし、日本人も少しずつ大きくなってきていて身体能力も悪くない。それよりまず正しい技術を教えて、憧れの対象になるようなGKを育てることが大切だと思う」

 ペイトン自身にも、多くの憧れのGKがいた。旧くは「黒クモ」の異名を取り、世界最高の名手と言われたレフ・ヤシン(旧ソ連)。20年以上も北アイルランド代表のゴールを守り、スパーズやアーセナルなどで活躍し続けたパット・ジェニングス。3度のワールドカップでイングランドのゴールを守り続けたピーター・シルトン。40歳でワールドカップを手にしたユベントスの守護神ディノ・ゾフ……。

「リオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドが現われれば、アルゼンチンやポルトガルの子どもたちは、みんなストライカーになりたいと願うだろう? それと同じさ。日本に世界に誇れるようなGKが誕生すれば、やりたいと思う子どもも増えるはずだよ」

 次回は難しく特殊なポジションだというGKの魅力について、ペイトンに語ってもらう。
(文中敬称略)

■プロフィール
ジェリー・ペイトン
1956年5月20日生まれ、英国バーミンガム生まれ。現役時代はバーンリーでキャリアを開始し、フルアム、ボーンマス、エバートン、ウェストハムなどで活躍。アイルランド代表としては33試合に出場し、90年ワールドカップのアイルランド8強メンバーのひとり。94年に引退後は指導者に転身し、95年〜97年に磐田、97〜98年に神戸、2018〜19年には清水で指導にあたる。アーセン・ヴェンゲルが指揮を執ったアーセナルでは、2003〜18年まで15年にわたりGKコーチを務めた。またイングランドでは、アストン・ビラのエミリアーノ・マルティネスを育てたのが最後の仕事だった。現在は兵庫県の淡路島を活動拠点とする相生学院高サッカー部のアドバイザーを務める。

※第3回に続く。次回は4月21日に公開します。

取材・文●加部 究(スポーツライター)

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