「フランクフルトに残る」と発言し、史上初のCL行きにも現実味。それでもヒュッター監督がボルシアMG行きを決断したワケ【現地発】

「フランクフルトに残る」と発言し、史上初のCL行きにも現実味。それでもヒュッター監督がボルシアMG行きを決断したワケ【現地発】

ボルシアMG戦の前にマルコ・ローゼと挨拶を交わすヒュッター(右)。 (C)Getty Images



 フランクフルトのファンにとって、4月13日は“暗黒の日”として刻まれたのかもしれない。アディ・ヒュッター監督がボルシアMG移籍を公表した日であり、2018年、当時指揮官だったニコ・コバチの翌シーズンからのバイエルン監督就任が公表されたのも同じ日だったのだ。

 今回のヒュッター移籍発表後には、フランクフルトサポーターから「なぜチャンピオンズ・リーグに出られるチャンスが大きいのに、ヨーロッパリーグ出場も危ないボルシアMGへ移籍するんだ。理解できない!」という反応が少なからずあった。それはそうだろう。過去に例がないほどの好調さでリーグを疾走し、とくに後半戦は28節終了時でバイエルンと並ぶ勝点を稼いでいたのだから。

 これ以上になくすべてがかみ合い、これ以上にない最高の成績で終えて、これ以上ない期待感を持って来季を迎えられると思っているのだから、ファンからしたらそれを手放す理由が思いつきようもない。

 それに、ほんの1か月前にヒュッターはこう発言していた。
 
「フランクフルトに残る」
 
 結果としてこの一言が騒動のきっかけになってしまった。2月下旬のことだ。フランクフルトのアディ・ヒュッター監督は当時すでに噂のあったボルシアMGへ移籍する可能性について質問されたテレビのインタビューで「うわさ話につきあうことは全くない。私は非常に居心地よく過ごしているフランクフルトとの契約がある。ディスカッションなどない」と回答した。

 その残留宣言から1か月後に移籍を表明したというわけで、ファンからすれば「フランクフルトでの成果すべてに感謝しているが、退陣劇は受け入れられない」と罵りたくなる気持ちは、わからないでもない。

 ボルシアMGはマルコ・ローゼのドルトムント移籍が早い段階で決まったおかげで、じっくりと後任探しに時間を使うことができた。一方で、4月というもうシーズン終了間際の段階で監督の移籍を受け入れ、ここから新しい指揮官探しをしなければならないフランクフルトは、相当のハンディを背負うことになった。これはつらい。
 

 ヒュッターは、過去の発言についてその後このように説明している。

「あの段階では新しい挑戦を探すというものは何もなかった。だが、そのあと今に至るまでには多くのことが起こり、状況は変わった」

 変わったこととは何か。ボルシアMGからの具体的なオファーが届いたこと、そして代表取締役のフレディ・ボビッチがフランクフルトから去ることが決定的となったことだろう。

 残留発言をした時期にヒュッターはボビッチの去就について次のようにも答えていた。

「私にとってだけではなく、クラブ全体にとって重要なことだ。フレディは落ち着きとオーラを持ち合わせている」

 ボビッチとヒュッター、そしてスポーツディレクターブルーノ・ヒュブナーは堅い絆で結ばれ、お互いがお互いの強みを出し合える関係性を築いていた。「フランクフルトでの共同作業は本当に素晴らしいレベルとクオリティがある」と称賛していた。

 そのふたりがクラブを去ることは、ヒュッターにとって大きな問題だった。ボビッチは古巣であるヘルタ・ベルリンのプロジェクトに関わりたいと熱望し、60歳のヒュブナーは契約満了で現役から一歩退くことを決意している。

「私をフランクフルトへ迎え入れ、信頼関係で結ばれていた人たちがいなくなってしまった」
 
 プレッシャーやストレスがあらゆる方向から押し寄せてくるブンデスリーガで監督としてチームをマネージメントし、メディアの前に立ち、ファンの期待に応えていくためには、自分が心から信頼できる後ろ盾が絶対に必要なのだ。

 シーズン途中に勝点が伸び悩み、来季のヨーロッパリーグにも出場できるかまだわからないボルシアMGではあるが、ここには長年確かな仕事を続けているマックス・エッベルという敏腕SDがいるのが大きい。例え1年間ヨーロッパの大会に出られなくても、2〜3年後を考えると、定期的にチャレンジできるチャンスを魅力的に捉えたのかもしれない。昔から自身のキャリアをしっかりと準備してきたヒュッターからしたら、考えに考えての決断だったのだろう。

「新シーズン新しい章をスタートするという決断は簡単なものではなかった。フランクフルトでは信じられないほど成功に満ち溢れ、インテンシブな3年間を過ごしてきた。そしてチームとともに今シーズンの最後を素晴らしい結果で終わらせたい」

 いずれにしても、決断は下されたのだ。フランクフルトのファンとしても、ここで自棄になったりして、クラブの歴史的な成果を支えることができなければ悲しすぎる。

 コバチ監督移籍の時も、当初はいろいろといわれていたが、ドイツカップで優勝へ導いたことで、今でもフランクフルトのファンはコバチのことを高く評価している。ヒュッター監督の移籍が発表された直後のボルシアMG戦には敗れ、アウクスブルクには勝利し、そしてレバークーゼンには敗れた。

 残り3試合で、5位ドルトムントとの勝点差はわずか1ポイント。4位を守りきるために、チームと、そしてファンとともに最高のラストスパートを成し遂げたい。

 筆者プロフィール/中野吉之伴(なかの きちのすけ)

ドイツサッカー協会公認A級ライセンスを保持する現役育成指導者。執筆では現場での経験を生かした論理的分析が得意で、特に育成・グラスルーツサッカーのスペシャリスト。著書に「サッカー年代別トレーニングの教科書」「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」。WEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)を運営中

 

関連記事(外部サイト)